side真紅




影小路の姓になって約半年。一年生も終わる三月の長期休み。

入学した高校から私立斎陵(せいりょう)学園への転校を機に、桜木真紅から影小路真紅に名前を変えた。

ママと、ママの双児の妹で私にとっては叔母の紅緒様と一緒に、影小路の所有する家の一つで暮らすことになって、月に一度はママと紅緒様と、天龍(てんりょう)にある影小路本家へも行った。

私は、影小路が始祖の転生というやつだった。

影小路が始まった世代に複数人いた、小路流を作った者のうちの一人。

『影小路の始祖』たちの人数は判然としない。私たち始祖の転生は、過去世の記憶を持っているけれど、総てを憶えているわけではなく、また、その記憶を映像として持っているだけで、当時の感情や意識まで継いでいるわけではない。

現在、影小路に確認されている始祖の転生は私一人だ。

そして本家には秘されているけれど、始祖当主と呼ばれるお方も存在している。

始祖たちの中でも最も能力に優れ、統率力もあった、影小路暮無(くれない)様。

始祖たちは暮無様の願いを叶えるために禁忌を犯し、また、それがあってはならないことだと自覚していた。そのため、これ以上影小路が罪を繰り返さないために、記憶を持たせた状態で自分たちが何度も転生を繰り返す術をお互いにかけた。

始祖の転生とは、影小路の監督者だ。

始祖の転生は、生まれながらに持っている霊力が大きい。そのため、その大方が当主となってきた。けれど私の世代には紅緒様の一人息子の黒藤さんがいる。黒藤さんが、影小路流の正統後継者としてずっと存在していた。

だがこの従兄、影小路と対を成す御門流宗家、月御門家の当主・月御門白桜さんに惚れこんでいて、「白と結婚するから当主にはならない」と公言していた。

ちなみに、黒藤さんは私の一つ年上で、白桜さんは私と同い年。更に白桜さんは、ある理由から男として生きている。白桜さん――白ちゃんが本当は女性だということは、御門内部でも知っている人は少なく、私は、白ちゃんの亡くなられたお母様とママが友人だった縁で知った。その前に白ちゃんは男の人って紹介されたんだけど、私は何故か、白ちゃんは女の子だってわかっていた。

力の強い者を当主としてきた小路流にとって、黒ちゃんの存在は捨て置けないものだった。黒ちゃんと私、どちらを当主とするかは水面下で進む問題。

黒ちゃんは今年、高校三年生、十八歳になる。

四月になって学校が始まる前の短い時間。私と黒ちゃんは影小路本家にいた――。