「そういや襲名決まったら國陽にも話しに行くことになると思うんだ」

「うん、だよね……」

「なんでそんな気が重そーな」

「國陽様のオーラに負けがちというか……」

私が影小路姓に名前を変えるとき、國陽様とは一度お会いしている。

ひとつ年下とかそういうことをなしにしても、威厳の凄まじい方だった。

「國陽は別にふつーの中三だぞ? やべーのは斎月(いつき)の方」

「黒ちゃん、倭斗(やまと)姫様とも面識あるの?」

「一応な」

倭斗姫様とは、國陽様の許嫁様だ。

司家と同じくらい歴史のある大和家のご息女と聞く。

「え、やばい……の?」

「うん、気をつけろ」

「ど、どの方向に気を付けるべき!?」

「どの方向つったら……全方向だな、あいつは」

「ええ……って、あいつ呼ばわりして國陽様に怒られないの?」

思わず潜めた声になってしまう。

「怒んねーよ? 國陽も慣れてるし」

「ええ……」

許嫁が『あいつ』呼ばわりされることに慣れてる? どういうこと? けれど黒ちゃんはこれ以上教えてはくれなかった。

ため息をつきつつ、黒ちゃんの部屋の窓から外を見る。星空がよく、みえる。

――そんな日々を超えて高校二年生の夏、私は逆仁さんから正式に当主を襲名した。