「黎~大好き~早く逢いたい~」

『真紅、相当疲れてるだろ』

水鏡の向こうで苦笑するのは、大好きな人。ふと、黎の視線が泳いだ。

『あ、真紅。そういうのは帰ってからにして? じじいが顔真っ赤にしててうざいから』

「あっ、古人さんすみませんっ」

慌てて頭を下げる。黎は見鬼――妖異を見たり声を聞いたりする力――は残ったけど、陰陽師だのなんだのではないから、小埜家の古人さんに水鏡を繋いでもらっていたんだ。

水鏡の向こう側が少し揺れて映る範囲が広くなった。

畳敷きの部屋に、和机の角を挟んで座る黎と古人さんが映される。

『ご、ゴホンッ。真紅嬢、仲がいいのはいいですが――。黎のこと、本家で話されたそうですな?』

「はい。今日中に逆仁さんから連絡が行くと思うんですけど、私、当主を引き受けました」

『……決めたのか?』

黎が神妙な顔で訊いて来る。

「うん」

『それは、真紅嬢のご意思で?』

「はい。逆仁さんから直接お話を聞いて、引き受けることを決めました。勿論、取引条件は出しました」

『逆仁――殿は、それを受け容れたのですか?』

「はい。黎以外の人と結婚はしません。それを認めていただけなかったら、請けませんって。というわけで、黎。帰ったらプロポーズするから待っててね」

『帰ってくるのは待ってるよ。それこそ一日千秋で。でもプロポーズは俺からするから』

「ダメ。プロポーズする予約は私の方が先にしてるからね」

『――黎、お嬢さん、うちのじいちゃんはさんでいちゃつかないでください。じいちゃんこういうの耐えらんない隠居祖父さんなんだから』

水鏡に写る黎を隠すように、澪さんが私たちに間に割って入って来た。