百茗の宴は、皇帝の興味をかっさらった瑛琳妃の勝ちとなった。そして、特別賞として玉璇妃もひとこと皇帝より言葉を賜った。

 それが心からの賛辞ではないことは場内にいる全員が気づいている。顔を真っ赤にした玉璇妃は、こちらをにらみつけているが、これだけ玉璇妃の顔を立て、褒めちぎったのである。むやみやたらに攻撃はできないだろう。

 素晴らしい結果に、麗麗含め深藍宮の女官たちは大変満足した。瑛琳妃からも「よくやった」との言葉をもらい、もうほっくほくだ。

 そして宴がお開きになろうとしたとき──それは、起こった。

 空が不気味に唸る。遠雷か、と思う間もなく、頭上にはあっという間に黒雲がたぎった。

 氷のように冷たい風が一陣、妃たちの披帛を巻き上げ駆け抜けていく。

 妃たちからおびえたような声があがった。

 初めは、ぽつり、ぽつり、と、しかしすぐに滝のような豪雨があたりを襲った。

 「大家!」

 宦官たちが皇帝に傘を差しかける。妃嬪たちは浮き足立ち、悲鳴をあげた。

 「皆のもの。今日の宴はこれにて──」

 冥焔が宴の締めくくりを宣言しようとした、次の瞬間。

 雷光に続いて地が震え、耳が裂けてしまうかのような轟音(ごうおん)が響き渡る。

 「きゃああっ……!」

 妃嬪や女官、宦官までもがおびえ、その場にうずくまった。

 「瑛琳様、皆さんも! 頭をお下げください!」

 麗麗は慌てて瑛琳妃の元へと駆け寄った。

 典型的なゲリラ豪雨だ。こんなだだっ広い場所に立っていたら、雷の餌食となってしまう。

 頭を抱え、地にうずくまろうとした、そのとき。

 突然、今までおとなしく座っていた徳妃・白蓮がすっと立ち上がった。

 「徳妃!」

 「白蓮様!?」

 女官たちの悲鳴を無視して、白蓮妃は天を仰ぐ。そして、すっと空を指さした。



 風啼月落惑魂霊  風が()き月は落ち 魂霊は惑う
 鬼哭悲嘆至黒冥  ()(こく)悲嘆して 黒冥に至る
 世恨夜深宮満怪  世の恨み夜深く 宮に怪満つ
 流星墜落処天刑  流星は墜落し 天刑に処せらる



 玲瓏(れいろう)たる声が空気を震わせた。雷光が白蓮の白い肌をよりいっそう青白く照らし出す。表情の抜けた顔。陶器のような肌に、雨に濡れた黒髪や口布がまとわりつく。

 ぞっとするような光景だった。

 誰もなにも言えなかった。それくらい彼女の行動は唐突で、口を挟ませないような迫力があった。

 白蓮妃は指を下ろすと、まるで糸が切れた人形のように地に倒れ伏す。悲鳴をあげた白蓮妃の女官たちが駆け寄り介抱するも、目を閉じたまま動かない。

 「予言……」

 そう声をあげたのは、誰だったのだろう。宦官か、あるいは妃嬪つきの女官か。

 「白蓮様の予言が下った……!」