シュート決めたら付き合って!!



次の日。今日は朝会なので体育館に全校生徒が集まる。
クラスで固まって並ぶのだが、朝早く来た順で並ぶので、いつも遅刻ギリギリな俺は大体後ろの方だ。


「はよ、仲川」
「おはよ」


たまたま前にいた仲川に話しかけると、仲川は軽く手を挙げた。


「昨日何もなかった?」
「昨日?」
「俺ら夏弥に片付け任せちゃっただろ」
「あー……」


昨日のことを思い出して言葉を濁らせると、顔を顰めた仲川がずいっとやってきた。


「なんかあった?」
「まあなんていうか……告白、された?」
「はぁっ!?」


仲川が声を荒げる。突然のことに周りの人も、俺も、驚いた。


「急にデカい声出すなよ……」
「いや、だって……!そんなんびっくりするだろ」
「俺もびっくりした」


激しく同意だ。それを表すかのように大きく首を縦に振る。


「誰に?」
「後輩の……」
「後輩!?」


いちいちリアクションが大きいな、こいつは。リアクション芸人でも目指したらどうだろうか。


「夏弥部活入ってないのに、後輩に知り合いなんていんの?」
「いないよ」
「じゃあなんで……」
「一目惚れ?らしい」


自分でも、どこにその要素があるのか分からない。


「どんな物好きだよ」
「おい仲川、今なんつった?」


仲川がぼそっと呟いた一言に噛み付いた。
否定はしないが、他人に言われるのは話が別だ。


「で、なんて返事したんだよ。まさか付き合ったとか言わないよな?」
「付き合ってない。俺そいつのこと知らなかったし。友達からってことになった」
「じゃあこれから付き合う可能性もあると……」


仲川がそう言ったところで、どかっと背中に衝撃を感じた。


「痛っ……」


その痛みに思わず振り返ると、そいつはパァッと笑う。


「夏弥先輩、おはようございます!」


満面の笑みのコタが俺に抱きついてきた。俺の頭の上に、コタが顔を載せる。


「コタ、暑いから離せ」
「えぇ……良いじゃないですか」


俺を離す気を微塵も感じさせないコタにため息をつき、仲川に助けを求めるように視線を送る。
それに気づいた仲川は怪訝そうな顔で俺たちを見つめた。


「お前、夏弥から離れろよ。一年だよな、夏弥と知り合い?」
「はい!昨日友達になりました」


仲川はコタを俺から引き離しながらコタに問いかける。
コタの言葉に仲川の眉間の皺が一層深まった。


「昨日?……ってことは、お前?夏弥に告白したの」
「そうですよ」


コタはさも当然かのように頷く。
そんなコタに仲川はずいっと近づいた。


「……なに企んでる?罰ゲームかなんかか?」


仲川は刺すような目線でコタを見据える。それを見ていた俺が寒気を感じるほどだ。


「いえ。本気ですよ、おれは」


淡々と、先程の笑顔のままコタは言った。だが、その目の奥がギラついていたのを俺は見逃さなかった。


「そうだ。夏弥先輩、今日の昼休み先輩の教室行っていいですか?」
「え、なんで?」
「昼ご飯一緒に食べたいじゃないですか」
「まぁ、別に良いけど……」
「やった」


俺が頷くと、コタは優しく笑った。今までとは違うその笑みに、ドキッとする。


「お前、早く自分のクラスのとこ行けよ」


俺の腕を引き寄せながら仲川がコタに言う。


「嫌です」
「おい」


いがみ合う2人の間に火花が散っていた。さてはこの2人相性悪いな。

若干呆れながら2人を見ていると、コタの首根っこを誰かがくいと掴んだ。


「なにしてんの胡太郎。早く行くよ」
「あ、逢坂。ちょ、引っ張るなよ」
「すいません、先輩方。すぐ連れて行きます」


そうぺこりと俺たちに頭を下げた、コタの友達であろう逢坂と言う男は、ズルズルとコタを引きずっていく。


「あぁ〜夏弥先輩〜」


コタの情けない声がどんどん遠ざかっていった。
大きく息をついた仲川が俺に言う。


「あいつなんなの?」
「俺もよく分からん」
「気をつけろよ。あいつ冗談か本気か分からないけど、お前のこと狙ってるらしいし」
「まあ、見た限りそんなに悪いやつじゃないっぽいけど…」


そう言いながらコタの方を見る。逢坂となにか楽しそうに話していたが、俺の視線に気づくとニコッと笑いながらブンブンと大きく手を振った。俺は苦笑しながら控えめに手を振り返した。



ーーーー



「せんぱーい!」


4時間目が終わり、今から昼休みだ、というときにコタが教室に突撃してきた。その後ろには、コタに無理やり連れてこられたであろう逢坂もいた。


「朝約束したんで急いできました!」
「にしても早すぎるだろ……」


チャイムが鳴り終わった数秒後には来た気がする。
学年ごとに教室の階は違うので、このスピードは異常だ。


「お前また来たのかよ」


俺の後ろから呆れたような顔の仲川が顔を出す。


「しかもなんか増えてるし」


仲川はそう言って、コタの後ろにいた逢坂を指さした。
逢坂が軽く頭を下げる。


「すみません、俺は行かなくて良いって言ったんですけど……」
「あ、いや、お前が嫌とかそういうわけじゃないから」


バツの悪そうな逢坂に慌てて仲川が取り繕った。
こういうところは優しいなと思う。


「どこで食べます?」


いつのまにかコタは俺の背後に回って、顔を覗き込んでくる。


「屋上とか?」
「え、屋上入れるんすか!?」
「入れるよ」
「じゃあ屋上行きましょ」


コタは嬉々として教室を出た。「先輩早く!」と急かされて教室を後にする。俺の後ろには仲川と逢坂が続いた。


「お前、あれとどのくらいの付き合いなん?」
「えっと……たしか、中学からですね」
「すげぇな。あんなうるさいのに」
「慣れればそんなですよ」


どうやら仲川と逢坂は割と馬が合うようだ。謎の安定感がある。
そんな2人の会話を聞いていると、あっという間に屋上についた。

それぞれなんとなくの場所に円になって座る。コタ、俺、仲川、逢坂の順番だ。
持ってきた弁当をつついていると、コタがなにか思い出したように口を開いた。


「夏弥先輩はバスケ部入ってないんですよね」
「あぁ……まあ、うん」
「中学の時は?」


コタのその問いに言葉に詰まった。
あの時の話をしてしまうと、どうしても思い出してしまう。
ならいっそ……


「…………やってない。バスケはやったことない」


嘘をついたほうがマシだ。
キリと胸が痛んだが、あの時の痛みに比べれば大したことなかった。


「そうなんだ」


コタは気づくていないのか、はたまた気づいていて気づかないふりをしているのかわからない。でも、深くは聞いてこなかった。


「仲川先輩は何部なんですか?」
「俺はサッカー部。逢坂は?」
「バレー部です」


流れを変えるように2人が話しだして少しホッとする。
弁当を食べていると、いつのまにか食べ終わっていたコタが俺の背後に回る。後ろから腰に手を回された。


「やめろコタ。食べにくい」
「じゃあ先輩が食べ終わったらこうしても良いってことですか?」
「そういうわけじゃない」


そう言ってグイグイとコタの顔を押す。「いたいいたい」と言ってきたが無視だ。


「俺が目離したらすぐこれだなお前は」


語気強めの仲川が俺から強引にコタを引き離した。
頼れる男だな、仲川は。


「つか、俺お前のことあんま知らねぇんだけど。逢坂のことも」


仲川はコタと逢坂をピシッと指さした。
「え?」と腑抜けた声を出したコタに逢坂がため息をついた。


「俺は逢坂一で、こいつは京原胡太郎です。先輩たちの名前もちゃんと聞いてもいいですか?」
「俺は仲川龍河」
「羽田夏弥。いつも思うけど仲川の名前ってかっこいいよな」


俺がそう溢すと逢坂が大きく頷いた。


「俺も思いました。俺の名前シンプルなんで羨ましいです」
「一もかっこいいだろ」
「そうですかね?ありがとうございます」


ニコニコと話す逢坂を見ると人当たりの良さが溢れ出していた。話しやすい雰囲気になっているのは逢坂のおかげなのかもしれない。
コタはというと……


「せんぱぁい。おれ先輩目当てで部活入ったのに、先輩いなかったら意味ないじゃないですかぁ」
「不純な動機で入部すんのやめろよ」
「もう辞めよかな……でも辞めれないんだよなぁ」


懲りずに俺を背後から抱きしめて俺の頭の上に顎を乗せた。俺の頭は顎置きじゃないっての。もう一度グイグイとコタの顔を押した。


「なんで辞められないん?」
「おれ身長高いから、需要あるんすよ」
「なにそれ、俺に対する嫌味?」
「違いますって!……ちなみに先輩は何cmなんですか?」


言葉に詰まる。少し考えてから口を開いた。


「…………165cm」


ちなみに本当は164cmだ。こんな背の高いやつの前なのだから1cmのサバ読みは意味を成さないかもしれないが、そんなの関係ない。俺のプライドの問題だ。


「お、お前はどうなんだよ」
「あー、俺ですか?たしか181cmでした」
「このクソノッポ野郎が」
「先輩口悪くないですか?」
「うるせぇ」


嫌味にしか聞こえない。一個下なのに俺より17cmも高い。ちなみに17cmは500ml缶の高さと同じくらいだ。


「コタ、500mlの缶ジュース買ってきて」
「パシリ?なんで?」
「2本な」
「え!2本っておれと先輩の分ですか!?一緒に飲もうってことですか?」
「俺が片足ずつそれに乗ればお前と同じ身長になる」
「何言ってんすか」


一瞬喜んだコタが肩を落としたのが目に見えてわかった。
それが面白くて思わず笑ってしまう。


「ごめんって。お詫びにジュース奢ってやるから。買いに行こ」


俺がそう言うと、コタは散歩に行く時の犬のように目を輝かせた。


「いいんですか?」
「ん、いーよ」
「やった。ありがと、先輩」


そう優しく笑ったコタの顔に不意に胸をつかれた。
多分この笑顔はいつまで経っても慣れないのだろう。