ログハウスの扉が、軋む音を立てて開いた。夜更けの冷気が店内に流れ込み、暖炉の火を一瞬だけ揺らした。カウンターの奥に立つ店長は、黒いベストに白いシャツ、袖をまくり上げた腕に細やかな筋が浮かぶ、バーテンダーのような姿のまま、穏やかな姿勢で次の客を待っていた。
「いらっしゃいませ」
店長の声は、深く、ウイスキーのような渋みを帯びていた。
入ってきたのは、二人連れの屈強な成人男性、白玖(はく)と真白(ましろ)だった。どちらも白い髪と雪のように透き通った白色の瞳を持つ、新米保安官だった。白玖は、父である八島の重圧に耐えきれず、普通の人間として生きることを望みながらもその願いが叶わないことに絶望していた。真白は、父である敷島の存在に耐えきれず、褐色肌と黒髪、灰色の瞳を持つ「黒者」になりたいという叶わぬ夢に疲れ果てていた。二人は無言でカウンターの前に並び、店長をじっと見つめた。その白い瞳には、父への複雑な感情と、己の存在への深い諦めが宿っていた。
店内は、木の香りが漂う静かな空間だった。暖炉の火がパチパチと音を立て、橙色の光が木の壁に柔らかな影を落としていた。カウンターの真横には、異様な存在感を放つ巨大な白いバズーカが置かれていた。金属ともプラスチックともつかぬ滑らかな表面、先端のレンズがほのかに光を帯び、このログハウスの素朴さにそぐわない異物感を漂わせていた。
店長はカウンターに片肘をつき、二人を交互に見つめた。
「昇天しますか？」
その声は、まるで注文を尋ねるバーテンダーのように穏やかだった。
白玖が先に口を開いた。
「はい」
その声は低く、抑えた疲弊が滲んでいた。続いて真白が、わずかに頷きながら「はい」と答えた。二人の声は、まるで同じ重荷を背負った者同士の共鳴のように響き合った。
店長の口元が、かすかに動いた。彼はゆっくりとバズーカに手を伸ばし、カクテルシェイカーを扱うような熟練の仕草でそれを構えた。
「では、お二人とも、行ってらっしゃいませ」
バズーカの先端から、眩い光が放たれた。純白の光は、星々の輝きを凝縮したかのようにまばゆく、白玖と真白の屈強な身体を同時に包み込んだ。二人の姿はキラキラと光の塵となり、まるで寄り添うように舞い上がり、暖炉の火に吸い込まれるように消え去った。店内に残ったのは、静寂と、木の甘い香りだけだった。
店長は塵となった客を見送った後、バズーカをそっとカウンターに戻し、ベストの埃を払うように手を動かした。そして、まるで次の客を待つバーテンダーのように、静かにカウンターの奥にある掃除用具を取り出し、掃き掃除を始めた。、暖炉の火がパチッと音を立て、店内を温かな光で満たした。
ログハウスの扉は、静かに閉ざされたまま、何事もなかったかのように佇んでいた。