P1(扉絵/1コマ)

大コマ:王城・内郭の回廊。黒門の裂け目が閉じ、二筋の影が左右へ分かれる瞬間。千歳の鎖骨の輪紋から細い光の糸がのび、朔真の喉紋の砂時計に触れそうで触れない距離。
T:第7話「前夜の約束」

P2(4コマ)

1 千歳、内侍所の白い部屋へ。女官たちが無表情に迎える。
女官長:『沈香を焚きます。息を深く——声は澄み、余計な感情は沈む』

2 香炉から白煙。千歳、袖で鼻口を覆う。
千歳(心の声):(“沈む”香……声を鈍らせる)

3 女官、千歳の帯の結びを改め、冷ややかに締め直す。
SFX:きゅ

4 千歳、小さく礼をし、喉札を指で押さえる。
UI:喉札の端が淡光

P3(5コマ)

1 朔真は兵装庫に。近衛二名が影縛り鎖を差し出す。
近衛:『儀の間へ入る者は皆、剣気を封ずる。形式だ』

2 朔真、黙って腕を差し出す——しかし手首ではなく鎖骨にかかると、輪紋がピクリ。
UI:半円が不快に波打つ

3 朔真、目で拒否。
朔真(低い視線):(喉は触らせない)

4 近衛が苛立ち、強引に鎖を寄せる。
SFX:じゃら…

5 朔真、最小動作で鎖を払う(武器は抜かない)。
SFX:コツ(足の入れ替え)/からん(鎖が落ちる)
近衛:『なっ——!』

P4(4コマ)

1 千歳、内侍所の清めの間。白布の衝立の向こうで、女性たちのすすり泣き。
花嫁候補の少女(かすれ声・オフ):『名を……取られたら、私……』

2 女官長が千歳の喉に薄墨を当てる。
女官長:『明朝、書記官は名帳を捧げよ。貴女は“手”——声は要らない』

3 千歳、静かに首を横。
千歳:『手だけでは、本当の字は書けません』

4 女官長、冷笑。
女官長:『その口で、まだ“言う”のね』

P5(5コマ)

1 朔真、沈黙の回廊へ通される。壁は黒い石、微かに音を吸う。
SFX:す…

2 回廊の壁の一点に、白い小傷(千歳がいつか使った記憶の合図〈在〉の癖)。
朔真(目が和らぐ)

3 朔真、指二本で壁を二拍。
SFX:トン トン

4 別室の千歳、衝立越しに床板が二拍響くのを感じ、同じ場所を二拍で返す。
SFX:トン トン

5 UI:千歳の鎖骨から淡い光の線が伸び、空間で細く合流——遠拍(えんぱく)成立。

P6(4コマ)

1 千歳、口形で〈双拍〉、喉に指——遠距離同期の合図を刻む。
千歳(無声・口形):〈双拍〉

2 朔真、壁に**〈在〉**の小さな傷を爪で追加し、拍を重ねる。
SFX:こつ… こつ…

3 二人、同時に天窓の細月を見上げる。
UI:天窓に同じ月のカットを左右対向配置

4 千歳、無声囁き(届かない距離のはずなのに、息の記憶で伝わる演出)。
千歳(無声):〈在雪。離れても同じ〉

P7(4コマ)

1 刀「月白」遠景。名印がわずかに増光(40→45%)。
UI:第二画が太り、第三画の“払い”の起点が淡く点灯

2 朔真の喉紋砂がひと粒だけ巻き戻る。
UI:砂 52→53%

3 近衛が背後から様子を窺う。
近衛(小声)『……壁を叩いて何を——』

4 朔真、何もしていない顔で前を向く。
SFX:す…

P8(5コマ)

1 千歳の部屋に、黒羽紗那が女房姿で現れる。笙の指を隠し扇を持つ。
紗那:『前夜のゲーム。今夜は誓結び』

2 千歳:『誓い……?』
紗那:『“嘘のない誓い”だけが解く。相手のいない前でね』

3 紗那、香炉の火を扇で弄ぶ。
紗那:『ご褒美はひとつ。鈴を減らしてあげる』

4 千歳、まっすぐ頷く。
千歳:『やります』

5 紗那、愉悦。
紗那:『可愛い。——では誰にも聞こえない誓いを、ここで』

P9(4コマ)

1 千歳、内侍所の鏡の前に座り、自分の目を見据える。
千歳(小声)『私は逃げない。たとえ名帳に自分の名を書けと言われても、彼の名を守る』

2 鎖骨の輪紋が一段明るく。
UI:重なり度 +5%

3 紗那、満足げに指を鳴らす。
SFX:ち…

4 UI:鈴 5→4。喉元の鈴陣がひとつほどけ、静かに消える。
紗那:『合格。——ねえ書記姫、“誓い”って甘いものよ』

P10(5コマ)

1 同刻、兵装庫の外回廊。影縛り鎖を運ぶ近衛の耳に笙の微音。
SFX:ひゅ…

2 鎖が一瞬硬直し、自重で床へ落ちる。
SFX:がらん…

3 紗那(遠景・屋根上で笙):『筆頭くん。今夜だけ味方。面白い方が好きなの』

4 朔真、屋根の影に一礼ほどの傾き。言葉はない。
UI:喉紋砂 53→54%

5 紗那、扇を閉じる。
紗那:『明朝、名帳が開く。——偽名では扉は開かないわよ』

P11(4コマ)

1 内侍所。女官長が**名帳(なちょう)**を盆に載せて運び込む。厚い和紙、王印。
女官長:『前夜の確認。名は正しく、筆は濡れすぎぬよう』

2 千歳、名帳の見開きを覗く。
UI:〈榊 朔□〉の空白、〈白瀬 千歳〉の名は書記官欄に仮で記載
千歳(心の声):(“□”——一字を隠す枠)

3 女官長:『儀では、本人が自ら“本名”を記し、沈黙の印を受ける。——逃げ場はないわ』

4 千歳、筆先をそっと撫でる。
千歳(小声)『筆は道にもなる。逃げるためじゃなく、渡るために』

P12(5コマ)

1 夜半。二人は別々の窓から同じ中庭の雪を見下ろす。
UI:月雲が流れ、同じ形の雲裂け

2 千歳、壁に二拍。
SFX:トン トン
千歳(無声):〈遠〉

3 朔真、胸で二拍を返し、喉に軽く手。
朔真(極小の声)『……在(ざい)』

4 二人、同時に短い共語。
二人(口形)〈在雪・遠〉

5 UI:二人の間の淡光ラインが濃くなる。刀身の名印 45→46%。喉砂 54→55%。
SFX:トン…(低く心地よい共鳴)

P13(3コマ・大きめ)

1(大) 内侍所の廊下。千歳が帯の結び目を自分で直す——そこへ見えない手のように、朔真の“拍”が背へ触れる演出。
T(モノローグ・千歳):(手を放しても——拍が、触れてくる)

2 兵装庫前。朔真、喉の“真”の小字を指でとんと押し、自制の目。
UI:名印 46%(安定)

3 遠景の屋根。紗那、夜空を見上げてひとりごと。
紗那:『本当に唯一無二なら——明日、壊れる。壊れて、生まれ直す』

P14(5コマ)

1 夜明け前の薄青。城の太鼓が低く鳴り始める。
SFX:ドン… ドン…

2 内侍所。女官が千歳に白衣を渡す。
女官:『書記官、支度を』

3 兵装庫。近衛が朔真に短い帯刀だけ許す。
近衛:『儀の間では抜くな。——抜けば斬る』

4 千歳、喉札の端を押し、輪紋に指。
千歳(小声)『——行こう』

5 朔真、喉紋砂が少し落ちるのを見て、壁に二拍。
SFX:トン トン
朔真(極小の声)『……在』

P15(4コマ)

1 玉砂利の中庭。参列の列が整う。式紙烏が梁に整列。
官人:『沈黙の間——開帳』

2 巨扉が音もなく開く。内部は黒い水面のような床。
SFX:す…

3 名帳を捧げる千歳。数歩先に朔真——だが視線は合わせない規矩。
UI:二人の間に淡光ライン(遠拍の糸)が細く

4 王の側近(宰導)が宣する。
宰導:『まず“本名(ほんみょう)”を書す者——榊 朔』

P16(ラスト1コマ)

大コマ 朔真が一歩、名帳の前へ。見開きの**〈榊 朔□〉が大写し。□の枠が赤く淡光し、“本名を差し出せ”と声なき圧**。
千歳のモノローグ:
T:『偽名では扉は開かない。——ならば、言葉で扉を穿つ』
C:To Be Continued