ここはフリダニア王国山岳地帯、ついにノースマネア軍が侵攻してきやがった。
 だが、俺様は自身の直轄軍主力をここへ集結させている。さらに強固な砦まである。

 そう、つまり負けるわけがないのだ。
 ―――というか絶対に負けてはならんのだ。

 なぜなら、俺様の大事な隠し金山があるからだ。
 だから同盟しているナトル王国には少数の兵士しか送っていない。

 だって当然だろう―――
 俺様の金山が一番大事だからな。なによりも優先するからだ。当り前の事なのだ。


 にもかかわらずだ……


 「前線より伝令! こんな辺境山岳地帯で戦ったことがありません! 重い鎧をつけて山中で動き回って疲れました! 予備兵と交代願います!」
 「やかましぃいい! 鎧が重けりゃ脱ぎやがれ! 全裸でも死守しろぉおお!」


 「前線より伝令! 鎧脱ぎました! 敵の攻撃が痛いです!」
 「アホかぁああ! マジで脱いでんじゃねぇえよ!」


 「ゲナス王子、やはり国境守備隊を全員クビにしたことが問題だったかと……。彼らでは持ちません。ここは損害が広がる前に撤退すべきかと。このような無価値の山岳地帯を失うよりも、兵士の方が大事です」

 宰相のピエットがグチグチとアホな進言をしてきた。


 馬鹿野郎ぉおお! 超重要なんだよ、ここはぁ! 


 なにがあろうと――――――死守なんだよぉおお!


 「報告! 巨大な何かが接近してきます!」
 「な、なんだあれは!」
 「ゲナス王子! ゴーレムです! ノースマネアの魔導兵器です! 超特大の!」

 オイオイざけんなよぉ! 
 あんな巨大ゴーレムがいるなんて聞いてねぇぞ。

 巨大ゴーレムは、その全身から魔力の砲弾を撃ちまくりはじめた。
 俺様の直轄軍が蹂躙されていく。

 「ゲナス王子~~、第一小隊壊滅! 第二小隊も敗走をはじめました! その他の部隊も逃げ始めてます」
 「ゲナス王子~~、巨大ゴーレムの砲撃で砦がボロボロですぅう! もうもちません! ダメだ~逃げろ~~」

 「クソがぁあああ! 勝手に逃げてんじゃねぇ! 給料分働きやがれ!」

 なぜだ! クビにした国境守備隊のやつらより高い給料を払ってんだぞ。


 ならその分だけ働くのは当然じゃねぇのか?


 「やはり、剣聖アレシア殿直属の守備兵を解雇したのはまずかったようですね。彼らは剣聖殿に鍛え上げられた歴戦の勇士、そして今まで国境を守り通した実績があった」

 「え~い! やかましいぞ、ピエット! 俺様のやり方に口出しすんじゃねぇ!」

 そこへ例の巨大ゴーレムからムカつく高笑いが聞こえてくる。

 『ギャハハっ! なんだこいつら~~手も足もでないか! ナトル兵とは大違いだ! こっちはカス部隊しかおらんぞぉ!』


 俺様がカスだとぉおおお!!


 クソ! クソ! クソがぁああ!!


 その後、山岳地帯のフリダニア王国ゲナス部隊は、1時間を持たずして敗走した。



 ◇◇◇ 



 ◇フリダニア王国、王都王城の一室にて◇


 「クソがぁあああ! 失った! 俺様の金山! 俺様がなぜこんな目に合うんだ!」

 『ハハハ~また随分と荒れておるのう』

 俺様は部屋に飾られている「鏡」にむかって、拳を振り上げた。

 「おい、「鏡」粉々にされたくなければ言葉に気をつけろよ。俺様は気が立っているんだ。しかし……この結果はなんだ!」

 『そうだ〜おまえは何も悪くないぞう〜』
 「たりめえだ! 悪いのは俺様にたてついたアホな部下たちだ! 俺様になんら落ち度はないのだ!」

 『ハハハ〜、にしてもナトルは大勝利らしいのぅ』
 「やかましい! あんな小国のことはどうでもいい!」
 『何やら剣聖やその部下たちが大活躍だったそうじゃなぁ~あとバルドだったかのう』
 「だまれ! あいつの名前を出すな!」

 クソ、なんであんな無能バルドの名が聞こえてくる。
 あいつ自身にそんな力はない。なにせ無能だからな。恐らくは剣聖をそそのかして、部下たちを取り込んだんだろう。しかし、どこにそんな金があるんだ? さては財産を隠していやがったか。

 宰相のピエットの野郎も事あるごとに、あのクソバルドを追放したのは間違いとかほざきやがるし。

 イライラするぜぇ。


 金山を失ったことで俺様の裏金が消えちまったじゃねぇか!


 『ヒヒッお主、金山を失ったうえにナトルに報奨金まで出せなばならんとはのう』
 「う、うるさいぞ! たたき割られてぇのか、鏡!」

 クソ鏡の言う通り、俺様は同盟国ナトルに報奨金を出すことになった。ピエットの野郎~ろくに援軍も送らずフリダニアを防衛してくれたえのだから当然ですとか言ってやがるし。

 なにが当然だ! 裏金を失ったうえにクソ小国に金を払えだとぉおおお……クソぉお~~~~
 俺様の金の御殿を建てる計画が、俺様のみが贅沢三昧する計画がぁあ頓挫しちまったじゃねぇか!

 『そういえば、お主~聖女と会うんじゃろう~~』
 「そうだ! 面会しろ面会しろとうるせぇからな。あの女!」

 あの女~~見てくれはいいから俺様のものにしてやると言ったら、「あなたがバルド先生より優れているとでも?」とか淡々とほざきやがった!


 また無能バルドかよ。イライラするぜぇ。


 『ハハハ~また一層ご機嫌ではないかぁ~』
 「うるせぇ! おまえ本当に叩き割るぞ! 俺様をバカにするんじゃねぇ!」

 『ハハハ~けっこうけっこう~怨念はわしの糧じゃてな~~お主のは絶品じゃわい』

 「チッ……」


 聖女か……