「あーあ。帰ったら白ちゃんとデートの約束してるの、仕事が片付いてたら黒ちゃんも誘おうと思ってたのに。しょうがないか。私だけ仕事終わって、黒ちゃんが仕事残ってたら一緒に帰れないもんね」

「マジで!?」

がばりと飛び起きた黒ちゃん。

釣れた。

「ソッコーで終わらすし! 真紅、一緒に帰るぞ!」

お手軽だなあ、私の従兄は。

「青也! めんどくさいヤツから廻して! あと明日とか明後日の分までやること出てたら逆仁じいさんからぶんどってきて! 一秒も真紅に遅れらんねえ!」

「く、ろとさま……」

青也さんは一度項垂れてから、何かを振り切るように首を横に振ってお仕事を始めた。

タン、と私は襖を閉める。

「どですか?」

藍子さんに笑みを向けると、藍子さんは口を半開きにして私を見ていた。

「真紅様……どういう手をお持ちなのですか……」

「白ちゃんは私の親友ですから」

百合緋ちゃんも。

「……真紅様は人を動かすのがお上手ですよね」

「そうですか?」

「ええ。黒藤様を、人の上に立つ才覚があると仰っておられますけど、真紅様は、そうですね……同じ目線に立って人を動かすことが出来る、とでも申し上げましょうか……人の上に立つのはお嫌でも、同じ場所に立って統率することが得意のようにお見受けします」

「……へー?」

藍子さんの説明に、思わずうなってしまった。

……そんな風に見えるんだ? うーん、どうなんだろうなあ……。

「真紅さんは仕事が早いなあ」

離れの逆仁さんの仕事部屋で、逆仁さんと相対する。

「しくじっていないとよいのですが」

書類に目を通す逆仁さんに答える。うー、ドキドキだ。

「真紅さん、藍子と青也が私の密偵なのは、気づいておりましょうな?」

唐突に逆仁さんがネタばらししてきた。

私は余裕ぶって見えるように、微笑んで見えるように口元をあげた。

「ええ」

私の答えを聞いてすっと、藍子さんが畳に手をついて頭を下げた。

「私と黒藤さんの現状を、逆仁さんに伝えるため、ですよね」