銀警官の国は、戦火も血もなかった。朝日の白金瞳が一閃するたび、銀警官は消滅し、国の象徴が霧に溶けた。キムラヌートの金庫は金貨と宝石が砂と石に変わり、崩れ落ちた。広場のアィーアツブスは感情の嵐を失い、双刃の大剣が粉々に砕けた。ケムダーの要塞は黒鉄の棘が木っ端微塵に折れ、略奪品が灰と化した。ツァーカムの宮殿は銀の鎖が解け、ガラス天井がひび割れまくった。アディシェスの実験室は解体用のメスが散乱し、血の匂いが霧に吸われた。カイツールの迷宮は情報網の地図が燃え、仕掛け杖が無力化した。アクゼリュスの戦場は血の海が干上がり、巨斧が瞬時に錆びた。シェリダーの壁は銀の棘が完全に崩れ、聖剣が綺麗に粉砕された。エーイーリーの廃墟は石槌が大きく砕け、渦巻きが消えた。バチカルの要塞は手甲と脚甲が大きくひび割れ、鉄の台座が沈黙した。銀の城壁は、霧の中で音もなく傾き、国の輝きは暗黒に飲み込まれた。
朝日は最後の城壁前に佇んだ。純白の軍服は霧を反射し、白金の瞳が虚空を貫いた。光条銃――秩序の裁銃――を肩に担ぎ、銃身に刻まれた細かな刻印が月光を鈍く反射した。銃剣の刃は鋭く、表面に秩序の紋章――無数の直線が交錯する幾何学模様――が浮かび上がり、冷たく光った。銃剣の先端に嵌められた水晶が、霧の光を屈折させ、白金の閃光を放ち、まるで法そのものが空間を支配した。軍服の肩には同じ秩序の紋章が金の糸で刺繍され、襟元には白金の細かな装飾が施されていた。装飾は無駄を排除した直線的なデザインで、朝日の存在そのものが秩序の具現であることを示していた。彼の白髪は霧に揺れ、わずかに乱れても純白の輝きを失わなかった。城壁の残骸――銀の破片、砕けた棘、崩れた刻印――が足元に散らばり、かすかな金属音を響かせたが、朝日の軍服には一片の塵も付着しなかった。
朝日の心は動かなかった。白城の命令――「欲望の汚染を浄化せよ」――が彼の存在を縛り、感情を排除していた。白城の要塞都市、その冷徹な法の殿堂が彼を形作った。そこでは秩序が唯一の価値であり、欲望は汚れとして裁かれた。朝日は銀警官の国を観察し、彼らの欲望を目撃した。キムラヌートの金貨への執着、アィーアツブスの感情の嵐、ケムダーの底なしの貪欲、ツァーカムの肉体の誘惑、アディシェスの冷徹な知性、カイツールの策略、アクゼリュスの殺戮の快楽、シェリダーの排外の純粋、エーイーリーの無自覚な破壊、バチカルの力への信仰――すべてが秩序の前に無意味だった。彼らの叫び、絶望、崩壊は、朝日の白金瞳にはただの雑音だった。欲望は秩序の光に焼かれ、存在は霧に溶けた。朝日の心には、わずかな揺らぎもなかった。白城の法は彼に感情を許さず、ただ任務の遂行を求めた。だが、霧の奥を凝視する白金瞳には、微かな影が揺れた――秩序そのものが空虚な枷であるという、言葉にならない認識。
銀の城壁が最後に低く唸った。霧が渦を巻き、崩れた銀の破片が地面に沈んだ。金庫の砂、広場の燭台、要塞の鉄、宮殿の鎖、実験室のメス、迷宮の地図、戦場の血、壁の棘、廃墟の瓦礫、訓練場の拳――すべての象徴が霧に吸い込まれ、国の記憶が消えた。朝日の白金瞳が虚空を貫き、光条銃の水晶が最後の脈動を放った。銃剣の刃が一瞬だけ輝き、秩序の紋章が霧の中で浮かび上がった。朝日は唯一の言葉を呟いた。
「秩序完了」
その声は氷のように冷たく、霧に溶け、空間を凍らせた。声は反響せず、ただ静寂を深めた。軍服の白金の装飾がかすかに光り、肩の紋章が最後の輝きを放った。霧が朝日を包み、彼の姿をゆっくりと隠した。銀警官の国は光も音も希望も失い、完全な暗黒に飲み込まれた。
だが、霧の奥で、朝日の白金瞳が一瞬だけ揺れた。白城の法は彼を縛り続けたが、銀警官の欲望が消えた今、秩序の目的すら曖昧に感じられた。金貨も、感情も、知性も、力も、すべてが無意味化した世界で、朝日の存在は何を裁くのか。白城の命令は絶対だったが、その絶対性が虚無を生んだ。朝日の心には、感情ではなく、秩序の重さが沈殿していた。光条銃の水晶が最後の光を放ち、霧に溶けた。銀の破片が風に散り、かすかな音を立てたが、それも霧に飲み込まれた。朝日の足音が遠ざかり、物語は完全な沈黙で幕を閉じた。虚無だけが残り、秩序も欲望も、ただの枷として霧に沈んだ。
朝日は最後の城壁前に佇んだ。純白の軍服は霧を反射し、白金の瞳が虚空を貫いた。光条銃――秩序の裁銃――を肩に担ぎ、銃身に刻まれた細かな刻印が月光を鈍く反射した。銃剣の刃は鋭く、表面に秩序の紋章――無数の直線が交錯する幾何学模様――が浮かび上がり、冷たく光った。銃剣の先端に嵌められた水晶が、霧の光を屈折させ、白金の閃光を放ち、まるで法そのものが空間を支配した。軍服の肩には同じ秩序の紋章が金の糸で刺繍され、襟元には白金の細かな装飾が施されていた。装飾は無駄を排除した直線的なデザインで、朝日の存在そのものが秩序の具現であることを示していた。彼の白髪は霧に揺れ、わずかに乱れても純白の輝きを失わなかった。城壁の残骸――銀の破片、砕けた棘、崩れた刻印――が足元に散らばり、かすかな金属音を響かせたが、朝日の軍服には一片の塵も付着しなかった。
朝日の心は動かなかった。白城の命令――「欲望の汚染を浄化せよ」――が彼の存在を縛り、感情を排除していた。白城の要塞都市、その冷徹な法の殿堂が彼を形作った。そこでは秩序が唯一の価値であり、欲望は汚れとして裁かれた。朝日は銀警官の国を観察し、彼らの欲望を目撃した。キムラヌートの金貨への執着、アィーアツブスの感情の嵐、ケムダーの底なしの貪欲、ツァーカムの肉体の誘惑、アディシェスの冷徹な知性、カイツールの策略、アクゼリュスの殺戮の快楽、シェリダーの排外の純粋、エーイーリーの無自覚な破壊、バチカルの力への信仰――すべてが秩序の前に無意味だった。彼らの叫び、絶望、崩壊は、朝日の白金瞳にはただの雑音だった。欲望は秩序の光に焼かれ、存在は霧に溶けた。朝日の心には、わずかな揺らぎもなかった。白城の法は彼に感情を許さず、ただ任務の遂行を求めた。だが、霧の奥を凝視する白金瞳には、微かな影が揺れた――秩序そのものが空虚な枷であるという、言葉にならない認識。
銀の城壁が最後に低く唸った。霧が渦を巻き、崩れた銀の破片が地面に沈んだ。金庫の砂、広場の燭台、要塞の鉄、宮殿の鎖、実験室のメス、迷宮の地図、戦場の血、壁の棘、廃墟の瓦礫、訓練場の拳――すべての象徴が霧に吸い込まれ、国の記憶が消えた。朝日の白金瞳が虚空を貫き、光条銃の水晶が最後の脈動を放った。銃剣の刃が一瞬だけ輝き、秩序の紋章が霧の中で浮かび上がった。朝日は唯一の言葉を呟いた。
「秩序完了」
その声は氷のように冷たく、霧に溶け、空間を凍らせた。声は反響せず、ただ静寂を深めた。軍服の白金の装飾がかすかに光り、肩の紋章が最後の輝きを放った。霧が朝日を包み、彼の姿をゆっくりと隠した。銀警官の国は光も音も希望も失い、完全な暗黒に飲み込まれた。
だが、霧の奥で、朝日の白金瞳が一瞬だけ揺れた。白城の法は彼を縛り続けたが、銀警官の欲望が消えた今、秩序の目的すら曖昧に感じられた。金貨も、感情も、知性も、力も、すべてが無意味化した世界で、朝日の存在は何を裁くのか。白城の命令は絶対だったが、その絶対性が虚無を生んだ。朝日の心には、感情ではなく、秩序の重さが沈殿していた。光条銃の水晶が最後の光を放ち、霧に溶けた。銀の破片が風に散り、かすかな音を立てたが、それも霧に飲み込まれた。朝日の足音が遠ざかり、物語は完全な沈黙で幕を閉じた。虚無だけが残り、秩序も欲望も、ただの枷として霧に沈んだ。



