逆仁さん――小路十二家の一つ、鴇迅家の当主も兼ねる鴇迅逆仁(ときはや さかひと)さんは、紅緒様のときの当主名代(みょうだい)で、紅緒様が眠られてからは当主を務めていた方だ。

紅緒様のときにすぐに新たに当主が選任されなかったのは、既に当時一歳の黒ちゃんが正統後継者としていたからだそう。

「逆仁おじい様ご自身、ご高齢というのもありましょうが、やはりいずれは黒藤様にお譲りになられることが決まったお立場でしたからねぇ」

逆仁さんは現在八十三歳だ。

私も十六歳の誕生日を迎えてからすぐに、紅緒様と天龍の影小路本家で逢ったけど、物腰柔らかで、穏やかそうなお方だった。

二大流派の一つをおさめているんだから、厳しくもあるんだろうな、とも思ったけれど。

つまり逆仁さんは、黒ちゃんに後継を譲るお考えで、今まで当主を務められてきたってことだ。

そう思うたび頭をよぎるものはひとつ。

「それをぽっと出の私なんかが……」

「そうは仰っても真紅様、十二家当主はじめ中枢のお歴々は、真紅様――始祖の転生が、黒藤様の一つ年下にいると知っておられたのでしょう? 真紅様と黒藤様、いずれかを逆仁おじい様の次の当主に、という水面下の駆け引きはあったと存じますが……」

「藍子さん、内情知り過ぎです。まー、それが本当のとこなんですけどね……」

私の存在は秘されていたとはいえ、完全に知られていなかったわけではない。

小路の幹部たちは把握済みのことだったんだ。

「それより今は、真紅様の爆弾発言の方が響いていると思いますよ?」

「う……」

藍子さんに爆弾発言扱いされたのは、今、全員ではないけど、天龍にいる幹部たちの前で黎のことを話したことだ。

今回、ママと紅緒様は一緒に来ていない。黒ちゃんだけだ。

そして、今回の帰省で、私か黒ちゃん、どちらかが――というハナシが佳境を迎えるのも予測がついていた。

今までは黙っていたけど、そういうハナシになるんなら宣言しておいた方がいい。

将来を誓った恋人がいる。その人以外と結婚する意思はない、と、幹部席ではっきり告げた。

そうしたら、それはどこの誰だって追及が始まる。

隠してもいいことはないから、正直に、小埜家に籍を置く、小埜黎さんだ、って言った。

小埜は十二家の一つだ。でも黎は小埜家の生まれではなく、鬼人の一族、桜城家の長男。

驚かれた。

鬼人と吸血鬼の混血を夫とするつもりか、と怒鳴った人もいた。それについては、そのつもりですって押し切った。

「古人(ふるひと)さんに被害ないといいけど……」