「然様(さよう)。私個人としては、当主はやる気がある者がなった方がよいと思っております。ですが真紅さんも黒藤さんも、てんでやる気はない」

ふう、とため息をつく逆仁さん。

「そうですねえ。私が影小路に入ったのも、下心からですから」

海雨を助けるため、と。

「そこで真紅さんに一つ確認したいのですが……」

「なんでしょう」

「黒藤さんが固辞している理由です。御門流当主、月御門白桜さんは、――まことは女性、ですな?」

「えっ?」

声をあげたのは藍子さんだ。うーん、簡単に否定しちゃうこともできない……。意味はないとわかっているけど、探るか。

「なぜ、そのように?」

「以前、紅緒姫が仰っておりました。白桜さんは月に憑かれている、と。どういう意味かまでは把握しておりませんが、月は女性の象徴。そして黒藤さんのあの言動。……白桜さんを『女性扱い』しかしていないようにお見受けする」

さすが、紅緒様が眠ったあとの小路流を託された人だ。冷静に見ておられる。

「否定はしません。ですが、御門流との間に波風立てたくもないので、はっきりとは申し上げられません」

「然様ですか。いえ、今はそれで十分――。十分過ぎる答えです。さて、話は戻りますが、真紅さん」

「はい」

逆仁さんは、机の上で手を組んだ。

「私は、貴女に次代をお願いしたい」