ガシン! ギギギ! ガシン! ギギギ! ガシン! ギギギ!

 俺たち遊撃隊はいったん付近の森に身を隠して敵の様子を伺っていた。
 見たこともない黒い物体が、きしむような音を立てつつ整列して行軍している。

 「なんだあれ? 黒い人形?」
 「バルドさま、あれは恐らく魔導人形です」
 「魔導人形? にしてはセラと違って、随分ギギギとたてつけの悪そうな奴らだな」

 「はわぁあああ! バルド将軍~このヌケテル聞いたことがありますです! あれは恐らく魔導兵器黒超合金重装兵《ブラックゴーレム》ですぅ!」

 「なんですって! それってノースマネア最強の魔導人形部隊じゃないの!」

 リエナもヌケテルの言葉に動揺したような声をあげる。

 ―――だが、少し待て。

 そう、こういう時は焦ってはいけない。焦りは相手を過大評価してしまうからな。
 俺は今一度、黒い人形たちをじっくりと観察した。

 「ひぃいい~バルド将軍~こんな少数部隊ではとても勝ち目がないであります!」
 「いや、二人とも落ち着くんだ。あの黒人形をよ~く見てみろ。最強部隊なんかじゃない」

 リエナとヌケテルが、目を凝らして敵を見る。

 「えと、バルドさま。わたしにはいかにも強そうなゴーレム部隊に見えます」
 「リエナ姫の言う通りであります。なんかとても硬そうだぁ」

 「違う違う、もっとよく見てみろ。関節の節々から煙が出てるだろう」
 「あ~たしかに……」
 「な? つまり故障している不良品たちなんだよ」
 「ええ! どういうことですか!?」

 ふむ、じっくり観察すれば容易にわかることだ。魔導人形のセラも異変が起きた時は煙を吹いていた。
 洗濯窯だって、調子が悪くなると煙を吹く。つまりあの黒人形たちは、前線に立てない整備不足の不良品たちなのだ。

 「良く考えてみろ。なぜそこまで精強な部隊をわざわざ裏道から移動させる必要がある? むしろ主力の前面に配置してナトル本体に決定打を与えた方がいいだろう」

 「え、ええ……バルドさま……そ、そうなんでしょうか」

 「つまり整備不足の不良品ゆえに、裏道からの陽動作戦ぐらいにしか使えない部隊ということだ。そこまで恐れる必要はないんだ。ここはちゃちゃっと片付けて、早く敵本体へ向かおう」

 「そ、そうですね? ……いや、え? ちょっとわたしなんか良くわからなくなってきた……」

 リエナが頭を抱えている。まあ見た目はゴツそうな奴らだからな。だが中身はただの不良品だ。
 そうとわかれば―――

 「よし! ちょっと行ってくる」

 「え! ちょっ、バルドさま行くって!?」
 「ひゃぁああ、バルド将軍~~なに1人で突っ込んでるのですか~自殺願望者でありますか!?」

 「総員、俺の指示あるまで待機だ~~~」

 そう言いながら俺はゴーレム部隊へ全速力で駆け出した。


 「数は……およそ20か、よし!」


 走りながら【闘気】を練りこんでいく。
 全身にパワーがめぐっていき、一気にゴーレムとの距離を詰めた。

 俺は、一体のゴーレムに狙いを定めて抜刀しつつ上段に構える。
 そのまま走りぬけつつ―――

 「一刀両断! せいっ!」

 不意をつかれたゴーレムは防御する暇がなかったのか、頭から綺麗に真っ二つになりその場にズーンという地鳴りとともに崩れ落ちた。

 「まずは一体……」

 切り捨てざまに地を蹴り、速度を緩めず次のゴーレムに斬撃を浴びせる。


 「うわ~、た、隊長! 敵襲です! 何者かがブラックゴーレムを斬りました!」
 「ブラックゴーレムを斬る!? バカな! 」

 「いや、しかし現に我らの魔導兵器黒超合金重装兵《ブラックゴーレム》が次々と真っ二つに!」
 「なんなんだ、ナトルの奴ら強力な魔導兵器でも使用しているのか!」
 「いえ! オッサンです! オッサンが剣で斬りまくってます! 「せいっ!」「せいっ!」言いながら!」
 「うわぁああ本当に剣で斬ってやがる! なんだあいつは気ちがいか!」
 「隊長! すでに5体が行動不能! オッサンいまだ「せいっ!」と意味不明な詠唱を続けています!」
 「グッ……こんなところで。我が最強ゴーレム部隊がナトル軍背後をつく作戦が……」


 ―――ふむ、やはりだ。こいつらたしたことないぞ! 

 これがしっかり整備されたゴーレムならアレシアは対応可能だろうが、俺では太刀打ちできなかっただろう。

 だが……

 「―――故障したゴーレムごときなら! オッサンでも十分だ!」

 俺は【闘気】を保ちつつ、次々とゴーレムを斬りまくった。
 ゴーレムの動きはそれほど早くはなく、斬りやすい。

 「隊長! さらに5体がやられました!」
 「クソっ! 残りのゴーレムでオッサンを包囲しろ! 魔力ゴーレム砲発射用意! 上級魔法に匹敵する魔力砲で灰にしてやる!」


 ゴーレムたちがズンズンと俺を取り囲んで、口を大きく開ける。
 ブゥウウウンという音とともに、ゴーレムの口から光が漏れはじめた。

 「おいおい、これ……」

 ああ、もう動力である魔力が漏れ出しているじゃないか。完全に故障しているぞ、こいつら。こんなんで戦場に持ってくるとかどうかしている。ただの足手まといだ。

 一斉にゴーレムの口から光が飛んでくる。魔力漏れだ。
 俺はグッと剣を握りしめて―――

 「一刀両断乱れうち!!」


 「せいっ!」「せいっ!」「せいっ!」「せいっ!」「せいっ!」


 俺の斬撃はゴーレムの光をすべて両断していく。
 魔法とは複雑な術式と魔力が一体化するからこそ、強力な攻撃力を発揮するのだ。だから、魔力漏れの光ぐらいはなんとでもなる。


 「隊長! オッサンが魔力ゴーレム砲を斬ってます!」
 「はあぁああああ! オッサンなに斬ってるんだよぉおお! なんでもありかよぉお!」
 「ふたたびオッサンがゴーレムを斬りはじめました! 魔力ゴーレム砲~再装填間に合いません!」
 「なんなんだ……あいつは」

 ズーン!

 最後のゴーレムを両断した俺は、その後方にいた兵士たちに視線を移す。

 「このゴーレムたちは戦場に出すべきでは無かったな」

 「ひぃいいい! 言ってる意味がわからん! ノースマネア最強の我がブラックゴーレム部隊を1人で壊滅させるとはぁああ! あ、悪魔だ! 悪魔のオッサンだ! た、退却~~!」

 指揮官らしき男は、良くわからないことを言いながら周りの兵士とともに逃げていった。



 ◇◇◇



 「よし。行軍再開だ。道草を食った分急がんとな」

 故障ゴーレムを片付けた俺は、自分の隊に戻ってきた。
 ナトル本体と敵本体はすでに戦闘が始まっているかもしれない。本来の目的である後方かく乱でサポートしてあげないと。

 あれ……?

 リエナとヌケテルが目を見開いて俺を凝視している。
 どうしたんだ? 固まってプルプルして。もしかしてトイレか? ヌケテルはそこら辺ですませろで済むが、リエナはそういうわけにはいかないぞ。

 「え? え? バルドさま「せいっ!」「せいっ!」ってゴーレムを斬りまくってませんでした?」 
 「ひぃいい、あの魔導兵器黒超合金重装兵《ブラックゴーレム》を、全滅させたぁああ! なにこの人ぉおお」 


 どうやらトイレではないらしい。ちょっと焦ったじゃないか。


 「ああ、あれは予想通り見せかけだけの部隊だったよ。手ごたえが無さすぎた。そんなことより行軍を急ごう」

 「ええ! そんなこと!? 最強部隊のはずだけど? え? ちょっとバルドさまったら聞いてます?」
 「バルド将軍~うわぁ~何事もなかったようにズンズン歩き始めてる~」

 とにかく急がねばならん、本体の戦闘はもう始まっているかもしれん。

 弟子のアレシアは、俺よりもはるかに厳しい激戦地で戦っているのだ。俺も人形を斬るぐらいはできる。
 少しぐらいは助けになればいいが。