銀警官の国の中心に、キムラヌートの金庫はそびえていた。巨大な円形の要塞は、銀の外壁が鏡のように滑らかで、霧の光を冷たく反射した。壁には無数の刻印――硬貨や宝石を模した装飾が螺旋状に連なり、富の永遠性を謳うようだった。内部は息をのむ輝きに満ち、金貨が床を埋め、ルビーとサファイアの彫像が燭台の炎を乱反射した。純金の鎖でつながれた宝箱が壁沿いに並び、かすかな金属音を響かせた。中央には黄金に塗られた巨大な秤が鎮座し、その柄は戦斧として機能した。秤の皿は絶えず揺れ、富の重さを量る音が低く唸った。キムラヌートは白髪を厳しく後ろに結い、白瞳が金貨の輝きを貪欲に映した。銀と金の装飾に覆われた鎧は、肩に宝石がちりばめられ、歩くたびに甲高い金属音を響かせた。胸に輝く紋章の「円環」は、硬貨と宝石のモザイクで、富の無限性を象徴した。
「富こそ力。愛も忠誠も、すべて金で測れる」
彼は経済を掌握し、すべての物資を独占していたが、心の底では無価値に堕する恐怖が彼を苛んだ。金庫の奥には、銀警官の起源を示す設計図が隠されていた――彼らが欲望を増幅する実験体として作られた証拠。
霧深い夜、キムラヌートは金庫の玉座に座り、黄金の秤で新たな収穫物を量っていた。燭台の炎が揺れ、金貨が不気味な光を放った。突然、霧が揺らぎ、純白の影が金庫の門をくぐった。朝日だった。白髪が月光に輝き、白金の瞳が闇を切り裂いた。純白の軍服は金の輝きを凌駕し、肩に刻まれた秩序の紋章――無数の直線が交錯する幾何学模様――が微かに光を放った。光条銃、秩序の裁銃は、銃身に細かな刻印が施され、銃剣が合体した刃が冷たく輝いた。銃剣の先端には小さな水晶が嵌め込まれ、月光を屈折させて白金の光を放った。朝日の存在は、金庫の空気を凍りつかせ、燭台の炎すら揺れを止めた。
キムラヌートは立ち上がり、黄金の秤を構えた。
「何者だい？ この金庫に価値あるものは存在しない！」
白瞳が朝日を射抜き、声は震えていた。彼の鎧がカチャリと鳴り、円環の紋章が燭光を反射した。朝日の白金瞳が一閃。
「秩序の勅令」
その声は感情を欠き、まるで空間そのものが裁きの言葉を発したようだった。金庫が震え、金貨が砂に、宝石がガラスに崩れ落ちた。黄金の秤の皿が傾き、柄が錆びて砕け、鎖が解けて床に落ちた。キムラヌートの鎧が剥がれ、宝石が粉々に砕けた。
「僕の富(命)が…！ 僕の全て(富)が！」
彼は叫び、円環の紋章を握り潰そうとしたが、指先から霧が漏れ始めた。体が薄れ、円環が地面に落ち、音もなく割れた。金庫の銀の壁が低く唸り、設計図が灰と化して霧に溶けた。キムラヌートは完全に消滅し、静寂が金庫を満たした。
朝日は無言で立ち、光条銃を肩に担いだ。銃剣の水晶が一瞬だけ光を放ち、霧がその姿を隠した。金庫の輝きは失われ、ただ冷たい銀の残響だけが残った。