その鬼頭・無涯は、黒ちゃんが生まれた頃に消えてしまったそうだ。
……黒ちゃんの一の式の無月と、白ちゃんの二の式の無炎。
同じ文字を名前に持ち、面差しは黒ちゃんを少し成長させたようにそっくり……その理由までは教えてもらっていないけど、つながりはあるのだろう。
黒ちゃんに何かの目的があって今の行動をとっているのか、何もなくて今の様子なのか。
……どっちにもとれるからな、あの従兄。
ただ、私に最初に接触してきた陰陽師は間違いなく黒ちゃんだ。
家のことなんかどうでもいい~って人が、私みたいな問題だらけの人間を迎えに来たりはしないだろう。
何かしら、考えはあると思っている。
たとえ当主を押し付ける相手にちょうどいい、とかだとしても、裏があるのが黒ちゃんって気がするんだ。
『わたくしは姉様と黒藤のために生きると決めた身。……母親らしいことがしたいのですが、黒藤の母であれた時間は少なくどうしたらいいのかわからないところもあります。なのでこのようなアドバイスになってしまいますが……』
「いえ、ありがとうございます。……私は、黒ちゃんには、黒ちゃんの生きたいように生きてほしいと思います。私が小路に入ったのは強いられてではないですし、自分の意思で決めたことです。黒ちゃんの願いがどうなるかはわかりませんけど、私が黒ちゃんを小路に縛り付けることはしたくありません」
『そう……。ありがとう、真紅』
紅緒様は、少しだけ唇の端の力がゆるんだように見えた。



