〇神子の屋敷・朝
厳かな和風建築の屋敷。朝の光が差し込み、庭の池の水面をきらきらと輝かせている。
朱音は、部屋の縁側に座り、庭を眺めている。その姿は美しくも、どこか寂しげ。
朱音モノ『私は「神子」。鬼を統べる力を持つ一族の巫女だ。しかし、その力は呪いと引き換えだった。私の手は、鬼の血を引く者以外、誰も触れることができない。この孤独は、私の宿命だと思っていた』
朱音の部屋の襖が静かに開く。蒼が盆にお茶を乗せて入ってくる。
蒼「朱音様、お茶でございます」
蒼は朱音の前に盆を置く。その所作は優雅で、どこか儚げ。
朱音「ありがとう、蒼。いつも悪いのう」
蒼「いえ、これも私の務めですから」
朱音は蒼の美しい顔立ちを見つめる。
朱音(ああ、今日もため息が出るほど美しい…。病弱なところが、また愛おしい…)
蒼が盆を下げようと立ち上がった瞬間、ふらりと体が傾く。
朱音「蒼!?」
朱音は思わず手を伸ばすが、蒼の体に触れる寸前、手がピリリと痺れるような感覚に襲われる。蒼ははっとした顔で朱音から距離を置く。
蒼「申し訳ありません、少し目眩が…」
朱音「大丈夫か…? 顔色が優れぬようだが…」
朱音の脳裏に、蒼が熱を出して倒れる姿が浮かぶ。
朱音(触れて、熱を確かめてやりたい。傍で看病してやりたい。どうして、たったそれだけのことが…)
朱音は強く拳を握りしめる。
蒼「朱音様…?」
蒼が心配そうに朱音を見つめる。
朱音は寂しげな表情を隠し、気丈に振る舞う。
朱音「…いや、何でもない。休むがよい。私が薬湯を用意しよう」
蒼「しかし…」
朱音「これは命令だ。休め」
蒼は朱音の強い口調に、静かに頭を下げ、部屋を出ていく。
朱音は一人になり、再び庭を眺める。
朱音モノ『この屋敷で、私に触れることができる者は、ただ一人。鬼の血を引く者。そして、私の呪いを解く「結びの契り」の相手となる者…』
朱音が蒼の部屋に向かう。
〇蒼の部屋・昼
蒼は布団に横になり、苦しそうに息をしている。熱で顔が赤くなっている。
朱音は蒼のそばに座り、ただ見つめている。
朱音(こんなに苦しそうなのに…何もしてやれない…)
朱音はゆっくりと手を伸ばす。
朱音(ああ…ただ、触れたい…)
朱音の手が、蒼の額に触れようとした、その瞬間…
微かに蒼の体から、淡い光が放たれた。
朱音の指に、先ほどのような痺れはなく、じんわりと温かい熱が伝わってくる。
朱音(…触れた…!? なぜ…?)
驚きと戸惑いを覚える朱音。蒼は苦しそうにうなされながら、その光を放っている。
朱音モノ『…この光は、蒼の鬼の血の力…? もしや…蒼こそが、私の呪いを解く、唯一の存在…?』
ラスト: 蒼の額に触れたまま、朱音は目を見開く。熱を持つ蒼の体が、朱音の呪いを解き放つ。