「―――」
「真紅さんと黒藤さんの力は拮抗している。黒藤さんの方が先に正統なる後継者としてありました。始祖の転生のほとんどは当主になってきた。――そういう慣例じみたことを抜きにして、やる気のない黒藤さんより、条件によってはやる気のある真紅さんの方が適任だと判断しました。ですがそれ以前に、真紅さんと黒藤さん以外に選出を、という声もあります。当主になりたがっている者は多いですからね。ですが私は跳ね除けました。真紅さんか黒藤さん、いずれかから、と。理由は、わかりますか?」
「……いえ」
確かに私も思っていたよ。全くやる気のない黒ちゃんや、条件取引を持ちだす私より、適任者はいないのか、と。
「真紅さんと黒藤さんが、一番強いからです」
「………」
「お二人以外から選任すれば、明らかに力は劣ります。そうすれば、真紅さんの派閥と黒藤さんの派閥が出来るでしょう。いざとなれば、当主を軽く凌駕(りょうが)する人についているという安心感は大きい。ですから、お二人から選びたかった。おわかりですね? それが理由です。あとは真紅さんの判断次第です。黒藤さんと相談されても構いませんよ」
「――いえ」
半歩分、身を引いて畳に手をそろえた。
「影小路真紅。この場にて、確かに承りました」
私の返事に逆仁さんは、ほうとため息をついた。
「よかった。紅緒姫の秘蔵っ子である貴女に振られたらどうしようかと思っていました」
「ですが――」
顔をあげて、逆仁さんを見る。
「私は影小路に入って日が浅い。そこに付け入られることもありますでしょう。そのために少し、逆仁さんについて学ばせていただけませんでしょうか。斎陵学園にも戻らねばなりませんので、その間だけでも……」
「勿論です。私から伝えねばならぬこともありましょう。――では、真紅さんに決したと、皆に伝えてよろしいですね?」
「……少しだけ待っていただいてもよろしいですか? 黒藤さんには、私から伝えたいので……」
「そうですな。では、今晩六時に、各家当主には式文(しきぶみ)を飛ばしましょう」
「はい。ありがとうございます」
もう一度、頭を下げる。
なんてゆーか、こういう喋り方に違和感を覚えないのも、違和だ。
丁寧に越したことはないって紅緒様には言われたけど。
……紅緒様って丁寧なのか乱暴なのかよくわからない話し方するからな……。



