気が付いたら、僕はいつの間にか暗い、暗いどこかにいた。前は大きくて届かない何かを見上げていたような気がするけど、もうずいぶん前のことで覚えてないや。
たまに、上から何かが降ってくるような音や、うるさい轟音がガンガン響いてくる。でも、その音の正体をまだ見たことはない。
いつも、何かに揺さぶられるような感覚はするけど、特に怖いとか、そういうことを思った事はなかった。何故かといえば、ずっと、すぐそばに見上げてた何かみたいに暖かくて、よくわかんないけど、ここにいれば大丈夫って思えるものに守られてるから。
僕はいつか立派になって、守ってくれた何かに「ありがとう」って言って、今度は僕が守ってあげるのが夢なんだ。
もう、どれぐらい経ったのか考えるのをやめて、やっぱり考え始めちゃったあるとき。
グラッと世界が揺れた。
どんどん僕は、あっちにこっちに揺られながら、上の方に引っ張られていった。
他のところから、メキメキ、ブチブチと音が鈍く響いて、この時初めて僕以外にもここにいたっていうことに気付いた。前に知っていたら、心細い時なんてなかったのにな。
それから僕の真っ暗闇はぐわん、ぐわんと揺れて、一瞬宙に浮いたと思ったら、何かとぶつかって転がって、どこかに止まった。
僕は何が起きているかわからなくって、「誰か」って叫んだ。だけど、誰の声も、音も聞こえないまま、真っ暗闇は今度ドンッと大きく揺れ、小刻みに動き出す。
僕はどうすることも出来ないまま、ただ何かに揺さぶられ続けていた。
それから、だいぶ経ったと思う。
バンッと何かが開く音がして、今度はもっと小刻みに揺れた。たまに、上がったり、下がったりして、ここだけは楽しいと思えた。
そして、しばらく止まって、一休みできると思ったとき。僕はどこかに落ちていって、沈んでいった。
なんとかしたいと思ってじたばたするけど、まわりに張り付いているもののせいで、何も出来なかった。この時だけ、これが憎たらしくて仕方がなくなった。
それから段々暑くなってきて、痛いまで感じていたとき、僕は浮かんだり、沈んだりして、生き地獄はこういうものなんだと実感していた。
もうこんなのは嫌だ、もうたくさんだ。と思ったとき、この思いが天に届いたのか、体がふわっと浮き上がり、ゆっくりだけど、体が冷えていって、「僕は世界一の幸せ者だ」と呟いた。
寝てしまいそうなくらい体が落ち着いて来たとき、今度は上に優しく動いていった。
そして、鈍く揺れたとき、パキッと何かが割れたような音がした。
怖いと思いながらも、好奇心で音がした方を向くと、目の前が真っ白になる。そうだ、前もこんなところにいた気がする。
そして、何かが僕を覗いているのに気が付いたとき、もっと目の前が光に包まれる。
何かが触れるような感覚がして、次に来たのは寒さだった。ああ、外って冷たいんだな。僕のことをずっと守ってくれてありがとう。
そっと僕のすぐそばにいる殻に触れてみるけど、あの暖かさはもうどこかに行ってしまっていた。
「ねえママ、これって食べていいと思う?」
「うーん、ちょっと怪しいから捨てちゃおっか。」
何を言っているのかよくわからない声のあと、僕は冷たい銀色の空間に落ちていった。
目の前に映った景色を見ると、まわりには僕みたいな中身はいない殻が山積みにされていて、僕にとってどんなに恐ろしいものか言葉にできないくらいの恐怖に包まれる。
そして、視界にあるもの全部を見る前に見知らぬ殻が僕の上に覆い被さる。
もう恐怖でろくに動けなくなっていたとき、どこかに放り投げられた。
ふわふわしていて、暖かい、土だ。
体がチクチクする。微生物だ、僕は微生物に分解されるんだ。
もう僕には何もできないということだけが、わかった。
これが世界っていうものなんだね。
ただ、僕は土の一部になっていった。
たまに、上から何かが降ってくるような音や、うるさい轟音がガンガン響いてくる。でも、その音の正体をまだ見たことはない。
いつも、何かに揺さぶられるような感覚はするけど、特に怖いとか、そういうことを思った事はなかった。何故かといえば、ずっと、すぐそばに見上げてた何かみたいに暖かくて、よくわかんないけど、ここにいれば大丈夫って思えるものに守られてるから。
僕はいつか立派になって、守ってくれた何かに「ありがとう」って言って、今度は僕が守ってあげるのが夢なんだ。
もう、どれぐらい経ったのか考えるのをやめて、やっぱり考え始めちゃったあるとき。
グラッと世界が揺れた。
どんどん僕は、あっちにこっちに揺られながら、上の方に引っ張られていった。
他のところから、メキメキ、ブチブチと音が鈍く響いて、この時初めて僕以外にもここにいたっていうことに気付いた。前に知っていたら、心細い時なんてなかったのにな。
それから僕の真っ暗闇はぐわん、ぐわんと揺れて、一瞬宙に浮いたと思ったら、何かとぶつかって転がって、どこかに止まった。
僕は何が起きているかわからなくって、「誰か」って叫んだ。だけど、誰の声も、音も聞こえないまま、真っ暗闇は今度ドンッと大きく揺れ、小刻みに動き出す。
僕はどうすることも出来ないまま、ただ何かに揺さぶられ続けていた。
それから、だいぶ経ったと思う。
バンッと何かが開く音がして、今度はもっと小刻みに揺れた。たまに、上がったり、下がったりして、ここだけは楽しいと思えた。
そして、しばらく止まって、一休みできると思ったとき。僕はどこかに落ちていって、沈んでいった。
なんとかしたいと思ってじたばたするけど、まわりに張り付いているもののせいで、何も出来なかった。この時だけ、これが憎たらしくて仕方がなくなった。
それから段々暑くなってきて、痛いまで感じていたとき、僕は浮かんだり、沈んだりして、生き地獄はこういうものなんだと実感していた。
もうこんなのは嫌だ、もうたくさんだ。と思ったとき、この思いが天に届いたのか、体がふわっと浮き上がり、ゆっくりだけど、体が冷えていって、「僕は世界一の幸せ者だ」と呟いた。
寝てしまいそうなくらい体が落ち着いて来たとき、今度は上に優しく動いていった。
そして、鈍く揺れたとき、パキッと何かが割れたような音がした。
怖いと思いながらも、好奇心で音がした方を向くと、目の前が真っ白になる。そうだ、前もこんなところにいた気がする。
そして、何かが僕を覗いているのに気が付いたとき、もっと目の前が光に包まれる。
何かが触れるような感覚がして、次に来たのは寒さだった。ああ、外って冷たいんだな。僕のことをずっと守ってくれてありがとう。
そっと僕のすぐそばにいる殻に触れてみるけど、あの暖かさはもうどこかに行ってしまっていた。
「ねえママ、これって食べていいと思う?」
「うーん、ちょっと怪しいから捨てちゃおっか。」
何を言っているのかよくわからない声のあと、僕は冷たい銀色の空間に落ちていった。
目の前に映った景色を見ると、まわりには僕みたいな中身はいない殻が山積みにされていて、僕にとってどんなに恐ろしいものか言葉にできないくらいの恐怖に包まれる。
そして、視界にあるもの全部を見る前に見知らぬ殻が僕の上に覆い被さる。
もう恐怖でろくに動けなくなっていたとき、どこかに放り投げられた。
ふわふわしていて、暖かい、土だ。
体がチクチクする。微生物だ、僕は微生物に分解されるんだ。
もう僕には何もできないということだけが、わかった。
これが世界っていうものなんだね。
ただ、僕は土の一部になっていった。


