「真紅様……生まれついてのお方なのですね……」
「へ? 藍子さん?」
「いえ、なんでもありません。では真紅様は、小埜黎様が伴侶として認められれば、当主につかれることもお嫌ではない、と……?」
「当主務(とうしゅむ)がいや、ではないですけど……黒ちゃんと対立するようなのは嫌ですねー」
黒ちゃんは、自分が相応しくないと思わせるためにわざと仕事をサボってるんだろう。
黒ちゃんのやりそうなことだ。
………。
「藍子さん、黒ちゃんが当主にならない理由って知ってますか?」
「え、ええ……」
気まずそうに視線をうようよさせる藍子さん。あ、知ってるわ、藍子さんは。
上辺の方は。
「教えてもらえませんか?」
――内部の人はどこまで知っているんだろうか。訊いておこう。
「それが……御門流……月御門白桜様とご結婚するからだ、と……」
視線をうようよさせる藍子さん。うん、この様子じゃ、白ちゃんが本当は女の子ってのは知らなさそうだ。
「対立する御門流との婚姻だけでもご法度なのに、まさか殿方にご結婚を申し込まれるなんて、と……上層部は驚き過ぎて腫れもの扱いしか出来なくなりましたわ」
腫物。……うーん、黒ちゃんって、生まれからしてそういう扱い受けてるみたいだからなあ。
「逆仁さんの意向も聞きがてら、書類出してきましょうか」
机の上の種類をトントンと整える。藍子さんは「えっ」と声をもらした。
「まだ途中では――」
「? 終わってますよ? 藍子さんのとこのは紅が運んでくれてましたから」
書類整理を手伝ってくれていた藍子さんのところにあった未処理の書類は、私と藍子さんが話している間に紅が行ったり来たりして運んでくれていたから、もう全部終わっている。
「真紅様も紅姫殿もお仕事早いです……」
「そうですか? さ、行ってきましょう」
藍子さんを促して、二人で手分けして書類を抱える。
逆仁さん、今日はお屋敷にいるはずだから――
「黒藤様! せめて案件に目を通してください! ってかまず書類を見てください!」



