「貴様かぁああ、我の暗黒隕石魔法(ダークメテオ)を消し去ったのはぁああ!」

 なんかめっちゃ怒ってるな。全身がワナワナとして、額に青筋を浮かせて。
 キャルの元に駆けつけたら、魔王が激しく絡んできた。

 「いったい何者だ! なんだあの魔法はぁああ!」

 魔法? もしかしてなんちゃってメテオのことか?

 「あのな、俺は魔法なんか使えん」

 「魔法ではないだと!? 貴様~~人族では無いな! まさか……天界の住人か!?」

 てんかい? 何言ってるんだこいつ。訳がわからん。
 こいつなんか勘違いしてるんじゃないか?

 ちゃんと教えないとな。

 「俺はな―――ただのオッサンだ」

 「おっさんだと?」

 おいおい、オッサン知らんのか。
 どうやら封印の時間が長すぎてボケてるっぽいぞ。

 「オッサンというのはな、そこら辺にいる一般中年男性のことだよ」

 「んなこと知っとるわぁああ! おっさんごときが我の魔法を消滅させただとぉおおお! ふざけるなよぉおお!」

 再び魔王がワナワナと怒りを吹き出し始めた。
 こいつ情緒不安定か? いや、寝起きが悪いんだな。

 「有象無象のザコが調子にのるなよ! いいだろう……我の最大魔法で屠ってくれるわ!」

 そう言うと、魔王は聞いたこともない言葉で詠唱を開始する。
 さっきのはたいしたことない魔法だったが、今回のはヤバい魔法かもしれん……延々と意味不明な言葉で魔力を練り上げているようだ。

 魔王の魔法に対抗できるのは―――

 俺は傍にいるキャルに視線を向ける。

 「キャル、デカいの一発お見舞いできるか?」
 「もちろんなの!」

 この子の魔法しかない!

 「よしっ! 俺が時間を稼ぐから、思いっきりいくんだ!」
 「わかったの! バルがいるなら集中できる、魔王なんかに負けないの!」

 キャルは小さな胸を張って【闘気】と【魔力】を練り込み始めた。

 さて……

 俺もやるか。

 思いっきり空気を吸い込み……

 全身に【闘気】をめぐらせて―――リエナからもらった小石に【闘気】を注ぎ込む。

 ―――ギュッと、先ほどよりも多く、濃密に。

 魔王は、いまだ意味不明な言語の詠唱を続けている。
 強力な魔法なのだろう―――だが。

 先手必勝だ!


 「せぇ――――――いっ!!」


 全身を使って振り切った右腕から放たれた小石。

 赤い光を放ちながら、魔王に向かって一直線に飛んでいく。

 「なんだぁ? 先ほどの攻撃か? 無駄なことを、我は自動防御魔法が発動するのだ。いかなる魔法も効かんわ! 暗黒魔法防御壁(ダークシールド)×10連!」

 魔王の前方に黒い壁がズズズと現れる。1枚ではなく、何枚も。
 これが魔法防御壁なるものらしいが―――

 小石はその速度を緩めることなく、全ての壁をぶち抜いていく。

 「グハっ―――!!」

 魔王は俺のなんちゃってメテオの直撃により、身体を九の字にゆがめて苦悶の表情をみせる。

 しかし……なんだこの壁? 手ごたえが無さすぎる。やはり完全復活には程遠いようだ。そもそもオッサンの石は魔法じゃないしな。

 「ば、ばかなぁああ……わ、我の壁をすべて打ち抜くだとぉおおぉぉ……」
 「そりゃ魔法じゃないんだからしょうがないだろ。それは【闘気】で固めた石だよ」

 「グハぁ~~。と、とうきだと……貴様~~あの忌々しい勇者どもの末裔かぁああ!」

 勇者? 何の話だ? やはりボケてるのか?
 はぁ~しょうがない。

 「もう一回教えてやる! 俺は宿屋のオッサン――――――バルドだ!」

 「バルドだと……あの王子の言ってたやつか……グガァアアァァ!」

 苦悶の声とともに、魔王の体がきしむ。

 魔王にめり込み続けている俺のなんちゃってメテオ。いまだ推進力は衰えていない。
 そして……踏ん張りがきかなくなったのだろう。魔王は一気に上空へ吹き飛ばされていった。


 「ぐぉおおおお! ―――く、クソ王子がぁああ! なにが~~ただのオッサンだぁああ!」


 吹き飛ばされながらも悪態をつく魔王。
 さすがに、オッサンの小石程度で魔王をどうにかできるとは思っていない。

 とどめを刺すのは―――

 空が真っ赤に染まっている。

 準備は整ったようだ。

 「キャル―――思いっきりやっていいぞ!」

 うしろに控える少女に合図をだす。

 「吹っ飛べなの――――――極大隕石魔法(ギガメテオ)!!」

 深紅の空から、巨大な岩が魔王に向かって……

 いや―――でか!?

 凄いなキャル……もうちょっとした山みたいだぞ……

 その恐ろしいくデカい岩が、地上から吹き飛んできた魔王と上空でジャストミートする。
 魔王の「ふぎゃんっ!」という情けない声を最後に、上空が爆裂音と閃光で埋め尽くされ、遅れて爆炎が吹き荒れた。

 しばらくして―――
 凄まじい爆炎が徐々におさまっていく。

 青い空が戻ってきた。

 魔王の姿はどこにもない。

 「完全に消滅したのかな?」
 「うん、魔王の魔力を一切感じないの。それに手下たちも消えていくの」

 おお、キャルの言うとり魔王軍は次々と消滅していくではないか。
 親玉を倒したからなのだろう。そこらじゅうから歓喜の声が聞こえてくる。

 「きゃ、キャルット殿~~!」

 魔導士の恰好をした男たちが数人駆けつけてくる。
 キャルと共に戦っていた戦友たちだろう。

 「や、やりました! 凄い……我々で魔王軍を……」

 副官ぽい男は興奮吟味に、キャルに手を差し出してくる。
 握手を求めているのだろう。

 これは止めた方がいいか……感動しているところ申し訳ないが―――!?

 「キャル……!?」

 なんとキャルも手を差し出して、男の手を握ったではないか。
 すぐに離して俺の後ろに隠れてしまったが。

 空は……

 赤くなっていない。

 「そうか……成長したんだな」

 俺は手を袖で拭いて、渋い顔をするキャルの頭を思いっきり撫でた。

 「な、なにバル! ちょ、もう子供じゃないの!」

 口を尖らせながらも、顔を赤くするキャルが可愛すぎて。
 俺は再び頭を撫でてしまうのであった。