食材を持って裏庭に来た俺はスライムを探すことにした。
 ゲームの中ではスライムって大きくて可愛いと言われていた。

「ここに置いておくか」

 俺は食材に毒を注入して、裏庭に置いて観察することにした。
 屋敷の裏側はゴミや排泄物の処理場所になっている。
 そこに物を置いておけば、スライムが集まって食べて処理するはずだ。
 初めてみるスライムにドキドキしながらも警戒を強める。
 相手は一応魔物だからな。

 こっちが無理に捕まえようとしたら、攻撃をしてくる。
 最悪全身の毛や衣服を食べられて、全身ツルツルのスッポンポンの状態にされる可能性もある。

 それに生物から抽出をする時は、死んでいる必要がある。
 きっと魔物から抽出する時も同じだろう。

 しばらく待っていると、すぐにスライム達が集まってくる。
 ただ、俺がゲームの中で見ていたスライムとは全く違う。

「あれって本当にスライムだよな」

 目の前にいるのは、手のひらサイズで家庭にいる黒光りしたやつに似ている。
 ただ、違うのは色が半透明で動きがゆっくりなことぐらい。
 形が崩れて楕円形なのが見間違える要因だろう。
 それに何でも食べるため、本当にゴキブリと勘違いしそうだ。

「あいつらって本当に何でも食べるんだな」

 毒が入っていることが分かりにくいように、実験に使っていた死体のネズミの口に毒を忍び込ませた。
 そのままネズミを食べ終え、スライムが死ぬのを待ってみる。
 だが、動きを止めるやつはいない。
 むしろ他に獲物がないか、周囲をキョロキョロとしながら移動している。

「ひょっとしてまだ腹が減っているのか? 別名食いしん坊だもんな……」

 それだけ聞けば可愛い存在に思えるが、見た目がよろしくないからな……。

 屋敷の中にいる奴らが雪の病魔になっているため、スライム達は餌がなかったのだろう。
 持ってきた死体に再び毒を注入して、置いておくと再びゾロゾロとスライムが集まってきた。
 久しぶりの食事なのか、嬉しそうに食べているような気がした。
 どこかぶるぶると震えているしな。

 ひょっとしたら毒が効いてきたのだろうか。
 動かなくなったスライム達に俺は近づいて手に取ると、体がびよーんと伸びていた。
 まるで洗濯糊とホウ砂で作ったスライムのようだ。

「抽出!」

 すぐにスキルを使って抽出を試みる。
 だが、全く反応することなく、ピクリともしない。

「やっぱり魔物はダメ……うおおおおお!?」

 持っていたスライムが急に手にまとわりつくように動き出した。
 ブンブン手を振ってみるが離れる様子もない。
 まるで俺がご飯をくれる飼い主のような勘違いをしている気がした。

「いい加減にしろ!」

 投げるように大きく腕を振るとスライムは勢いよく飛んでいく。
 そのまま地面にベチャと落ちると、そのままどこかに行ってしまった。

「はぁー、襲われなくてよかっ……なんだこれ?」

 俺の手には何かドロドロした物が握られていた。
 まるでゲームの中で出てきたスライムゼリーのような――。

「抽出!」

 すぐに抽出すると、目の前にはいつものように表示されていた。

【抽出結果】

 スライムのかけら→スライムゼリー

 どうやらスライムを倒さなくても、素材があれば問題ないようだ。
 スライムゼリーはゲームで出てきた魔物の素材だ。
 あとはここから分解できれば、問題ないがいけるだろうか。

「分解!」

 初めて魔物素材で行う分解に、少しビビりながらも恐る恐る目を開ける。

「あれっ……」

 分解できると思ったが反応がないようだ。  やはり魔物は分解できないのだろうか。

「抽出したらいいのか?」

 抽出は一回までだったが、試しにやってみることにした。
 
【抽出結果】

 スライムゼリー→ゼラチン、魔力粉

「ぐへへへ、ゼラチンが出たぜ」

 俺が求めていたゼラチンを手に入れることができた。
 スライムゼリー(・・・)と言われるぐらいなら、ゼラチンと似たような成分が出てくると思っていた。
 それに抽出は一回しかできないと思っていたが、二回もできた。
 ひょっとしたらスライムゼリーのような魔物の素材と動物などは違うのだろうか。

 仮説としては魔物の素材は動物の死骸や草木と同じ扱いになるということだろうか。
 それなら魔物から獲れる成分は多岐に渡りそうだ。
 ただ、気になるのは初めて二種類の成分が出てきたことだ。

「魔物特有の成分だろうか?」

 ゼラチンはわかるが、魔力粉ってゲームの中でも聞いたことがない。
 初めてみる成分に戸惑いながらも、ゲームのように鑑定ができるわけではないため、そのままにしておくことにした。

 ゼラチンを手に入れた俺は急いで部屋に戻る。


「メディスン様、おかえりなさい」
「体は大丈夫なのか?」
「側付きメイドが何もしないわけにはいかないですからね!」

 さっきよりは元気なのは確かのようだ。
 それなら作業の手伝いをしてもらおうか。

「調理場に連れてってもらってもいいか?」
「調理場……ですか? メディスン様、やはりおかしいです。雪の病魔になっていませんか?」

 ラナは俺に近づき熱を測ろうとするが、全く熱くなくて首を傾げている。
 急に性格が変わったらびっくりするよな。
 ただ、以前と比べてラナの警戒心は減ったような気がした。

 メディスンは一度も調理場に行ったことがない。
 むしろ自分の機嫌が悪いからといって、作った料理を給仕している人に投げつけた記憶があるぐらいだ。
 本当に最悪なやつだよな。

 メディスンが最悪なだけで、俺が最悪なわけではない。
 そこだけは切り離して考えないと、精神的に辛くなる。

「次はどんな実験をするんですか? ラナを丸焼きにするつもり――」
「何を言ってるんだ?」

 まずはラナから俺のイメージを改革する必要がありそうだ。
 いくら幼い時から知っていても、今の俺の印象は悪すぎる。

「それよりも調理場に案内してくれ」
「わかりました」

 調理場に案内されると、すぐに準備に取りかかる。

「ラナはこれをすりおろしてくれ」

 俺はラナにりんごを渡す。
 今回はスライムゼリーから分解したゼラチンとリンゴでオブラートゼリーを作る予定だ。
 作ったことはないが、柔らかめのゼリーにして飲みやすくすれば食欲がなくても飲めるだろう。

 すりおろしたりんごができるまで、俺は水を温めてゼラチンを溶かしていく。
 ゼラチンは加熱をしないと、ムラになって均一に混ざらなかったはず。
 料理は一人で住んでいた期間が長かったため、どうにかできる。
 だが、ゼラチンってあまり使うことがなかったからな。

「メディスン様、全てすりおろせました」

 ラナからすりおろしたりんごを受け取ると、大きめの器に溶かしたゼラチンと混ぜていく。

「これが言っていたゼリーってやつですか?」
「ああ、子どもが薬を飲むにはこれが良いからな。あとは冷やして出来上がりだ」
「では外で冷やしておきますね」

 外には雪があるため、冷蔵庫がなくても冷やすことはできる。

「あとはラナがやっておいてくれ」
「えっ!? 直接ノクス様とステラ様に飲ませないんですか?」
「俺がやったら警戒するだろう。俺は嫌われた兄だからな」

 毒を作っていたやつの薬なんて絶対毒だと勘違いするだろう。
 それならラナが薬を持ってきたと言えば飲んでくれるはず。

「じゃあ、あとはよろしく。みんなにも飲ませてくれ」
「メディスン様!?」
「あとは……ぐへへへ、手伝ってくれてありがとう」

 俺はアセトアミノフェンとオブラートゼリーの飲み方を伝えて部屋に戻ることにした。
 途中で振り返って、ラナにお礼を伝えておいた。
 しっかり笑って気持ちを伝えたら印象は変わるだろう。

「メディスン様……気持ち悪さに磨きがかかってますね……」

 これでイメージ改善戦略はバッチリだろう。