「………」

「………」

私と藍子さんは、顔を見合わせてしまった。青也さんの声だ。

青也さんは藍子さんの一つ上で、鴇迅家の二男さん。つまりは逆仁さんのお孫さんにあたる。

私が使わせてもらっているお部屋から、逆仁さんのいる離れまでは、黒ちゃんの部屋の前を通らなきゃいけない。

私と黒ちゃんが天龍の総本家に来てから三日、黒ちゃんの部屋にはいつも青也さんの悲痛な叫び声が響いている。

正直、藍子さんに言ったように、当主のお仕事や、襲名することが嫌なわけではない。

でも、当主に相応しいのは黒ちゃんだと思っている。

黒ちゃんには、絶対的な決断力と判断力があり、その上他の追随を許さない圧倒的な力がある。

私がそれに圧倒された最初が、海雨が緊急手術に入ったときだ。

あのとき、海雨の正体をバラさなければいけなくなり、私は少なからず混乱していた。

話を聞いた黒ちゃんは的確な指示を出して、窮地を切り抜けた。

私から聞いた真実に、黒ちゃんも動揺はあったはずだ。

でも、冷静さを崩さず、黒ちゃんは統率した。

あれは、私には出来ない。

黒ちゃんは人の上に立つ才覚がある。

次代の小路流を率いるに相応しいのは黒ちゃんだ。

私は、黎との関係を認めてほしいという下心があって仕事をしているだけだ。

黒ちゃんは、白ちゃんと結婚したいという下心があって仕事をしないだけだ。

……どっちもどっちだ。私に黒ちゃんを責められはしない。

けど。

「青也さん」

「! 真紅様! も、申し訳ありませんんんんん!」

襖を開けると、青也さんが光の速さで土下座してきた。

黒ちゃんがやらない分の仕事が私に廻ってること、気に病んでいるんだよね……。

「黒ちゃん、さすがに青也さんが可哀想だよ」

「じゃー真紅にあげるよ。青也も」

「そういう問題じゃない」

黒ちゃんは窓際に寝転んで、ひらひら手を振っている。

まったく、この従兄は。しょうがない。私が持っている最終兵器を出すか。