アディシェスの実験室は、銀警官の国の地下に広がる冷たい牢獄だった。銀の壁は無機質に輝き、床には血の跡が薄く残り、消毒剤の匂いが漂った。壁沿いに並ぶ棚には、解体用のメス、鋸、鉗子が整然と配置され、まるで生命を試料として扱う工場だった。中央の実験台は銀の鎖で固定され、血痕が刻まれていた。アディシェスは白髪を整然と分け、白瞳が無表情に光った。血塗られた無表情の仮面を手に、黒い革の長衣をまとっていた。仮面には目と口の部分がくり抜かれ、まるで彼の感情の欠如を映していた。胸に刻まれた紋章の「無表情の仮面」は、銀の浮彫で、冷徹な知性を象徴した。
「感情は無駄な変数。すべてを解体し、理解する」
彼は恐怖を糧に能力を発動し、対象の精神を破壊していたが、心の底では自身の存在が無意味に堕する恐怖に苛まれていた。
この日、アディシェスは実験台の前で新たな試料を準備していた。メスを手に、刃先を試料の表面で滑らせ、金属が擦れる音を響かせた。仮面のくり抜かれた目が、白瞳を通して冷たく光った。突然、霧が揺れ、純白の影が実験室の入口に現れた。朝日だった。白髪が暗闇に輝き、白金の瞳が銀の壁を貫いた。純白の軍服は血の匂いを拒絶し、肩の秩序の紋章が冷たく光った。光条銃の銃身には細かな刻印が施され、銃剣の刃が鋭く輝いた。銃剣の水晶が微かに脈動し、白金の閃光を放ち、まるで法そのものが空間を支配した。アディシェスの仮面が一瞬揺れ、実験室の空気が凍りついた。
アディシェスはメスを構え、朝日を睨んだ。
「解体出来ない、構造理解不能…殺す」
白瞳が朝日を分析するように光り、長衣がかすかに揺れた。メスが空気を切り、鎖がカチャリと音を立てた。だが、朝日の白金瞳が一閃。
「無意味な実在」
その声は機械のようで、空間を凍らせた。メスが砕け、鎖が解け、仮面の浮彫がひび割れた。実験室の棚が震え、器具が床に散乱した。アディシェスの長衣が霧に溶け、体が薄れ始めた。
「僕の存在知性が…僕の存在意義がぁ…っ!!!」
彼は叫ぼうとしたが、声は途切れ、存在が消滅した。仮面が地面に落ち、粉々に砕けた。実験室は静寂に包まれ、血の匂いすら霧に吸い込まれた。
朝日は無言で立ち、光条銃を肩に担いだ。銃剣の水晶が一瞬だけ光を放ち、秩序の紋章が輝いた。霧が実験室を覆い、銀の壁が低く唸った。朝日の姿が霧に溶け、牢獄は暗闇に沈んだ。冷徹な輝きは失われ、ただ静寂だけが残った。