バチカルの要塞は、銀警官の国の最後の砦だった。銀の外壁は無骨で、表面に戦いの傷が刻まれ、霧の光を鈍く反射した。内部は広大な訓練場で、鉄の柱が立ち並び、床には血と汗の跡が残っていた。中央には巨大な鉄の台座が鎮座し、表面に拳の刻印が施されていた。バチカルは白髪を軍人然と短く刈り、白瞳が直線的に輝いた。鍛え抜かれた体は無駄な装飾を排除し、手甲と脚甲だけが武装だった。手甲は鉄と銀の合金で、表面に無数の打撃痕が刻まれ、拳を振るたびに低く唸った。脚甲は膝まで覆い、歩くたびに金属音を響かせた。胸に刻まれた紋章の「握り拳」は、鉄の浮彫で、力の絶対性を象徴した。
「力こそすべて。勝つか負けるか、生か死か……(仲間なんて要らない。元からいなかった……)」
バチカルは政治や思想を嫌い、拳で全てを決めたが、心の底では力の無意味さに怯えていた。
この夜、バチカルは訓練場の中心で拳を構えていた。手甲が月光を鈍く反射し、脚甲が床を叩く音が響いた。
「勝つ！ それがすべて！」
彼の声が鉄の柱に反響し、拳の刻印がかすかに震えた。霧が揺れ、純白の影が要塞の入口に現れた。朝日だった。白髪が月光に輝き、白金の瞳が鉄の闇を切り裂いた。純白の軍服は血と汗を拒絶し、肩の秩序の紋章――無数の直線が交錯する幾何学模様――が冷たく光った。光条銃の銃身には細かな刻印が施され、銃剣の刃が鋭く輝いた。銃剣の水晶が脈動し、白金の閃光を放ち、まるで法そのものが訓練場を裁くようだった。朝日の足音が鉄の床を踏み、かすかな金属音が響いたが、血の跡は彼に触れず、霧に溶けた。
バチカルは朝日を猛烈に睨み、手甲を強く構えた。
「終わらない！！！ 道はきっと無い！！！ 見送る人、誰もいないから、死ねぇ！！！！」
白瞳が朝日を射抜き、拳が空気を切り裂いた。脚甲が床を叩き、鉄の台座が震えた。だが、朝日の白金瞳が一閃。
「勝負の無効」
その声は氷のように冷たく、空間を凍らせた。手甲がひび割れ、脚甲が崩れ、握り拳の紋章が砕けた。鉄の柱が低く唸り、訓練場の床が震えた。バチカルの体が霧と化し、拳の刻印が消えた。
「……何も悔いは無い……生まれて良かった……心から……あり……が……とう……(本当は……友達欲かった……)」
彼は叫ぼうとしたが、声は途切れ、存在が消滅した。要塞が静寂に包まれ、鉄の残響が霧に吸い込まれた。
朝日は無言で立ち、光条銃を肩に担いだ。銃剣の水晶が一瞬だけ光を放ち、秩序の紋章が輝いた。霧が要塞を覆い、訓練場は暗闇に沈んだ。朝日の姿が霧に溶け、力の輝きは失われ、ただ冷たい静寂だけが残った。