SORA-水底に眠る世界の秘密-

 大市の日から数日の間、トゥルクとソラはコルニスに滞在し続けた。その間に再び、トゥルクとソラはドバシアの森の宇宙船の元を訪れたが、ソラが目覚めたことでその役目を終えたとでもいうのか、どれだけ手を尽くしてもその入口が再び開かれることはなかった。
 宇宙船の調査を打ち切ることに決めた二人は、大市の日にオーレンの馴染みの取引先だという商人から聞いた話をもとに、連絡船でセディ島を訪れていた。
「ねえ、トゥルク! あれがセディ島?」
 近づいてきた島影をソラは頬を上気させながら指を差す。見るものすべて、何もかもが新鮮で仕方がないようで、エリン島で連絡船に乗ってからというもの、眠っているとき以外、ソラはずっとこの調子だ。
 そうだよ、と苦笑混じりに頷くと、トゥルクはそわそわとしながら行く手を眺めているソラの横に立つ。潮を帯びてまとわりつく海風がトゥルクの鳶色の髪を無造作にかき混ぜて過ぎ去っていく。
「ソラ、もうすぐ港に着くよ。降りる準備をして」
 終わりかけとはいえ、まだまだ強い夏の日差しを白い肌に浴びながら、ソラはわかった、と頷いた。
 白い塗り壁に青い屋根が特徴的なアガルテの街並みがだんだんと近づいてくる。これから入港しようとしているアガルテは、セディ島の玄関口だ。
 船は汽笛を鳴らしながら、港の大桟橋へと近づいていく。着岸し、港の職員によって船体が杭に繋ぎ止められると、乗客が下船できるように渡り板がかけられる。
 港の職員の案内に従い、トゥルクとソラは荷物を持って、下船する人々の列に並ぶ。のろのろとしか進まない列の最後尾で、トゥルクはソラに話しかけた。
「船を降りたら、しばらく待っていてくれる? 僕は船倉で預かってもらってるリブレを迎えに行ってくるから」
「リブレを引き取ったら、今日はもうこのまま宿に行くんだったっけ?」
「うん。馬はあんまり船に強くないから、リブレを早く休ませてあげないと。あ、そうだ、宿で荷物を置いたら、ちょっとこの街を回ってみようか。ソラはアガルテって初めてだもんね」
 楽しみ、とソラは口元を綻ばせる。話している間に下船の順番が回ってきて、二人は少し不安定に揺れる板の上を渡り、桟橋の上へ降り立った。
 それじゃあちょっと行ってくるね、と言い置くとトゥルクは船倉の荷物を下ろしている船員へと近づいていく。トゥルクやソラよりもいくつか年上の少年船員とトゥルクが二言三言話をしているのを横目に、ソラは初めて訪れる街の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 この島では一体どんなものを目にするのだろう。元の星では汚染された空気や病原菌から隔離された場所で生まれ育ったソラにとっては、トゥルクと出会ってから見るものすべてがはじめてのものだ。この美しい世界に息づく様々なものに触れるたび、ソラの胸はこみ上げてくる感動に揺り動かされる。未知への憧憬からトレジャーハンターという道を選んだトゥルクの気持ちが少しわかるような気がした。
 引き取りの手続きが終わったのか、トゥルクがハミのない頭絡――無口と引き馬用のロープをつけたリブレを連れて戻ってきた。船倉のこもった空気にあてられてしまったのか、暑さに弱い馬は何もないところで時折躓きそうになりながら、よたよたとした足取りでこちらへと近づいてくる。普段であれば、なぜかソラのことを目の敵にしているリブレは耳を倒し、歯を剥き出しにして威嚇してくるのだが、どうやら今日の彼女にはそんな余裕はないらしい。
「ソラ、おまたせ。リブレがこんな状態だし、早く宿に行こう」
 トゥルクはよたよたと右側を歩く己の愛馬の様子に苦笑する。いつも無意味に喧嘩を吹っかけてくるリブレだが、このときばかりは何だか可哀想に思えて、そうだね、とソラは頷いた。
 ゆっくりとしか歩けないリブレの歩幅に合わせて、少年と少女は宿へと向かって歩き出す。空と雲にも似た爽やかな色合いの街並みが、二人と一頭を見下ろしていた。

 アガルテの街は基本的に崖の上に作られており、傾斜が緩やかな下の方が繁華街、上の方が住宅街という構造をしている。細い路地と路地を繋ぐように坂や階段がそこかしこに作られており、慣れないうちは移動一つとってもなかなかに大変だ。
 宿にリブレを預け、荷物を置いた後、ソラはトゥルクとともにアガルテの街に繰り出していた。軽食の屋台で昼食がてらに名物のサバとアンチョビのサンドイッチを買い食いしたり、この街の建物の屋根と同じ素材で作られたアクセサリーの露店を覗いてみたりと繁華街を満喫した後、ソラはトゥルクに神殿へ行こうと誘いを受けた。
「神殿?」
「うん。この街の一番上まで登ったところにあるんだけど、すごく眺めがいいんだよ。行ってみない?」
「行きたい!」
 トゥルクの提案にソラはすぐさま飛びついた。どんな景色が自分を待っているのだろうと、ソラの心は躍った。きっと、上から見る青と白に彩られたこの街の風景はとても美しいに違いない。
 そうして、トゥルクとソラは時折坂道や階段を挟みながらも、神殿へと続く道を進んでいた。先ほど食べ歩きをしたり、いろいろな露店を見て回った繁華街がもうだいぶ下に見える。
「だいぶ上がってきたね。トゥルク、神殿まではもう少し?」
「いや、実はまだ半分くらいなんだよね。ソラ、少し休憩しようか」
 上からも下からも人が来る気配がないことを確認すると、二人は白い石段へと並んで腰を下ろす。二人は食後の口直しとして繁華街の屋台で買っていた果実水に口をつけるが、この気温のせいで氷が溶けて味が薄まっている上に何だか少しぬるい。うーん微妙、とソラはストローをくわえたままひとりごちると、
「ねえ、トゥルクのやつって何味だっけ?」
「りんご味だよ。ソラのは何だっけ?」
「グレープフルーツ。トゥルクのやつ一口飲んでもいい?」
 いいよ、と果実水の入った透明なカップをトゥルクはソラへと渡してやる。ソラはカップを受け取ると、黄色と白のストラップ柄のストローに口を付ける。「あ、私のより薄い」果実水を一口飲むと、ソラはカップをトゥルクへと返す。自分の元へと戻ってきたカップを見下ろして、トゥルクはどうしようと己の軽率な行動に頭を抱えた。もしかしてこれは、いわゆる間接キスとかいうやつになってしまうのではないだろうか。涼しい顔で自分の果実水を飲んでいたソラは、カップを手にしたまま固まっているトゥルクに一瞥をくれると、
「トゥルク、たかが間接キスに意識しすぎ」
「……ソラにとっては大した問題じゃなくても、この年の男の子にとっては大問題なんだよ」
「ふうん。何か男の子って、やらしいね」
「ちょっ……、やらしいって何! ソラってば!」
 別にー、と言うとソラは果実水の残りをずずずっと一息に飲み干して立ち上がり、
「はい、休憩終わり。そんなことはいいから、早く行こうよ」
「そんなことって……。はあ……もういいよ、そろそろ行こうか」
 そんなこと、と自分にとっての大問題を軽くいなされてトゥルクはがっくりと肩を落とす。ソラの目の前で彼女が使った後のストローに口をつける勇気がなくて、果実水は諦めてトゥルクも腰を上げた。
 二人の頭上には、白壁に青いドーム状の屋根という画一的なデザインの家々が幾重にも建ち並んでいる。まだまだ先は長いな、と思いながらトゥルクはソラを伴って、日差しが反射して眩しい白い石段を再び上り始めた。

 勾配が急な最後の坂道を上り終えると、ふう、とトゥルクは息をついた。傍らのソラは額に浮いた汗を柔らかそうな手の甲で拭っている。
 太陽は西に傾きはじめ、空と海の境目には昼と夜が入り混じったグラデーションが広がっている。眼下の街並みはうっすらと温かみのあるオレンジに染まっていて美しく、ソラはわあ、と感激で声を上げた。
「どう、ソラ。綺麗でしょ? 僕、これをソラに見せてあげたかったんだ」
「うん、すごいね。この世界は、こんなにも綺麗なんだね。明日も、明後日も、何年経っても、何百年経っても、この綺麗な景色がこのままここにあればいいなって思うよ。……私の住んでいた星にだって、きっと綺麗なものはたくさんあったはずなのに、全部、人間が壊してしまったから」
 景色を眺めるソラの双眸はきらきらと綺麗なのに、その言葉からは寂しさの片鱗が滲み出ていた。彼女にかけるべき言葉がわからなくて、トゥルクは彼女の隣で黙り込んだ。なあんてね、と沈黙をごまかすようにソラは笑うと、近くにあった人の形を模した石像を指差して、
「ねえ、トゥルク。あれは何? 誰か偉い人の像?」
「ああ、これ? これは七賢人の一人、博愛のセディの像だよ」
「セディ……」
 青年の姿をした石像の顔立ちに、何だか見覚えがあるような気がして、ソラは凝視する。しかし、既視感の正体は掴めそうで掴めない。身近にこんな雰囲気の人がいたような気がするのに、それが一体誰なのか思い出せない。誰だったかな、と思いながらも諦めてソラはかぶりを振った。
「この前も言った通り、七賢人っていうのは、どこからともなく現れ、この世界作った人たちなんだよ。七賢人は海と空しかなかったこの世界に、七つの島を作った。そんな彼らの偉業を忘れないために、後の世の人々は島の一つ一つに彼らの名前をつけた。そして、人々はこうして島ごとに神殿を作って、神様だったとも、この世界の最初の人類だったとも言われている彼らのことを祀っているんだ。このセディ島もその一つ」
 石像を見上げるソラへと歩み寄りながら、トゥルクはこの世界の創世神話を訥々と語る。
「僕はね、七賢人は神様じゃなくて人だったんじゃないかって思ってる。きっと、神様じゃなかったから、彼らが作ったこの世界は不完全で謎も多いけれど、こんなに美しいんだよ。
 だからね、ソラ。君が美しいと思っている今の景色を、人は壊すだけじゃなくて、生み出すことだってできるんじゃないかって僕は思うよ。だって今、僕たちがいるこの世界の礎を築いたのは七賢人なんだから」
 ソラはトゥルクの顔を見ると目を瞬かせた。「壊すだけじゃなく、生み出すこともできる、か……」小さな声で彼女はそう繰り返す。そうだね、と頷くと彼女は大人びた微笑を淡く浮かべた。
 微かに潮の香りが混ざった夕風が、ソラの長い髪やロングジレの裾、水色のリボンタイの端をふわりとなびかせながら吹き抜けていく。白い石造りの神殿を背に、逆光を浴びながらこちらを見るソラの姿は、彼女の美貌も相まって、まるで一枚の絵画のように美しいのに、トゥルクはなぜか心がきゅっと切なくなった。
 夕支度を始めた家々の窓にぽつぽつと明かりが灯り始め、オレンジ色に染まった街並みを彩っていた。

 翌日、体調の戻ったリブレに跨り、トゥルクとソラはアガルテの東にあるグリナス草原を進んでいた。事前にコルニスやアガルテで集めてきた情報によると、グリナス草原の途中にあるウィルナ岬を降りたところに洞窟があるのだという。その洞窟が今日のトゥルクとソラの目的地だった。
 今日も晴れていたが、草原を吹き渡る風は涼やかさを帯び、どこか秋めいて心地よい。陽の光が降り注ぐ蒼穹も、いつの間にか真夏のそれから、わずかに表情を変えていた。
 リブレは右前肢と左後肢、左前肢と右後肢と順番に大地を蹴りながら、速歩で草原を走る。だんだんと移り変わっていく景色を眺めながら、ソラは右斜め前に見えてきた海の方へと張り出した岬を指差すと、
「ねえ、トゥルク。あの辺りじゃない?」
「たぶん、そうだね。だけど、ソラ。あんまり手をそうやってぶんぶん振り回さないで。リブレがびっくりして怖がっちゃう」
「リブレには私の手が見えてるの?」
「見えてるよ。馬は真後ろ以外は大体見えてるから」
「ふうん」
 そんな会話をしているうちに岬へと到達し、トゥルクはリブレを止めた。リブレの尻を蹴らないように右足を回すと、トゥルクはリブレの上から降りる。降りて、とトゥルクがソラを促すと、グレーのロングジレの裾を風ではためかせながら、トゥルクに倣うように彼女も馬上から地面へと降り立った。
 リブレに積んだ荷物からロープを取り出すと、トゥルクはリブレの頭絡と近くにあった木をもやい結びで繋いでいく。視界の隅で、ソラが崖の先端ぎりぎりへと近づいていくのが見えた。
 ソラは崖の上から下を覗き込む。確かに話に聞いていた通り、岩礁に囲まれた小さな入江と洞窟の入り口らしきものが眼下に見えた。
 リブレを繋ぎ終えたトゥルクは、荷物から追加で長いロープと短いロープを取り出した。短いロープはそのままに、長いロープにトゥルクは何やら結び目を作り始める。作業をするトゥルクの脇では、リブレがのんびりと草を食んでいた。
「よし、できた」
 ロープを手にトゥルクは崖へと近づいてくる。ソラの隣から下を覗き込み、崖の側面に低木が生えているのを見つけると、手を伸ばして短いロープでぐるぐると束ねた。そこに長いロープを結びつけ、トゥルクは充分な強度があることを確認すると、
「よし、ソラ。行こうか。僕が先に降りるから、ソラは僕が呼んだら降りてきて」
 そう言うと、トゥルクはロープを掴んで、後ろ向きに崖を降り始めた。ブーツの底を崖の側面に這わせるようにして、ロープにあまり衝撃がいかないように気を配りながら、ゆっくりと下へと降りていく。
 しばらくして、トゥルクの足が地面についた。彼は崖の上を見上げると、
「ソラ、降りてきていいよ。降りるって言うよりは、ロープを持って、後ろ向きに斜面を歩くみたいな感じにするといいかも」
 わかった、とソラは返事をすると、ロープを握り、何もない空間へと背を向ける。運動神経も飲み込みも悪くないのか、急峻な斜面を下る足取りは驚くくらい迷いがない。
「ソラ、すごいね。僕はこういう崖降りられるようになるまで割とかかったのに、一回でできるなんて」
 降りてきたソラに向かって、感心したようにトゥルクは声をかける。ソラはいまいち自分のすごさが理解できないのか、そう、ときょとんとした顔で首を傾げると、
「だって、トゥルクが降りるの見てたし」
「いや、普通は見てたくらいでできることじゃないんだけど……」
 駄目そうならソラには崖の上でリブレと仲良く留守番をしていてもらうつもりだったが、どうやら杞憂だったようだ。冒険を共にする仲間としては心強いことこの上ないが、彼女の能力の高さにトゥルクは底知れないものを感じた。
「それじゃあ、ソラ。行こうか。僕たちの今日の目的地はこの先だ」
 トゥルクは頼もしい相方へとそう言った。
 岩壁にできた洞窟がぽっかりと闇をたたえた口を開けて、彼らがくるのを今か今かと待ち受けていた。押さえきれない好奇心に胸を逸らせながら、トゥルクは歩き始めた。

 洞窟の中に入り、外の光が届かなくなると、トゥルクはナップザックからランプと火口箱を取り出した。火打ち石と火打金を打ち合わせて火花を起こすと、ほぐした麻紐へと着火させる。附け木で火種を麻紐からランプの中のろうそくへと移してやると、暗闇を温かくゆらめく炎が照らし出した。
「ソラ、ランプ持ってもらっていい?」
 火の始末をしながらトゥルクが聞くと、いいよ、と頷いてソラはランプへと手を伸ばす。トゥルクが火口箱をナップザックにしまうと、二人は洞窟の中を歩き出した。
 進み始めてすぐに二人は分かれ道にぶつかった。右の道は大きな岩で塞がれ、左の道には何やら小さな祠のようなものがある。
「トゥルク、どうするの?」
 どちらにも進めなさそうな状況を前に、ソラはトレジャーハンターとしての場数を踏んでいるトゥルクへと判断を委ねた。トゥルクは右の道を塞ぐ大岩に手を触れ、簡単には動きそうにないことを確認すると、今度は左の道の祠を丁寧に観察していく。トゥルクはジャケットの袖口をまくり上げた両腕を組むと、ふむ、と一瞬思案げな顔をする。腕をほどき、後ろをついて回るソラの名をトゥルクは呼ぶと、
「これは火に反応するタイプのギミックだよ。そこの祠に火を灯してあげると、右の道を塞ぐ岩が外れて通れるようになるんだ。この稼業をやっていると、割とよく出くわすタイプのギミックだから、ソラも覚えておいて。
 そうだ、ソラ。せっかくだから、このギミックの解除、やってみない?」
「いいの? やってみたい!」
 トゥルクは腰のベルトに吊るした黒いポーチから、蝋燭を一歩取り出すと、乗り気な返事をしたソラへと渡す。ソラは蝋燭を受け取ると、手に持ったランプのふたを開けた。ランプの中でゆらめく炎に蝋燭の先端を近づけて火をつけると、ソラは蝋燭を祠の中へと置いた。
 ほどなくして、ゴゴゴという重量感のある音を響かせながら、右の道を塞いでいた岩が外れた。岩はそのままごろごろと道の奥へと転がっていき、やがて闇の中へと消えていった。
「よし、っと。ソラ、行こう」
 トゥルクはソラを促すと、障害物のなくなった右の道へと足を踏み入れた。
 岩壁に手をつきながら、しばらく奥へと進んでいくと、突然、バサバサっという羽音が響くのをトゥルクの聴覚が捉えた。ソラが持つランプでぼんやりと照らされた空間に、コウモリのものと思しき小さなシルエットが大量に浮かんでいる。トゥルクは振り返りざまに腰に吊るしたナイフを鞘から抜きながら、
「ソラ、コウモリだ! 気をつけて!」
 ソラへと警告を発すると、トゥルクは自分のほうへと飛んでくるコウモリに向けてナイフを閃かせる。ナイフの刃先に軽い手応えを感じると同時に、動かなくなったコウモリがぼとりと地面に転がる。仲間を殺されたことで激昂したコウモリたちが、改めてトゥルクを敵として認識し、大挙して迫ってくる。トゥルクはナイフを構え直すと、再びそれを一閃し、コウモリの群れを迎え討った。二閃、三閃とトゥルクのナイフの動きに合わせて、ぼとぼとと足下に死体となったコウモリが落ちていく。
 しかし、トゥルクの攻撃をかわした何匹かのコウモリが、彼の背後にいたソラへと襲いかかる。キィキィと鳴きながら自分へと迫ってくるコウモリに、ソラは悲鳴をあげた。
「きゃっ……きゃぁぁぁぁ!」
 恐慌状態に陥ったソラは手に持ったランプをぶんぶんと振り回してコウモリたちを追い払おうとする。トゥルクは噛まれないように気をつけながら、ソラをコウモリから引き剥がす。振り回されるランプに驚いたのか、コウモリたちは散り散りになって逃げていく。
「ソラ、ソラってば、落ち着いて! それにそんなもの振り回したら危ないから!」
 トゥルクはランプを持つソラの左腕を掴んだ。大丈夫だから、とトゥルクは宥めるようにもう一方の手でほんの少し低いところにある彼女の肩へ触れる。
 ソラが次第に落ち着きを取り戻していくと、大丈夫、とトゥルクは彼女へと聞いた。
「トゥルクー、何なのあれ! あんなのがいるなんて聞いてないよ!」
 大きな黒い目でトゥルクの顔を見上げながら、そう訴えてくるソラのかすかに花のような甘い香りがする髪を彼はよしよしと撫でる。すると、彼女は触らないでよ、とまだ少し強張りの残る顔で軽く笑った。半分強がりであるようにもトゥルクの目には映ったが、先程まであんなに怖がっていたというのに、もう笑えるというのはなかなかに肝が据わっていると彼は思った。
「せっかく早起きして、髪の毛ちゃんとしてきたんだから、ぐしゃぐしゃにしないで。それはそうと、あんなのが出るんなら先言っといてよ。心の準備っていうものがあるでしょ」
 ごめんって、とトゥルクはソラへと詫びる。こういう洞窟にコウモリだのなんだのといったものがいるのはトゥルクにとっては常識で、ソラに話しておくのをすっかり忘れていた。
「こういうところには結構、コウモリとかヘビとかがよく出るんだ。なるべく僕が気をつけてはおくけど、今みたいなことがあったら、落ち着いて対処して。この前、コルニスの大市で買ったロッド、持ってるでしょ?」
 トゥルクは出先で何かあったときにソラが一人でも身を守れるように、先日のコルニスの大市でソラ用に取り回しやすい武器を購入した。見るからに武器を扱い慣れていなさそうな彼女に、トゥルクは軽くて扱いやすそうなロッドを見立ててやっていた。殺傷能力はあまりない初心者向けの得物ではあるが、何もないよりはずっといい。
 それじゃ行こうか、とトゥルクはさりげなくランプを引き受ける。しかし、二人の進路には等間隔に並べられた銀色の棒のようなものが光っていて、何だあれはとトゥルクは目を凝らした。
(鉄格子か……)
 錆びついた鉄格子が二人の行く手を遮っていた。先程の大岩といい、このように意図的に侵入者を阻むためのギミックが仕掛けられていることから、この洞窟は過去に盗賊かなにかの根城にでもなっていたのかもしれないとトゥルクは思った。
 トゥルクはランプを掲げて、左右の岩壁を調べていくと、岩の凹凸の陰に小さなレバーが隠されているのを見つけた。これは左右のレバーを同時に操作することで通れるようになるタイプのギミックだ。少しでもタイミングがずれると、ギミックが解除できないだけでなく、矢やら毒針やらが降ってきたりする厄介なものである。
「ソラ、せーのでそこのレバー上げてくれない? これ、ちょっとでもずれると、多分上から何か降ってくるから気をつけて」
 ソラはわかったと頷くと、左側の岩壁のレバーに手をかける。トゥルクも同様に右側のレバーを掴む。トゥルクはソラと視線を交わし合い、互いの準備が整ったことを確認すると、
「それじゃあいい? ソラ、いくよ。せーの!」
 二人は掴んだレバーを同時に引き上げた。がらがら、と錆びついた鉄格子がごつごつと不規則な凹凸が刻まれた上壁へと吸い込まれていく。トゥルクは視線を上にやり、何かが落ちてくる様子がないことを確かめると、
「大丈夫そうだね。それじゃあソラ、行こう」
 うん、と頷くとソラは前を歩くトゥルクのオリーブグリーンのジャケットの背中を追いかける。
 ぴちょん、ぴちょんと時折奥の方で水が滴り落ちる音が響く。奥へと進むにつれて、道の分岐が増えてきている。ともすれば迷子になってしまいそうな洞窟の中を歩きながら、トゥルクが岩壁に時折ナイフで傷をつけているのを見て、
「トゥルク、何してるの?」
「ああ、これ? さっきからだんだん道が複雑になってきてるじゃない? こうやって印をつけておくと、どっちから来たかわかるでしょ?」
 なるほど、とソラは感心したように言った。そんなでもないよ、と言うとトゥルクは水音や靴音の反響と、ランプの灯りを頼りに洞窟の奥へと歩みを進めていく。
 何かが見つかるとしたらそろそろかななどといったことを考えていると、トゥルクはいきなり何かに足を取られてつんのめった。足元を手に持ったランプで照らすと、一匹の太い蛇が足に巻き付いている。
「やっ、へ、蛇っ……!」
 ソラは顔を引き攣らせながらも、腰へと手を伸ばす。先程、コウモリに襲われたときのトゥルクの言葉を思い出したように、ソラはロッドを抜くと、力任せに蛇へと振り下ろす。鬼気迫る表情で何度も何度もソラがロッドで殴り続けると、じきに蛇は動かなくなった。
「トゥルク、大丈夫?」
 ロッドを腰のベルトで固定し直しながらそう聞いてきたソラへ、うん、とトゥルクは頷いた。蛇に絡まれることくらいは、トレジャーハンターなんていう仕事をしていれば、まあまあよくあることなのでどうということはない。そんなことよりは蛇を殴るソラが少し怖かったということは、助けてもらった手前言わないでおいた。
「ねえ、トゥルク」
 あれ、とソラが指差す先に何かがあるのが見えた。ランプを持ってトゥルクが近づいていくと、そこには古ぼけた小さな箱が置かれていた。
「何かトラップが仕掛けられていたら危険だから、ソラはちょっと離れていて」
 トゥルクは腰に吊るしたポーチを開けると、ルーペや針金を取り出していく。ルーペで入念に小箱を調べ、おそらく危険はないであろうことを確認すると、ふう、とトゥルクは息をつく。鍵穴に針金を突っ込んで、中を探りながら、
「妙なトラップはなさそうだしおいで。何が出てくるか見たくない?」
 見たい、とソラは近づいてくると、肩越しにトゥルクの手元を覗き込む。背中に押しつけられる、男のトゥルクには存在しないほんのりとした脂肪の感触にトゥルクは内心でどぎまぎしつつ、溜め息をつくと、
「ソラ、いくらなんでもくっつき過ぎ。影になっちゃって手元見えないから。……っていうか、ソラ、わかっててやってるでしょ?」
「バレた?」
「まったく、こんなところでふざけないの。というか、女の子なんだからそういうはしたないことしないでよ」
 はあい、と舌を可愛らしく出しながら、ソラはトゥルクから体を離すと、
「何かトゥルク、お父さんやお母さんと同じこと言ってる」
「……」
 ソラは第一印象こそ大人しそうで神秘的な少女だったが、蓋を開けてみるとそんなことはまったくなかった。さぞかしソラの両親は彼女に手を焼いていたことだろう。トゥルクはまだ十三歳で育児の経験などないにも関わらず、ソラの両親に同情と尊敬を覚えた。
 かちり、と手元で箱の鍵が開く音がした。ソラ、とトゥルクは背後の相棒の名を呼ぶと、
「ほら、ここ持って。せーの、で一緒に開けよう。今日はソラの記念すべき初めての冒険だもんね」
 促されるままにソラは黒い革のグローブをはめた右手を箱の蓋へと伸ばす。せーの、と二人で声を合わせながら、蓋を掴むトゥルクの左手と共に箱を開けた。
「トゥルク、何これ? 紙?」
 二人が開けた箱の中には、手のひらと同じくらいの大きさの古びた紙の束が入っていた。宝石や金銀財宝のようなわかりやすい感じのお宝が入っているものだと思っていたソラは拍子抜けした。
 トゥルクは紙の束をぺらぺらとめくって見ながら、己の見解を述べていく。
「うーん、昔の占いの道具の一部か何かかな? 街に戻って鑑定してもらわないと詳しいことはわからなさそうだけど」
 今日のところは街に戻ろうか、とトゥルクは紙の束を自分のナップザックへとしまい始める。
 トゥルクは立ち上がると、ソラを伴って来た道を戻り始めた。

 トゥルクとソラがアガルテの街へ戻ると、青と白の美しい街並みはうっすらとオレンジ色を帯び始めていた。宿屋の厩舎へと戻ると、二人は手分けをしてリブレの馬装の解除や手入れを進めていった。
 トゥルクがリブレのブラッシングや裏掘りと呼ばれる蹄の手入れをしている間に、ソラはリブレに積んでいた荷物を泊まっている部屋へと運んでいく。
 部屋で軽く荷物の整理を済ませてソラが厩舎に戻ると、手入れが終わった後のリブレがトゥルクからご褒美の角砂糖をもらっていた。ソラが戻ってきたことに気づくと、リブレは黒い耳を後ろに引き絞って不快感を訴える。トゥルクと二人きりの時間を邪魔されたことが彼女はよほど気に食わないようだとソラは肩をすくめた。
「ソラ、荷物持って行ってくれてありがとう」
 トゥルクはリブレの鼻面を撫でながら、ソラへと礼を述べる。ううん、とソラは首を横に振ると、
「私、リブレのお世話は役に立てそうにないから。いまだに近づいただけで威嚇されるもん」
 ごめんね、とトゥルクは苦笑しながら厩舎の扉を閉め、
「ソラ、夕飯にはまだ少し早いし、さっき見つけたやつ鑑定してもらいにいかない? 本当はオーレンさんがいたらよかったんだけど、この街にも知ってる鑑定士さんのお店があるし」
「オーレンさんって、確かベネット島っていうところに行ってるんだっけ」
 そうだよ、と頷くとトゥルクはソラと共に夕暮れ時のアガルテを繁華街に向かって歩き出す。道のところどころに佇む赤い篝火が、涼しさを帯び始めた風でゆらゆらと揺れている。
「ねえ、トゥルク。あっちから美味しそうな匂いがする」
 ソラが指を差した方向では、甘いタレをつけた魚介を串焼きにしたものを出す店や塩漬けにした魚を油で煮たものを出す屋台が軒を連ね、早めの夕飯をとる客を待ち構えていた。昨日の昼に二人がサバとアンチョビのサンドイッチを買った屋台に十代後半くらいの男女二人が吸い寄せられていくのが二人の視界に映った。
「ソラ、気になるなら後で寄ってもいいけど、用事済んでからね。早くしないとシェリサさん――鑑定士さんのお店閉まっちゃうから」
 夕飯前の買い物客で賑わう繁華街を人波をすり抜けるようにして二人は通り抜けていく。雑踏を背に歩みを進めるうちに、少しずつ人気がなくなっていく。繁華街の隅の小さな掘建小屋の前まで来ると、きらきらと金色の日差しを浴びながら今まさに店仕舞いをしようとしているシルバーブロンドの人影を見つけ、トゥルクは駆け出した。
「シェリサさん! ちょっと待って!」
 女性にしては珍しく、うなじのあたりでばっさりと短く切り揃えられた二十代後半の銀髪の女性は気だるそうにトゥルクたちを振り返る。あら、とメガネの奥の紫の双眸を女性は瞬かせると、
「トゥルクくん、しばらくぶりねえ。いつの間にか女の子なんて連れ歩くようになっちゃって、トゥルクくんもお年頃ってことなのかしらあ?」
「いや、シェリサさん……ソラは別にそんなんじゃなくて! っていうか、ソラもにやにやして見てないで何か言ってよ! ねえ!」
 シェリサにからかわれて困っているトゥルクはソラへと助け舟を求めた。しかし、ソラはええー、と不服そうな顔をすると、
「やだよ。困ってるトゥルク見てるの面白いし」
「ちょっと、ソラってば!」
 あっさりと相棒を裏切ったソラへとトゥルクは思わず声を荒らげる。二人のやりとりを見ていたシェリサは面白そうに口元を綻ばせると、
「あらあらぁ、これは随分と将来有望そうなお嬢さんねえ。ところでトゥルクくん、私に何か用だったんじゃなくて?」
 シェリサに促されて、トゥルクは本題を切り出す。ソラの何が一体どう将来有望なのか気にはなったものの、何だか怖くて聞く気になれなかった。
「今日、ウィルナ岬の下にある洞窟で見つけたものをちょっと見てもらいたくって。もう今日終わりなら、明日出直しますけど……」
「別にいいわよお。今日、あんまりにも暇だから、ちょっと早いけど閉めちゃおうかと思っていただけだから」
 シェリサはトゥルクとソラを建物の中に招き入れると、この街の建物の屋根に使われているのと同じ青い石でできたスツールに二人を座らせた。「昔の占い道具か何かだとは思うんですけど……」トゥルクはナップザックから紙の束を取り出して露台の上に置くと、シェリサは鑑定道具を手にそれを調べ始めた。
 しばらくシェリサは紙の束を矯めつ眇めつしていたが、「ほぉぉ……」何か意味ありげに息を漏らすと、彼女は二人へと向き直った。眼鏡の縁が夕日を受けて怪しげな光を放っている。
「これはトゥルクくんの見立て通り、占いの道具みたいねえ。さほど状態も悪くないみたいだし、これならそれなりの値がつくと思うわよお。こういうのを好き好んで集める好事家も多いから需要もあるしねえ。それでトゥルクくん、どうするう? これはこのまま買い取らせてもらっていいのかしらあ?」
 シェリサの話を聞きながら、なんとはなしに店内にソラは視線を巡らせる。シェリサの背後の棚に錆びついた指輪が二つ置かれているのに気づき、ソラは目を留めた。随分と傷んではいるものの、見覚えのあるデザインにソラはもしかしてとある疑念を抱き、シェリサの言葉に頷こうとしていたトゥルクに待ったをかける。
「あの、シェリサさん」
 突然、会話に割り込んできたソラに嫌な顔ひとつせず、何かしらあとシェリサは間延びした返事をよこした。どうしたのだろうと、トゥルクは訝しげに茶褐色の視線をソラへと向けている。
「それを買い取っていただく代わりに、そこの棚にある指輪を譲っていただくことはできませんか?」
 あらあら、と面白そうに含み笑いをしながら、シェリサは背後の棚へと手を伸ばす。指輪二つを手に取ると、シェリサはそれをトゥルクとソラの前に置いた。
「普通はあなたの歳くらいの女の子はこんなものに興味は持たないんだけどねえ。汚いし、地味だし。大人だってこれの価値に気づく人はなかなかいないっていうのに、あなたなかなか見る目があるわあ」
 あの、と二人の話についていけずにトゥルクは口を挟む。
「その指輪って一体何なんですか?」
「これはねえ、どんな環境下にでも適応できるようになる優れものなのよお。砂漠でも雪山でも気候の影響を受けなくなる――簡単に言えば、これがあれば熱中症にならなくなるし、うっかり凍死したりするようなこともないわよお」
 それが本当ならなかなかに便利そうだとトゥルクは思った。時にはカミラ島の砂漠やソフィア島の氷雪地帯に赴くこともあるこの稼業を考えると、こういったものがあれば旅が快適になりそうだ。
 これも縁かしらねえとシェリサは独りごちると、
「いいわあ、そのお嬢さんの出した条件で取引しましょうかあ。その指輪もこんなところで埃をかぶっているくらいなら、トゥルクくんたちが持っていたほうがはるかに有意義だと思うしい」
 すみません、とトゥルクは軽く頭を下げると、指輪を腰のポーチにしまう。ところで、とシェリサはソラを見ると、
「お嬢さん、私の下で修行しなあい? 私、あなたのこと気に入っちゃったわあ。あなた、物を見る目がありそうだし、今から勉強すれば、将来一流の鑑定士になれるわよお?」
 考えておきます、とソラは眉尻を下げ、曖昧に微笑んだ。あらやだフラれちゃったわあと、シェリサはおどけたように肩をすくめてみせると、
「それにしてもトゥルクくん、その子のこと、大事にしたほうがいいわよお。こんな賢くてしっかりした子、なかなかいないものお」
「は、はぁ……?」
 トゥルクは訳がわからないといったふうに首を傾げながら、スツールから立ち上がった。ソラは大事な旅の仲間だし、シェリサの言う通り、頭も良くてしっかりしているとはと思っているが、どうしてこうも念押しされなければならないのだろうか。何故か横でソラが誇らしげなドヤ顔をしているのが更に不可解だ。
「シェリサさん、ありがとうございました」
 トゥルクとソラは掘建小屋から外に出ると、シェリサへと会釈をした。「それじゃあ、末永くお幸せにねえ」何に対するものなのかわからないシェリサの言葉が、街中へと戻っていく二人の背中を追いかけてきた。この短時間でシェリサは紙束の正体だけでなく、トゥルクとソラの間に一体何を見たのか謎すぎる。
 まあいいか、と思いながら、人混みを掻き分けて食べ物のいい匂いが漂う繁華街をトゥルクはソラと歩き始める。お腹減ったな、と頭の隅で感じながら、トゥルクは明日の予定を考え始める。
「ねえ、ソラ。明日はどうする? ザハス丘陵の方に行ってみようか? それとも、北西のシナイスに移動して、セドガル城跡のことについて情報収集してみる?」
 トゥルクは横を歩く頼もしい相棒へとそう聞いた。そうだなあ、とソラは楽しそうに言葉を弾ませると、
「明日のことよりも、私はまず何か美味しいものを食べに行きたい! 今日お昼抜いちゃったしさ」
 それもそうだね、とトゥルクは彼女の言葉に苦笑をこぼす。先程のように初対面の大人に対等に取引を持ちかけるような真似をしてみせたと思えば、こうして年相応の子供じみた表情を見せる彼女を魅力的だとトゥルクは思った。夕陽の下で無邪気な笑顔を見せる彼女は絵画の中から抜け出てきたかのように美しい。瞬く間に表情を変えていく彼女の顔から目が離せなかった。
 くすり、とソラは小さく笑い声を上げると、トゥルクの手を掴んだ。早くしないと置いていっちゃうよ、とソラはその手を引いた。
「ああもう……」
 しょうがないな、とトゥルクはその手を握り返す。ソラと出会ってからというもの、気がつけばいつの間にか彼女のペースに乗せられてばかりいるように思う。祖父を亡くしてから、リブレ以外の誰かとあまり過ごすことのなかったトゥルクにとって、それは新鮮なことではあったけれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
 この後夕飯に何を食べるかなどという他愛もないことを話しながら、トゥルクとソラはうっすらと夜の気配が漂い始めた街を歩く。
 同じ歩幅でゆっくりと歩く少年と少女の背を東の空を染め上げ始めた夜の藍色が見守っていた。