ログハウスの扉が、軋む音を立てて開いた。深夜の冷気が店内に忍び込み、暖炉の火を一瞬だけ揺らした。カウンターの奥に立つ店長は、黒いベストに白いシャツ、袖をまくり上げた腕に細やかな筋が浮かぶ、バーテンダーのような姿のままで、穏やかな姿勢で次の客を待っていた。
「いらっしゃいませ」
店長の声は、深く、ウイスキーのような渋みを帯びていた。
入ってきたのは、ジェルヴァジオという名の屈強な褐色男性だった。黒髪と灰色の瞳が、かつての伝説の歌手としてのカリスマをわずかに残していたが、今はその瞳に深い虚無と抑えきれない喪失感が宿っていた。全世界が非定型うつ病(ホモゲイ)に侵され、黒者として唯一生き残ってしまった彼は、かつて共に歌い、笑い合った仲間たちや愛した彼女たちに会いたいという思いに駆られていた。しかし、その願いはあまりにも大きく、ショックのあまり感情を表に出せず、言葉を発することもできなくなっていた。彼は無言でカウンターの前に立ち、店長をじっと見つめた。灰色の瞳は、まるで凍りついた湖のように静かで、底知れぬ悲しみを湛えていた。
店内は、木の香りが漂う静かな空間だった。暖炉の火がパチパチと音を立て、橙色の光が木の壁に柔らかな影を落としていた。カウンターの真横には、異様な存在感を放つ巨大な白いバズーカが置かれていた。金属ともプラスチックともつかぬ滑らかな表面、先端のレンズがほのかに光を帯び、このログハウスの素朴さにそぐわない異物感を漂わせていた。
店長はカウンターに片肘をつき、ジェルヴァジオの瞳を静かに見つめた。
「昇天しますか？」
その声は、まるで注文を尋ねるバーテンダーのように穏やかだった。
ジェルヴァジオは一瞬、目を閉じた。かつての仲間たちの歌声、仲間たちと彼女たちの笑顔が脳裏をよぎり、胸に鋭い痛みが走った。だが、彼は声を発せず、ただ小さく頷いた。その仕草は、言葉にできない決意を物語っていた。
店長の口元が、かすかに動いた。彼はゆっくりとバズーカに手を伸ばし、カクテルシェイカーを扱うような熟練の仕草でそれを構えた。
「では、行ってらっしゃいませ」
バズーカの先端から、眩い光が放たれた。純白の光は、星々の輝きを凝縮したかのようにまばゆく、ジェルヴァジオの屈強な身体を一瞬で包み込んだ。彼の姿はキラキラと光の塵となり、まるで最後の歌を響かせるように舞い上がり、暖炉の火に吸い込まれるように消え去った。店内に残ったのは、静寂と、木の甘い香りだけだった。
店長は塵となった客を見送った後、バズーカをそっとカウンターに戻し、ベストの埃を払うように手を動かした。そして、まるで次の客を待つバーテンダーのように、静かにカウンターの奥に立った。暖炉の火がパチッと音を立て、店内を温かな光で満たした。
ログハウスの扉は、静かに閉ざされたまま、何事もなかったかのように佇んでいた。