「先生! 探しましたよ!」

 なんと記念すべきお客様第1号は、フリダニア王国史上最強の女剣士と言われる剣聖、アレシア・オラルエンだった。

 透き通るような長い銀髪に凛々しい顔立ちと青い瞳。
 剣士であるが、女性らしい曲線的な魅力とリエナに負けない2つの膨らみ。その上にはキュッとしまった腰があり、鍛え抜かれた彼女のスタイルを引き締めている。

 16歳という若さでフリダニア騎士団長となり、17歳で「剣聖」の称号を獲得した。たしか今は21歳か。誰もが振り向くようなうな超絶美人剣士さまだ。

 「やっと、見つけました」
 「あ、アレシア……」

 久しぶりの再会に、少し言葉が詰まってしまう。

 「アレシア、なんでこんなところに?」
 「あたしのことはいいんです! なんで先生が追放されるんですかっ!」

 う……それを言われるとなぁ~俺もなぜ追放されたのか良くわからん。なぜ濡れ衣を着せてまで、こんな一般宿屋オッサンを追放したのだろうか? ゲナス王子は王代理なのだから仕事は山のようにあるはず。
 アレシアに明確な回答ができないまま沈黙の時間が続いたが、再び彼女の口がひらいた。

 「……すいません、なんだか久しぶりに先生に会えたので、ちょっと興奮してしまったようです」
 「いや、そんなことは無いよ。俺もアレシアと久しぶりに会えて嬉しいよ」
 「あたしに会えて嬉しいっ!? ほ、本当ですか!」
 「え、ああ……もちろんだ」

 え? なに? アレシアの顔がぱぁ~と明るくなり、グイグイ近づいてくるじゃないの。銀髪の美人さんに迫られたらオッサン緊張するじゃないか。アレシアは自身の美貌をもう少し自覚した方が良い。

 そんなアレシアが、急に何かを思い出したように懐に手をいれてゴソゴソやり始めた。

 「忘れてました! 先生、これ!」

 彼女から渡された包紙を開けてみる。んん?

 「おおおおお~~これぇえええ!!」

 包紙の中身はアンパンだった。
 これはフリダニア王都の超人気店で、長蛇の列に並ばないとゲットできないやつ~~!

 「あ、あ、アレシア……いいのか!? 食べていいのかっ!」
 「ふふ、もちろんです」

 まじかよ! 愛弟子最高かよっ! 
 俺は包紙から出てきた宝にすぐさまかぶりついた。

 「―――ぎゃぁああ! うまぃいいいい! これ買うの大変だったろ! ありがとうな!」
 「先生の大好物ですから、並ぶぐらいなんでもないです」

 「リエナも食べてみろ! ビックリするぞ!」

 俺はカウンター越しにこちらを見ていた、リエナに新たなアンパンを渡す。

 「いいんですか~頂きます! わぁあ~~美味しいですね~バルドさま~」
 「ナトルにもアンパンは売っているだろうが、ここまでの品にはなかなかお目にはかかれんだろ!」

 「あ、バルドさま、ほっぺにアンコが」

 リエナが優しく、ふきふきしてくれた。いかん、オッサン夢中で頬張りすぎたか。
 そこへ急激にバチバチと高まる殺気を感じた俺。

 え? なに? 敵襲か―――!?

 「おまえは先生のなんなのだっ!」

 違った……殺気の主はアレシアだった。
 アレシアは殺気全開で、その美しいブルーの瞳を獣のようにギラつかせてリエナを睨みつけている。

 あ、そうだった。リエナを紹介するのを忘れてた。だが俺が口を開く前に、リエナがズイっとアレシアの前に出る。

 「バルドさまは~私のご主人様ですぅ!」

 ええ! ちょっと、言い方! 
 それだと、なんか変な誤解を受けるじゃないか!
 アレシアの方を向くと、なんか全身ワナワナと震えていた。ヤバイ、オッサン変態だと思われてる!
 17歳の美少女姫にご主人様とか呼ばせて、ウヒウヒ変態オッサンプレイしてる奴だと思われてる!

 「なんだと~~~貴様ぁああああ! 小娘の分際でぇええ!」

 わぁ~この子~聖剣抜いた~~宿屋で―――!?
 待て待て。聖剣抜くほどのことじゃないだろ? アレシアって、ここまでぶっ飛んでたか?
 そしてなぜリエナに怒る?

 「アレシア、ちょっと待て、この人は……」
 「申し遅れました、アレシアさん。私はナトル第一王女のリエナと申します」

 リエナが、礼儀正しくスッと挨拶をした。その所作には震えが一切ない。剣聖の殺気に押されないなんて、さすが王族。
 ふぅ、さすがにアレシアもリエナが王女とわかれば、大人しくなるだろう。

 「なんだぁ、たかだが第一王女ごときが、あたしの先生と釣り合うとでも思っているのかぁああ! 気安く先生の口をふくなぁああ!!」

 まったく大人しくならなかった……

 まてまてまてぇえ~~~何を言っている? 釣り合うわけないでしょ、宿屋オッサンと美少女王女様なんだから。

 俺は速攻でアレシアの手を引いて、裏に連れて行く。

 「アレシア落ち着いてくれ! リエナはこの宿屋のオーナーである王様の娘なんだ。それに、いきなり聖剣抜いちゃダメだ」
 「は……はい……先生、申し訳ございません。あたしつい興奮してしまって……修行不足です」

 アレシアは顔を真っ赤にして、反省の言葉を口から震えるように漏らした。
 あ、ちょっと言い過ぎたか? 俺が掴んだ手をチラチラと見ては、顔が火を噴いたように赤く染まっていく。
 良く考えたらナトルへ来るだけでもそこそこ大変だしな。色々疲れているんだろう。

 ちょっと行き違いがあっただけだ。

 その後少し会話を交わすとリエナから「ふふ、バルドさまは剣聖さまにとっても慕われてるのですね」なんて微笑みが漏れていたので、まあ大丈夫だろう。それにアレシアだって話せばちゃんとわかる子なのだ。

 しかし、慕ってくれるのは嬉しいものだ。修行をつけたのは彼女が幼少の頃なのに、いまだに俺の事を先生と呼んでくれる。なんて義理堅い子なんだろうか。
 そして会話はこの宿屋のことにうつり。

 「なるほど、先生はこちらで宿屋を経営されているのですね」

 フムフムとアレシアが頷いている。
 まあ、経営が成り立ってはいないのだが。だってアレシアがはじめてドアを開けた人だからねぇ……

 「そういえば、先生は外出の準備をされていたようですが?」

 そうだった。アレシアの訪問ですっかり忘れていたが、ビラ配りに行く予定だったんだ。このままでは経営が破綻してしまう。夢のスローライフどころか、飢え死に街道まっしぐらじゃないか。



 ◇◇◇



 「新装開店の宿屋~~親父亭です~~よろしくお願いしま~す♡」

 俺たちは王都の中央広場に来ていた。ここならば人も沢山いるので、ビラ配りにはうってつけの場所だ。
 リエナの元気な声が広場にいる人たちを惹きつける。いや~さすが美少女のビラはみんな取ってくれるなぁ。俺も頑張らねば。オッサンでもビラを取っていくれる人はいるのだ。

 ちなみに宿屋の名前はとくに考えていなかったが、ビラを作る際にリエナが「親父亭」と書いていたので、そうれでいいかとなった。

 ところで……

 実は俺とリエナ以外にも、もう一人ビラ配りしている人がいた。
 聖剣を腰にぶら下げて凛々しい顔が眩しい、銀髪の超美人剣士さん。

 「あ、アレシア……フリダニア王国に戻らなくていいのか?」

 なぜか、ビラ配りに剣聖のアレシアまでついてきた。