「特別役バルド殿! いらっしゃいました!」

 バーンとでっかい扉があいて、オッサンめちゃくちゃ注目されてしまった。扉開ける人の声、ボリューム間違ってない?
 にしても人がいっぱいだな。主には貴族と軍人である。

 「バルド? 聞かない名だな?」
 「特別役だと? 貴族でもなさそうだが」
 「なぜリエナ王女殿下がオッサンと?」

 ザワザワしはじめる王城内、謁見の間。
 うわぁ~やだやだ~なんか無駄に注目浴びてるじゃないの、罰ゲームだぞこれ。

 俺の横にはリエナがついている。そしてもう一人。剣聖アレシアもついてきた。
 もう剣聖ではないのだが、先生が行くならあたしも行くと聞かなかったので連れてきた。

 「お父様、バルドさまをお連れしました」
 「うむ、我が娘リエナよご苦労。そしてバルド、よくぞまいったな」

 とりあえず王の御前なので跪く。いや、どちらかというと来たくなかったんですけどね。

 「うむ? バルドの隣にいるのは剣聖アレシア殿じゃな?」

 「王よ! あたしはすでに剣聖を辞した身だ! アレシアでいい!」

 アレシアの言葉が謁見の間に響く。言葉使いに難ありだがまあ言いたいことは伝わったので、良しとしよう。

 「なんと!? 剣聖殿だと!? って辞めた?」
 「なぜゆえにアレシア殿がナトルに? もしやフリドニアの援軍として来られたのか?」

 会場がザワザワしはじめる。剣聖だしそりゃそうか。

 「ふむ、わかった。アレシア殿と呼ばせてもらう。してバルドよ、隣国のノースマネアが数日後にわがナトルに侵攻してくる。ゆえに特別役のお主を招集したのじゃ。そなたと交わした約定、よもや忘れたとは言わせんぞ」

 広間が再びシーンと静まる。いや、ザワザワしてていいのに。オッサンに注目しても何もないぞ。

 え~と、これ俺がじゃべらないといけないやつか。

 「はは~~国王陛下。このバルド謹んで特別役としての役目を果たさせて頂きます~~」
 「うむ、良い返事じゃ! 期待しておるぞ!」

 「ですが、国王陛下、私めはただの宿者の親父にございます。なにもこのような広間での拝命など無用。どうぞ末端の一般平民部隊にて、己が力量に見合った働きに務めたく存じます」

 まあ、当然のことだ。特別役も多数いるのだろう。俺も彼らと共に役目を果たせればと考えた。

 「はあ? なに言っとるんじゃ。お主にはナトル主力の先鋒を任せるぞ」


 ―――はい? 今何と言いました? この人?


 「陛下! このような氏素性もわからぬ宿屋の親父に、栄えある一番槍を与えるなどどういうおつもりか! 信用できませんな」
 「そうですぞ、それでなくてもナトルの兵力は限られているのです! お戯れがすぎますぞ! どうぞお考え直しを!」

 静まった広間が再びザワつきはじめる。そりゃそうだろう。
 みんなもっと言ってくれ。この王様そうとうヤバいぞ。 

 「フハハ! まあそうなるか~みな聞くが良い。この男は一撃でミスリルベアを両断した腕前を持っておる。それに【闘気】もあつかえるのじゃ。どうじゃ不服はなかろう?」
 「そうですよ! みなさん! バルドさまはわたしとお父様を救ってくださいました。そんな人が裏切る訳がありません!」
 「先生は、あたしの恩師だ! 全軍の先鋒は当然だ!」

 王様、リエナ、アレシアがなんか興奮しながら良くわからない事を口走たっことで、広間はさらにザワつき始めた。
 ふぅ~~この人たちの俺推しはなんなんだろうか?

 ただのオッサンに何を高望みするの? こんなオッサンが先頭にいたら完全に敵に舐められるぞ。 

 はぁ~ちょっと現実的な提案をするか。

 「国王陛下! 分不相応なご評価を頂き誠にありがとうございます。ですが、ただのオッサンを先鋒にするにはあまりにリスクが大きすぎます。やはり勇猛と名高いナトルの騎士にお願いするのが筋でしょう」

 「ううむ~そうかのぅ……であればアレシア殿にお願いするのはどうじゃ?」
 「え? アレシアですか……いや、まあ」

 まあ、元剣聖のアレシアなら申し分はないが、ここは彼女自身の意思を尊重したい。俺を慕ってナトルまで訪ねてくれたのは嬉しいが、戦争に巻き込むことは想定外だからな。
 俺は彼女に視線を向けると……

 「承知した! あたしがやる! 先生の露払いは任されよ!」

 ……即答だった。

 「よく考えたら先生はナトル最後の砦となるだろう! だからド~ンと大将席に座っていてもらえばいい! ってことに今気づいた!」

 いや、座らないからね。そんなおっかない席。オッサン総大将とかなんの罰ゲームだよ。

 結局のところ、ナトル主力の先鋒はアレシアが率いるという事に決定した。
 まあ剣聖の実績があるので、この場の貴族連中も一応に納得したようだ。

 ちなみに俺は後方予備部隊の一兵士として頑張ることになった。なんか王様がブツブツ言ってたが押し切った。

 よし、これで話はまとまった。2日後に出陣らしいから早く宿屋に帰ろう。もうここにはいたくない。

 「バルドさま~わたしも一緒に行きます!」

 あ~~話まとまってなかった……リエナぁ。

 「ちょっ、リエナ姫はいくらなんでもマズいかと。戦場ですよ? ねえ国王陛下?」
 「ふふ~バルドさま~わたし回復魔法とか補助魔法が得意なんですよ! それにどのみちこの防衛戦に敗れたらナトルは終わりです。だったら王族であるわたしも戦いますよ!」 

 「うむ、リエナよ良くぞ言った。それでこそ我が娘よ。お主はバルドにつくのじゃ。バルド、リエナを頼んだぞ」

 「つくのじゃ」って……姫を前線に出していいの? 
 しかもオッサンにつけてどうすんの?

 などと頭を抱えていると、ドタバタと広間に近づく足音。

 バーンとでっかい扉が勢いよく開かれる。

 「ちょ、ちょっと将軍! 勝手に入られては困ります!」
 「はっは~、吾輩を誰だと思ってるんだ! 問題な~~し!」

 1人の男がズカズカと広間に入ってきた。

 鎧の紋章……フリダニア王国のものだ。そういえば、主力でないにせよフリダニアの援軍が来るって話だけど。

 「はっは~、無敵のヌケテル将軍参上! 弱小ナトル~安心しろ! 吾輩が来たからにはノースマネアなどダーンしてガーンしてバーンだ!」


 うわぁ~なんか微妙なやつきた……