──幼い頃から麗麗、もとい佐々木愛子は変わり者だったとみえる。

 雲はなぜ形を変えるのか。風というものがどういう姿をしているのか。太陽はなぜ熱く、夜になるとなぜ沈むのか。そして星はなぜ動くのか。父母が読む絵本よりも、友だちや先生と行う手遊びよりも、観察が好きだった。

 外遊びをすればじっと地面を見て、(あり)はなぜ一列になって歩くのだろうと飽くまで観察する。石を蟻と蟻の間に置いてみても列は乱れない。ではどこまでの範囲なら一列になって歩けるのだろう。もっとたくさんの石を用意して、積み上げてみたらどうだろう──そんなことを永遠と繰り返して遊んだ。

 佐々木愛子の幼少期は、驚きと発見に満ちていた。なぜ、が解決するたびに、自分の中に喜びが湧き上がる。

 すべてに理由がある。根拠がある。わからないと思っていたことがわかった瞬間、体の内側が熱を伴う。

 自由研究と称した夏休みの宿題を、原稿用紙五百六十三枚で提出したときの先生の顔といったらやばかった。そして周囲のクラスメイトも、『うそだろ』『まじか』という顔で佐々木愛子を見ていたものだ。

 そんな子どもだったものだから、周囲からは浮いていたのだろう。案の定、いじめが始まった──。