「で、では面接をはじめます……」
 「はい、ミレーネ・フォンレリアと申します。よろしくお願いいたします」

 人手不足から始まった今回の募集。
 なんと最後の応募者は、俺の元弟子である聖女ミレーネだった。

 そして普通に面接が始まる。

 だってミレーネが応募者です! と言い張るんだからしょうがない。

 紫色の縦ロールの髪に知性溢れる顔立ちと紫色の瞳。
 16歳で聖女となり、18歳【血の会戦】で大活躍する。てことは今は22歳か……

 キラキラと輝く純白の法衣が、彼女の清楚さと神秘的で大人な魅力を引き出している。
 そして、その法衣から飛び出してきそうなほどの膨らみ。これはリエナを上回るのではなかろうか……

 いや、面接中だぞ―――オッサン何考えてるんだ。集中だ。

 俺はあらかじめ用意してある質問表をみながら、順に問いかけていく。

 「コ……コホン、ではあなたの特技を教えてください」
 「はい、回復魔法が得意です。あと聖属性魔法もいろいろ使えます」

 うん知ってる。だって聖女だし。

 「あと【結界】をはれます。範囲はフリダニア王都全体まで、短期間であれば王国全土もいけます。効力は、ほぼすべての魔物を防げます」

 うん知ってる。だって聖女だもん。

 ちなみに聖女のはる【結界】とは聖女が得意とする防御魔法で、とくに魔物に絶大な効力を発する。
 理由はたしか、魔物は基本的に聖属性の魔法が苦手なんだそうだ。聖女の結界は聖属性の魔力を凝縮して壁をつくるらしい。まあこの知識は、前に座るミレーネに全部聞いたんだけども。

 しかし王国全体って……やはりミレーネはとんでもないな。

 「5年前の帝国との決戦【血の会戦】では、主力フリダニア軍の上空に結界をはりました」

 ああ、たしか帝国ワイバーン部隊っていう、空軍部隊の侵入を完全にブロックしたんだっけか。
 帝国は魔物を使役する技術が高いらしく、魔物を様々な部隊に組み込んでいる。

 なかでも、ワイバーン部隊は空の悪魔なんて言われるような奴らだ。ミレーネは会戦中に空からの攻撃をすべて防いだらしい。
 ふつうに凄すぎるよ、もうオッサンの想像力が追いつかんわ。そんなん1匹でも出くわしたら漏らしちゃうぞ。

 「あ、ワタクシ。フリダニア王国では三神(さんしん)と呼ばれていました」

 うん知ってる。だって歴代最高の聖女だもん。

 「あと、スリーサイズは上から九十……」
 「うわっ! 何言ってんの!?」

 スリーサイズなんて聞いたら完全にセクハラ面接じゃないか……変態店主として末代までの恥となるぞ。

 「フフ、バルド先生ったら、声を荒げすぎですよ。冗談ですから」
 「そ、そ、そうか……」

 オッサン、ビックリするからそういう冗談はやめて欲しい。

 ……ていうか90……って言った。マジかよ……

 (ふふ、同じ90超として相手に不足なしです)
 (あ、あたしだって……90とは言わないがそこそこある方だぞ)

 リエナとアレシアがなんか不穏なブツブツを呟いている。

 いったい、なんの話をしている! いつから膨らみの面接になったんだ! 
 てかリエナも90以上なんだ……

 ―――って! いやいやいや、違うだろバルド! 
 おまえは今大事な面接中なんだぞ!
 いったん膨らみの事は忘れよう。

 「で、では、志望動機をお聞かせください」

 これは絶対に聞かねばならない。

 「ワタクシこちらの宿屋の評判を聞きまして。とくに店主の方が素晴らしいとお聞きしまして是非とも働きたいなと」
 「ええ? それって俺の事か?」

 いやいや、俺はただのオッサンだ。

 「フフ、そうですね。前の職場はトップが最低でしたから。ここはバルド先生がトップですから安心です」

 あ~たしかにゲナス王子かぁ。しかしミレーネに最低と言わせるのは余程のことがあったのか。
 にしても、気分転換で来た程度ならいいだろうが、辞めてまで働く場所ではないぞここ。

 「み、ミレーネ何があったんだ? 本当にここで働く気なのか? 君はフリダニア王国に必要な人だろ?」
 「フフ、大丈夫です。ワタクシ、フリダニアの聖女は解雇されましたので、フリーなんですよ」

 いやいやいや、それ全然大丈夫じゃないだろ。
 解雇? なぜミレーネが? 意味がわからん。

 「というかフリアダニアに聖女いなくなるんじゃないのか?」
 「ああ、それは新しい聖女をクソ王子が連れてきたので、あとは彼女がやるでしょう」

 そんなことよりも―――

 聖女ミレーネがズイっとその綺麗な整った顔を寄せてきた。
 いや、近い近い! オッサンの心臓に悪いっ!


 「―――なぜバルド先生が追放されるのですか! ワタクシまったく納得できません!」


 ああ、それね。

 たしかに俺も納得はまったくしてないよ。だって濡れ衣だもん。
 俺にとっては大きな出来事だが、ミレーネが解雇されたことの方がよっぽどか重大事件だろう。

 「バルド先生が横領などするはずがありません! 追放などフリダニアにとって大損害です! そんなこともわからない王子などもう知ったことではありません! ワタクシも不要と言われましたし! だからこちらに来ました!」

 オッサン1人いてもいなくても、国はなにも変わらんと思うぞ。

 にしても……

 普段から冷静が服を着たようなミレーネが、珍しく両手を振り上げて怒りを露わにしている。
 俺の事でこんなに……まあオッサンとしては嬉しい限りだが。

 「しかし本当にここで働くのか? しがない宿屋だぞ。給料だってそんなにいいとは言えないぞ」

 「もちろんです! バルド先生のいるところが、ワタクシの帰ってくる場所なんです!」

 ミレーネのまっすぐな紫色の瞳を見て、俺は懐かしい気持ちになった。
 そこまで感情を出さない子だが、自分がやると決めた時はこの目になる。変わってないんだな、こういうところは。

 まあ、拒む理由はないか……

 「……そうか。ならここにいなさい」

 「フフ、ってことはいいんですね?」

 「ああ、みんなと一緒に頑張ってくれ。よろしくな」

 互いに手を握り合う俺とミレーネ。
 うむ、何もおかしいことはないよな……


 ―――あれ? 俺はもしかして聖女を採用してしまったのか?



 ◇聖女ミレーネ視点◇


 フフ、やっぱりバルド先生は変わりませんね。

 5年前の【血の会戦】ではワイバーン部隊どころか、最強のドラゴン兵団を壊滅させたのに。
 なんでわかってないんですかね。

 たぶんバルド先生にとっては些細な事なんでしょうね。宿屋やみんなの事の方が大事なんでしょう。
 今の従業員たちにも慕われているようですし……色々な意味で。

 「ミレーネ、また一緒だな」
 「ミレーネさん、リエナです~よろしお願いします」

 剣聖と王女がワタクシの手を取って、嬉しそうな笑顔をみせてくれました。ニッコリと笑顔をお返しします。
 ……思えばニッコリしたのはいつぶりでしょう。


 やっぱりここが帰ってくる場所なのかもしれません。来て正解ですね。

 にしても……

 フフ、美少女王女に美人剣聖ですか。

 相手にとって不足なし――――――です。


 さ~~て、やりますか。久しぶりにバルド先生と仕事ですよ。