「真紅お嬢様、こちらへは誰を派遣しましょう?」

「お嬢様、渡会(わたらい)家の当主がお見えです。お嬢様と御接見なさりたいと――」

「真紅様―――」

い、い、か、げ、ん、に、し、て、く、れ。

「黎に逢いたいよぉ~っ」

『巫女様……なんとお労しい……』

あてられた部屋の文机(ふづくえ)に突っ伏して泣き叫んだ私に、紅は優しかった。すりすりしてくれる。

紅――紅姫(べにひめ)。本人曰く化け猫の妖異で、私の唯一の式だ。

「まあ、紅姫殿と仲がおよろしいのですね」

そう言うのは、本家にいる間私のお手伝いを任されている藍子(らんこ)さん。

今も書類を仕分けてくれている。

年は二十歳で、小路流の陰陽師の一人。

綺麗な栗色の髪を結っていて薄くお化粧をしている。服装は和服だったり洋服だったり。

「紅~、藍子さん~」

「真紅様、お泣きにならないでください。みな、真紅様をご当主にと思ってのことですから」

「う~……私、これからも黒ちゃんと仲良くしたいです……」

黒ちゃんと私は当主の座を争っているようで、実は押し付け合っている。

私にとって黒ちゃんは頼りになる先輩陰陽師で、従兄だ。

これからもその関係を壊したくない。

「黒藤様は真紅様にお任せになるのがよいとご判断されていらっしゃいます。真紅様は、当主を継がれるのがお嫌なのですか?」

「いやって言うか……ずっと黒ちゃんが跡継ぎになっていたのに……」

「当代最強の名をずっとわが物とされていた黒藤様と、小路流に入られて半年で肩を並べ評されるようになられた力をお持ちなのに?」

「………」

当代、最強ねえ……。

「藍子さん、天龍にいて長いですよね?」

「ええ。一応、十二家筋の人間ですからね。天龍への出入りも多いですよ」

「逆仁さんって、本当に当主を退かれるおつもりなんでしょうか……」