P1(扉絵/1コマ)

大コマ:王城・沈黙の間。黒い水面のような床、中央に名帳の台。上方の天窓から落ちる一条の光。離れた位置に千歳と朔真。二人の間に細い遠拍ライン。名帳の見開きに〈榊 朔□〉。
T:第8話「沈黙の間・前篇」

P2(4コマ)

1 宰導が漆黒の巻物を掲げ、儀の詞(ことば)を唱える。
宰導:『本名(ほんみょう)を以(もっ)て、沈黙に印す。偽りは沈む。真は裂く』

2 近衛が式紙烏を梁に整列させる。
SFX:ぱさ…
官人(小声):『王の目だ』

3 名帳アップ。□枠が赤く淡光し、紙から低い呼吸音。
UI:〈名帳の声〉 SFX:とく…とく…

4 千歳、喉札に指。
千歳(心の声):(紙が——息を吸ってる)

P3(5コマ)

1 宰導:『榊 朔。前へ』
朔真、静かに進み、筆を取る。

2 筆先が□の上で数ミリ止まり、喉紋がビキとひび。
UI:喉砂 55→50%
SFX:ピシ…

3 朔真の視界に幻燈。——声のある朔真が剣を振り、群衆が喝采する夢景。
幻の群衆:『筆頭! 声をくれ!』
宰導(幻内):『書記など捨てよ。声は国に』

4 朔真、目を伏せ、小さく首を振る。
朔真(心の声):(違う)

5 千歳、遠くから壁を二拍。
SFX:トン トン
UI:遠拍ラインが少し濃く。

P4(4コマ)

1 宰導、冷笑。
宰導:『拍で助けるか。……だが“名”は一人で書け』

2 千歳、遠拍に新たなテンポ(二長一短)を混ぜる。
SFX:トン…トン…トン(短)
千歳(無声・口形):〈導〉

3 朔真、筆先を**□の左上**へ、**ほんの“点”**を置く。
SFX:と

4 名帳の紙が低く鳴る。
UI:名帳の声 SFX:う…
宰導(目を細め):『“楔(くさび)”……誰の筆だ?』

P5(5コマ)

1 回想フラッシュ(前話):千歳が御名札で**“点”**を置いた夜。
T(小):(痛くない位置に)

2 現在。千歳は離れた位置で空中に筆の形を作る——指先がかすかに赤く灯る。
千歳(心の声):(触れないなら、導くだけ)

3 朔真、筆を動かし一画目(縦)を自力で引く。
SFX:す…
UI:喉砂 50→48%

4 刀「月白」クローズ。名印の三画目の起点が灯る。
UI:名印 46→52%

5 宰導が杖を鳴らす。床の黒が波紋。
宰導:『誘惑(ゆうわく)を深くしてやれ』

P6(4コマ)

1 千歳の前に幻。王都の静かな書庫、安全な暮らし。父の声(幻):『もう、北へ戻らなくていい』

2 幻の机には白薔薇の刺繍の布。
幻の友:『あなたは“穏やか”を選べるのよ』

3 千歳、微笑して白薔薇の刺繍を指で撫で——指先を刺す。
SFX:ちく
千歳(小声):『薔薇は刺がある。——私は刺す方も選べる』

4 千歳、壁に二拍+短で返す。
SFX:トン トン トン(短)
千歳(無声):〈在雪・遠〉

P7(4コマ)

1 朔真側の幻が揺らぎ、喝采が黒い紙片に崩れる。
SFX:ぱら…

2 朔真、筆を続け二画目(横)。喉がきしむ。
UI:喉砂 48→46%
SFX:ぎ…

3 刀身の名印が太る。
UI:52→56%

4 宰導、苛立ち。
宰導:『……書記官、そなたは近づくな。拍も禁ずる』

P8(5コマ)

1 近衛が拍止めの紐を千歳の手首へ。
SFX:ひゅ

2 その瞬間、梁から黒羽紗那がふわりと降り、扇で紐をちょんと弾く。
紗那:『観客です。舞台に触れない』

3 宰導:『黒羽……! またお前か』

4 紗那、笙を軽く鳴らす。
紗那:『ゲームを見に。今夜のお題は——“二人同時の呼名”。離れて言えたら、鈴をひとつ返す』

5 千歳と朔真、視線が交差。
UI:鈴 4(挑戦前)

P9(4コマ)

1 千歳、宰導の目を避けるよう下を向き、口形で〈朔〉。
同刻、朔真が極小の声で『……千』。
SFX:無音の合わせ

2 名帳の紙が一瞬ふくらむが、圧が戻る。
名帳の声 SFX:とく…(重)

3 千歳、二拍。朔真、胸で二拍。
二人(口形)〈真〉——最後を同時に。

4 名帳の□に見えない墨の“楔”が食い込み、紙が音もなく裂け目を生む。
SFX:す…
UI:名印 56→60%/喉砂 46→45%

P10(5コマ)

1 宰導、杖を強く打つ。
SFX:カン!
宰導:『規(のり)に反す! 二人で書くことは許さぬ!』

2 千歳、正面へ一歩。
千歳:『書いていません。導いただけです』

3 宰導、冷たく笑う。
宰導:『では次だ。書記官・白瀬千歳——汝の本名をここに』

4 千歳、まばたきを一度だけ。喉札に指。
千歳(心の声):(私の名は、私が選ぶ)

5 梁の紗那、扇の陰で笑う。
紗那:『いいね、唯一無二はここから甘くなる』

P11(4コマ)

1 女官が筆を差し出す。筆の先は冷たい白。
女官:『本名以外は沈む。——覚悟を』

2 千歳、筆を持つ手をわずかに震わせ、深く息。
千歳(囁き):『二拍、ちょうだい』

3 遠く、朔真が壁に二拍。
SFX:トン トン
UI:遠拍ラインが濃く、太く。

4 千歳、空中に“点”。己の喉にも同じ位置に指を置く。
千歳(心の声):(恐れない)

P12(5コマ)

1 千歳の視界に幻燈。——王都の祝言、別の男が微笑む。
幻の男:『安全に、優雅に』

2 千歳、微かに笑って首を横。
千歳:『優雅なら、もう知っている。——痛みの優雅も』

3 筆が名帳へ触れる直前、宰導が拍止めの金具を鳴らす。
SFX:カチ…

4 千歳、筆を止め、遠拍で〈在雪〉を短く。
SFX:トン トン
二人(口形・同時)〈在雪〉

5 幻燈が霧散。紙の圧が一段弱まる。
名帳の声 SFX:とく…(軽)

P13(3コマ・大きめ)

1(大) 宰導:『よかろう。だが規により、今宵の“鈴結び”もここで結ぶ』
天井から白鈴の雨。千歳の喉に新たな輪がかかりかけ——
紗那(扇を鳴らす):『お遊びの続き。今夜は**“距(へだ)て結び”**。離れていても“近い”と言えたら解ける』

2 千歳、深く頷き、囁くような無声。
千歳(無声):〈近〉

3 同時に朔真、極小の声で『……いま、ここ』
UI:鈴 4→3(一輪、音もなく落ちる)
SFX:ぽと…

P14(5コマ)

1 名帳の頁が自動で次へ送られる仕掛け。
官人:『続いて——血印の前段』

2 千歳、朔真を見ない規矩の中、視線だけを斜めに合わせる。
UI:遠拍ラインが細い弧を描いて二人を結ぶ

3 刀「月白」クローズ。名印の第四画の影が薄く灯る(まだ未完成)。
UI:名印 60%(安定)

4 朔真、喉の“真”の小字をそっと押す。砂がわずかに増減。
UI:喉砂 45% → 一瞬 44 → 45(戻る)

5 紗那、梁から足をぶらぶら。
紗那:『明日は血の字。——甘さの中に、少し苦いものを』

P15(4コマ)

1 宰導が杖を床に。
宰導:『本日の儀、ここまで。各自、内に戻れ』

2 近衛が千歳へ歩み寄る。
近衛:『書記官、名帳は明朝。——王の前で、誤魔化しは効かぬ』

3 千歳、柔らかく微笑。
千歳:『誤魔化しません。——書きます』

4 朔真、退出の列のまま壁に二拍。
SFX:トン トン
千歳(無声):〈在〉
UI:遠拍ラインが消えずに残る(強度アップ)

P16(ラスト1コマ)

大コマ 回廊が二手に割れ、二人が逆方向へ消えていく。天窓から雪がひとひら落ち、二人の別々の掌に同時に触れる。
T(モノローグ・千歳):(偽りは沈む。なら、私たちは——浮く言葉で行く)
C:To Be Continued