おお~俺様の金山! 金の倉庫! 金のやま~~!!
 いかん心の声がもれそうだぜぇ。
 俺様は、フリダニア王国北部の山岳地帯の砦にいる。

 こいつのおかげで俺様だけが贅沢ができるし、裏金としても俺様だけの為に使うことができる。 
 この入手不可能と言われる超高級ワインも、金に物を言わして手に入れた。

 グビグビグビ、あ~~うめぇえ。

 だが、ノースマネアの奴らがこの大事な大事な俺様の金山を狙ってやがる。

 やらんぞ! 絶対にやらんぞ! 誰にもやらんぞ!

 ―――これは俺のものだ!

 と大声で言いたいとこだが、今日は隣に宰相のピエットがいやがるので心の叫びに止めておく。
 こいつは俺が隠し金山を保有していること知らんからな。ちなみに金山は砦から少し離れたところにあり、俺様の息のかかった一部の者しかその存在を知らない。

 今日は防衛戦のための決起会である。数日後にはやつらは攻め込んでくるだろう。
 眼前には俺様の精鋭部隊がズラリと整列している。俺様はワイングラスを置いて口を開いた。

 「さて、俺様の金……じゃない。国に侵攻しようとするアホどもがいる!」

 アブねぇ、金山言うとこだった。
 周りを見るが、集まった守備兵たちに特に変わった様子はない。
 クハハ~まあ俺様の駒であるこいつらに感づかれるわけもないか。

 「国の為、しいては国民のために奴らの侵攻を食い止めるのだ! 絶対に! 何があってもな!」

 とりあえずそれらしいことを言っておく。本当は金山のためにと言いたいところだが、ここは我慢だ。

 「ゲナス王子殿下! お聞きしてよろしいでしょうか?」

 整列した兵の1人が一歩前に出た。
 ああ? 一兵卒ごときがなに勝手な事してやがる!

 無視しようとしたが、ピエットが、これから死線をくぐる兵の言葉を聞くのも王代理の仕事とか、グチグチコソコソ耳打ちしやがるので、仕方なく特別に聞いてやることにした。

 「なんだ、早く言え」

 「はい、守備隊隊長マウルでございます」

 守備隊長ごときの名前なんかどうでもいいんだよ。早く言えよな。

 「敵であるノースマネアはここ山岳地帯とナトル王国への2方面作戦で侵攻してくると聞きました。こちらの山岳地帯に多くの兵力を集結させているのはなにかしらご理由があるのでしょうか?」

 理由ぅ~~だぁ? 守備隊長ごときが生意気な!
 あるよ! 俺様の金山を守るためにきまってんだろが! だがここはもっともらしい理由を適当に言っとくか。

 「フン、そんなことか。簡単な理由だ。ナトルは自国の兵がいるではないか。やつらは俺様の庇護のもとに存在が許された国だ! こんな時こそ、その恩を俺様に全力で返す時なのだ!」

 (いや、同盟国だからこそ援軍をもっと送るべきなんじゃ?)
 (ていうかこんな重要拠点でもない山岳地帯よりナトル方面のほうが大事じゃないのか?)
 (なぜこんなところの守りを厚くするんだ? 廃坑があるぐらいじゃないのか?)

 生意気な駒どもがザワザワと勝手な事を小声でほざき始めた。
 マヌケどもが、廃坑じゃなくて超有望な金山なんだよここわ!

 「ゲナス王子、大事な同盟国にやつらや庇護などと……兵の前ですぞ。もっとお言葉をお選びください」

 はぁ~ピエットの野郎までグダグダ言い始める始末だ。

 「ゲナス王子殿下、失礼を承知で申し上げますが、ナトルが負ければその後方には砦などの防御施設はほとんどありません。そうなれば敵はフリダニア本土へ侵入してきます。こんな相手も攻めにくい山岳地帯には必要最低限の兵を配置して、主力はナトルにて戦うべきかと存じます」

 ああ? こいついちいちうるせぇなあ。もしかして敵のスパイか? ナトルを抜かれたってクソド田舎の町が延々と広がっているだけじゃねぇか、そんなもんより金山の方が重要に決まってんだろうが。

 そして再びピエットが俺に耳打ちをしてくる。

 「ゲナス王子、私も守備隊長の考えに賛成です。現状戦力があまりに偏りすぎです。ナトルを助けに行きましょう」
 「はあ? おまえアホなのか? あんな戦略素人ぽい奴の意見など鵜呑みにしやがって」
 「彼は元剣聖アレシア殿の部下です。今までこの国の国境を守り続けてきた者ですぞ」

 剣聖……そうか~~あのクソバルドの弟子の部下ってか~~どうりでアホすぎるわけだ。

 「ゲナス王子殿下、事は急を要します。やはりナトルにもっと戦力を送るべきです。守備隊の半数を送ってもここは大丈夫です」

 イラ~

 「そうです、王子。ここは守備隊長殿の言うとおりにした方がよろしいかと」

 イライラ~~

 「ゲナス王子殿下! どうかご英断を!」

 イライライラ~~

 「だまれこの剣聖のクソ犬たちが! おまえたちは全員クビだ!!」

 「ええ? ゲナス王子殿下、それはいったいどういう!?」

 「どういうもクソもないわ! クビだ! 解雇だ! さっさと去れ!」

 俺様に指図するんじゃねぇよ。

 「ゲナス王子殿下、いけませんぞ。彼らは優秀な守備兵なのでしょう? ここで失うのはとてつもない痛手ですぞ」

 「はあ? よく見ろ。俺様に意見するアホどもが優秀なわけがないだろうが! 今わかった! こいつらずっと辺境でダラダラしてただけだったんだ! それよりも先の戦争で鍛え上げられた俺様の直属軍の方がはるかに強いわ!」

 ようは、ただ飯喰らいのゴミどもてことだろ。いらんわそんなやつら!
 俺様の金山防衛は、王都から引き連れた本体のみで十分だ!

 無能守備隊どもは、解雇の撤回を嘆願してきたが、俺様は頑として聞き入れなかった。諦めたのか、守備隊どもはしぶしぶ去って行く。

 あ~~スッキリしたぜぇ。

 俺様は満足げに超高級ワインを楽しむのであった。