翌日から麗麗が行ったことは、本当にただひたすら掃除だった。

 支給された口布をして、髪を布で包む。掃除道具を持って、与えられた区分を磨き上げる。

 同じ区分を掃除している女官たちの目は真剣だった。私語も一切ない。その様子は単に働き者であるという領域を超えているように思える。

 働いてみてわかったのだが、どうやら女官たちに与えられている仕事は大きく三つあるようだ。

 ひとつは、麗麗のようにひたすら掃除をする仕事。もうひとつは、冬花のように白蓮妃に直接仕える仕事。そして、もうひとつは……。

 麗麗はたった今掃除していた回廊の奥、その先にある房に目を向けた。

 あの房では、なにかの作業が行われているらしい。毎朝そこに吸い込まれていく女官たちは皆、重装備だった。

 口布に、髪を保護するための布は麗麗たちと同じだが、それに加えて指の先から手首までを覆う細い布──包帯のようなものを巻いているのだ。

 朝から晩まで掃除して、そのあと広い房で支給された油条と豆漿を食べる。食べ終わったらすぐに就寝だ。同じ房で食事をし、寝ているにもかかわらず、女官たちは一切しゃべらない。

 (変な雰囲気……)

 しかし、その理由はすぐにわかった。

 麗麗が月魄宮で働くようになって、三日目。

 「()(シュン)。李順はいる?」

 突然、麗麗たちの清掃担当区分に冬花が現れた。名を呼ばれた女官は驚いた様子で「私です」と手を上げる。

 「おめでとう。娘娘はあなたに加護を授けると決めました。すぐに支度をなさい」

 「ほ、本当ですか!」

 「ええ。()(げん)不語(ふご)の祈りを娘娘はしっかりと受け止めました、一心にお勤めに励んだおかげですね。さあ、行きましょう」

 李順と呼ばれた女官は頰を真っ赤に染め、嬉しそうに冬花のあとをついていった。その後ろ姿を他の女官たちは羨ましそうに眺め、そして手元の掃除用具に目を移し、再び一心不乱に働き始める。

 (なるほどねえ)

 しゃべらずに働けば、ああやって白蓮妃から声がかかる。それをみんなの前でわざと言うことで、次は自分が選ばれるかもしれないとよりいっそう仕事に身を入れるようになる。

 (やーなやり方……)

 麗麗の中で、むくむくと反骨精神が芽生えた。

 朝から晩まで掃除をさせ、疲れさせる。そして言葉と交流を奪い、判断力を鈍らせる。

 (洗脳じゃん!)

 もやもやが、苛々に変わっていく。

 (あと、つけてみよっかな)

 言葉をしゃべらず、交流を持たない女官たちは、別の言い方をすれば人のやることに興味がない。ここで麗麗が持ち場を離れたとしても、誰も告げ口をしないだろう。

 (よし! つけちゃお)

 冥焔の言葉を信じるならば、その場で殺されない限り大丈夫だ。

 (頼むよ、宦官)

 麗麗は心の中で鬼上司の偉そうな顔を思い浮かべながら、冬花と李順のあとをこっそりとつけた。