「バルドさま! あれ!」
 「はわぁああ! バルド将軍なんでありますか~あの巨大なゴーレムは!」

 主戦場の側面に出た俺たちを待っていたのは、大きなゴーレムだった。
 楽勝だったとははいえ、先刻の故障ゴーレム達の対応で随分遅れてしまった。
 戦場は倒れた兵士や、魔法でえぐられたであろう穴があちこちにできている。

 「バルドさま! なんだかナトル兵の周囲が真っ暗です、あの巨大ゴーレムからモクモク出ているのは闇魔法?」
 「バルド将軍~~これはおそらくノースマネアの最終魔導兵器ではないでしょうか! ひぃいい!」

 リエナとヌケテルがなんだか焦っているようだが……

 ふむ―――俺は冷静に戦場を見渡した。

 ノースマネア軍で健在な部隊はほとんど見当たらない。いるのはデカいゴーレム1体だけ。
 そりゃそうだ、アレシアが先鋒を務めたのだ。頑張ったんだな。

 これはナトルの勝利でほぼ確定だろう。

 「バルドさま! このままじゃナトル軍は……」
 「バルド将軍、あんな巨大ゴーレムどうすればいいのですかぁあ! 怖いよぉおお!」

 デカいゴーレムからは黒煙がモクモクと吹き出ている。

 「2人とも何を言っているんだ? 楽勝じゃないか」

 「ええ? 楽勝って!? バルドさま!」
 「何を言ってるのでありますか? バルド将軍!」

 「リエナ、ヌケテル、あのデカゴーレムをよく見てみろ」

 「さっきから穴があくほど見てますけど……」
 「はわぁあ~~見れば見るほど強そうぅうう、であります!」

 「2人とも、もっと良く見るんだ。あのデカゴーレム、機器の整備不足で体中あちこちから煙が出ちゃってる。しかもそこらかしこからフォンフォンと故障音が聞こえるだろ? つまり、さっきの黒人形たちと同じだよ」

 「え? いや? 良く見る? え……あれは闇の魔道具が作動しているんじゃないのかしら? え? 違うの? わたし考えすぎなの?」

 「ふむ、リエナ。機械が煙を吹くというのはな、壊れているということだ。俺の経験談にはなるが、むかし洗濯釜を煙がでるまで使ったら完全に故障したよ。白ティーシャツの汚れがまったく落ちなくなったんだ。とくにワキの汚れとか」

 「し、白ティーシャツって何の話!?」

 そしてあのフォンフォン音は間違いなく壊れる一歩手前のシグナルだ。
 間違いない。洗濯窯もぶっ壊れる直前にフォンフォンいってたからな。

 「だから、オッサンでもなんとかなるよ」

 (バルドさま、もしかして煙が出てたら全部故障だと思っている? でもさっきのゴーレム部隊をビックリするぐらいサクッと全滅させたし。ってことはバルドさまの言う事が真実? でもそもそもバルドさまは強いんだからゴーレム達も強かったはず。だから、え~~~と、あ~ん、わたしまた頭痛くなってきた)

 リエナが頭を抱えてウンウン独り言を呟いている。まさかまたトイレか? 流石にここはガマンしかないぞ。

 「でも、剣聖のアレシアもあの闇の中にいるはずですよ。こちらからは良く見えないですが、彼女も苦戦しているじゃ?」
 「ハハ、リエナ。アレシアは本当に凄いんだ。あんなデカゴーレムは敵ではないよ。だが、彼女は暗がりが苦手でな……ここだけの話だぞ」
 「そうなんですね……。なら、なおさらなんとかしないと」

 ふむ、アレシアやナトル兵の活躍で勝敗の行方はほぼ確定している。
 何かしらの助けになればいいとは思ったが、最後に少しだけ協力できそうだ。

 俺は両足にグッと力を入れた。

 「よし、リエナとヌケテルたちは負傷兵のサポートに回ってくれ」
 「バルドさまは?」

 「俺は―――ちょっと行ってくる!」

 「ちょ、行くって! またですか!」
 「ふはぁああ! なんかこの光景さっきもみたような気がするであります! ってもう行っちゃってるぅう」


 俺は全力で戦場を駆けぬける。前方に黒煙とデカゴーレムが見えた。
 デカゴーレムはギシギシと今にも壊れそうな音を立てていた。

 「ん! 【闘気】か!?」

 黒煙の中から強い【闘気】を感じる。アレシアだ。

 そうか、暗闇と戦っているんだな……

 いつものアレシアにしては弱い【闘気】だ。だが震える暗闇で出来る限りのことをしているんだろう。
 俺も、【闘気】を練り始める。アレシアに当たらぬよう、彼女の気配とは少しずらして斬撃を放つよう調整する。

 接近すると、なんだかデカい音が聞こえてきた。ガガガという破壊音とともに衝撃波が来る。
 おそらく魔力漏れでも起こしているのだろう。無理に故障機械を動かすからだ。

 よし、【闘気】は十分に練りこんだ!

 アレシアもすでに剣技を発動させている。

 おまえには遠く及ばんが、オッサンも加勢させてくれ―――


 ――――――「一刀両断! せいっ!!」


 俺の斬撃がアレシアの斬撃のあとを追う。

 2つの斬撃は、迫りくる衝撃波を真っ二つに切り裂いた。
 その衝撃波があたりに立ち込めていた黒煙を吹き飛ばす。


 ―――アレシアっ!


 俺は、ぐったりとその場に膝をついているアレシアの元に駆けつけた。

 「せ、先生。やっぱり来てくれた」
 「ああ、もちろんだ。あの暗闇でよく頑張った。偉いぞ!」

 「あたし………」

 アレシアは涙声をつまらせて、それ以上は何も言わなかった。

 本当に良く頑張ったぞ。最大の苦手をそう簡単には克服などできない。だがアレシアは逃げずに立ち向かったのだ。なんと誇らしい弟子だろう。

 ―――さて

 俺は大きく息を吐くとデカゴーレムの前に立つ。
 デカゴーレムの頭部には人が乗っているようだ。なんだかやたらわめいている。

 楽勝な部分しか残っていないが―――

 「よし! あとはオッサンに任せておけ!」

 俺は銅貨1枚の安物剣を正眼に構えた。


 「こい! デカゴーレム! 俺はさっさと終わらせて、宿屋に帰るんだ!」