「さあ! さあ! ご説明を!」

 凄まじい剣幕でまくしたてるフリダニア王国第一王女のマリーシアさま。

 リエナの誕生日を祝っていたら、なぜか俺がマリーシアさまに怒られることになった。

 輝く緑の瞳に、キュッと締まった腰。
 清楚なグリーンの髪が日の光を反射して輝いて、まさに天から降りてきた美少女。

 リエナと並ぶと天使さまが2人だ。

 「あ、あの。なぜマリーシアさまがこんなところに?」

 「ナトル王との会談があるので、寄らせてもらいましのたの! そんなことよりご説明を!」

 なるほど、王族同士の会議か。大事な話をしに来たんだろう。
 と、思うのだが……今は、俺がリエナに贈ったネックレスの方が重要らしい。

 綺麗な緑の髪がそこそこ逆立っている。

 いや、そんなに……?
 オッサンの作った貴金属に、そこまで需要があるとは思えんけど。

 「ち、ちょっと落ち着きましょう……マリーシアさま」
 「落ち着いてますっ! 別にわたくし怒っていませんわ! なぜ、わたくしには無いのかと聞いてるだけですの!」

 怒っていないと言いながらも明らかに怒っている声と顔なんだが、それを言うと激おこされそうだからなぁ。
 俺は頭をわしわしと掻きつつ弁明の口を開く。

 「えと、リエナの誕生日だったので、ささやかながらも贈らせて頂きました。元弟子たちにも渡したものですよ」

 別に超高級品でもなんでもない旨をアピールする。
 そうだよ、誕生日のささやかな贈り物なんだから。マリーシアさまが目くじら立てるものじゃないんだ。

 「へぇええ~みなさんおそろいの物をお持ちなんですね?」

 彼女が口を尖らせて、責めるように問いかけてくる。

 「え、ええ、まあ……」

 「お持ちなんですね!」 

 2回言った……

 みんな同じものを持っているという発言は、マズかったようだ。
 王女様の口は尖る一方である。

 もうオッサン、なに言ったらいいかわからん。

 (バルド様にお会いするのを楽しみにしてましたのに……こんなのって、あんまりですわ)

 良く聞こえなかったが、彼女から落胆の吐息がもれる。
 その綺麗な緑の瞳が、濁ってしまうほどガックリと落ち込むマリーシアさま。

 ヤバイ、怒られるならまだしも落ち込まれるとは―――オッサンとしても辛いものがある。

 「バルド先生、宝石店からの言付けを失念してました。マリーシア様の分は、もう少し待って欲しいとのことですよ」

 ここでミレーネが会話に切り込んでくる。

 え? マリーシアさまの分? そんなもん無いぞ……あ……!

 「まあ! わたくしのもご用意してくれてましたの!!」

 ぱぁ~と輝きを取り戻し、グイグイ迫りくる王女さま。うぉ~~近い近い!

 「え、そんなの当然ですよ、マリーシアさま。ね、バルド先生」
 「あ……はい。もちろんですよ……」

 これは速攻でマリーシアさまの分を作れということらしい。
 ミレーネが機転をきかせてくれた。

 「まあ! まあ! わたくしったら取り乱してしまいましたわ!」

 「まさか今日いらっしゃるとは思いませんでしたから。マリーシアさまがナトルご滞在中に完成すればいいのですが、《《宝石店を急かしましょうね》》。バルド先生」

 ミレーネが念押しのウインクを飛ばしてくる。

 「……はい」

 ……これで徹夜は確定だな。
 なんとしても完成させないと。

 「ああ、楽しみですわ~~♡」

 マリーシアさまはその緑の瞳を輝かせて、ルンルンになるのであった。



 ◇◇◇



 「まずは改めてお礼申し上げますわ。バルド様、ミレーネ、リエナ姫、そしてみなさま。フリダニアを救ってい頂き、本当にありがとうございました」

 みんなに恭しく頭を下げるマリーシアさま。
 そこには先程のルンルン美少女はおらず、一国の王女オーラ全開の女性がいた。

 「ふぅ、やっとみなさまに直接お礼を言えましたわ」

 マリーシアさまが、ホッとした表情をみせる。

 「ところでキャルさん、お兄様……いえ、ゲナス王子を見たと言うのは本当ですの?」
 「ん~~あいつの顔は興味ないからちゃんと覚えてないけど、たぶんそうだと思うの」

 キャルは国外研修から帰った直後に、ゲナス王子と接触したらしい。

 「ゲナス王子は他に人は連れてましたか? 様子はどうでしたの?」
 「んん~~いなかったの。とにかく臭かったの」

 キャルが言うに、臭いしか思い出せないらしい。いや……よっぽどだったんだな。俺も気をつけんと……

 オッサンが勝手に冷や汗をかいてると、キャルが思い出したように口を開いた。

 「そうだ、闇魔法の臭いがしたの。あとポケットになんかブツブツ言ってた。キモいの」
 「闇魔法ですか……」
 「ワタクシも、ゲナス王子から何か邪悪な感じを受けました。もっともそれが何か具体的にはわからないのですが」

 ミレーネが情報を付け加える。

 「ゲナス王子のメイドたちも、彼の部屋から誰かと話している声が良く聞こえたと言ってましたわ。部屋には彼しかいませんのに」
 「一人の部屋から声か……闇魔法が関係しているのかな? キャルは何か知っているかい?」
 「う~ん。バル、闇魔法はとても種類が多いうえに、使える者はごく少数なの。その情報だけではわからないの」

 なんだろうか? 独り言ではなさそうだが、オッサンは魔法わからんし。

 「情報不足ですわね。何かよからぬことを企んでいなければ良いのですが。もうこれ以上は……」

 途中で言葉を詰まらせるマリーシアさま。
 普通に考えれば、兵力も資金も全てを失ったゲナス王子が、この期に及んで何もできないはずだが。

 一番近くで、兄を見てきた人だからな。
 何かをするかもしれないと、感じているのかもしれない。

 「―――とにかく。ゲナス王子が生きている以上は、捕えなければなりません。きっちりと司法の場で裁きを受けてもらいます」

 王女の顔でそう言い放った彼女は、どこか寂しそうな感じがした。
 どんなにひどい奴でも、腹違いでも、彼女の兄であることに変わりはないからな。


 「あら、もうこんな時間。つい話し込んでしまいましたわ。業務中にお時間頂きありがとうございました。では、私はナトル王城にて陛下と会談がありますので……お邪魔しましたわ」

 再びチョンとお辞儀をしたマリーシアさまが、ドアに向かおうとした時―――

 「―――マリーシア様! 大変です! 通信石から急報!」

 護衛騎士がノックも忘れて飛び込んできた。


 「ゲナス王子が魔王軍を率いて―――フリダニア王城に入城しました!」