泡沫の華と月蝕の契り

柱: 華園家屋敷・桜の自室・夜
ト書き:
夜更け。桜の自室は、月明かりが障子越しに差し込み、淡く青い光で満たされている。机の上には、第1話で白月からもらった不思議な輝きを宿した小石が置かれている。それは、穢れに怯えることなく過ごせる、彼女にとって唯一の希望だ。桜は小石をそっと指でなぞる。その夜は、満月。窓から見上げる月は、どこか不気味なほどに満ちている。
セリフ:
桜(心の声)「白月様…。あの時、私を助けてくださったのは、幻ではなかった。でも、穢れを払うと言っていた…、まさか、月の光が満ちると、彼の力が暴走してしまうのだろうか?」
ト書き:
桜の胸に、彼の瞳の奥に見えた孤独が蘇る。人々から恐れられ、遠ざけられてきた彼の姿を思い出し、胸が締め付けられる。いてもたってもいられなくなり、桜は寝間着の上から羽織を羽織り、草履を手に、屋敷を抜け出す。
セリフ:
桜(心の声)「もう、あの方を独りにしておけない…!」
柱: 屋敷裏の竹林・夜
ト書き:
竹林の道は、月明かりと竹の葉擦れの音だけが満ちている。桜は、手にした小石を道しるべに進む。すると、竹林の奥から、苦悶の唸り声が聞こえてくる。桜が恐る恐る奥へ進むと、そこにいたのは、見るも無残な姿に完全に異形と化した白月だった。彼の体は穢れの瘴気を放ち、触れた竹は黒く枯れていく。顔の半分は獣のように禍々しく変貌し、赤く光る瞳は苦痛に歪んでいる。
セリフ:
白月(苦悶の声)「…来るな! 俺に、近付くな…!」
ト書き:
白月の言葉に、桜は一瞬たじろぐ。人々が彼を恐れる理由が、この姿を見れば痛いほどに分かる。しかし、彼の瞳の奥には、変わらない孤独と悲しみが宿っていた。桜は、恐怖を振り払い、ゆっくりと彼に近づく。
セリフ:
桜「白月様……、大丈夫ですか」
白月「何故、逃げぬ…! 貴様も、俺を…、化け物と罵るがいい!」
ト書き:
桜は白月の言葉を無視し、穢れの瘴気が濃く渦巻く彼の体へと、そっと手を伸ばす。彼の体が放つ瘴気が、桜の掌に触れる。その瞬間、白月の異形の体から、苦痛の力が抜けていく。彼の体が、少しずつ人型に戻っていく。
セリフ:
白月「…貴様の力は、俺の穢れを浄化するのか」
桜「私には、何も力なんてありません。ただ、貴方様が苦しそうだったから……、私、貴方様を独りにしたくなかっただけなんです」
ト書き:
白月は桜の言葉に、初めて人間らしい温かな感情を抱く。彼は、自分を恐れず、ただ自分を案じてくれる桜の存在に、心の底から救われる。白月は、人型に戻った手で、震える桜の手を包み込む。
第2話ラスト:
白月は桜に、自分は月の満ち欠けによって異形と化す「月の民」の末裔であること、そして、その苦しみを桜だけが癒せることを告げる。白月は桜の手を握りしめ、まるで自分に言い聞かせるように、そして、桜に誓うように、こうささやく。「俺の秘密は、貴様だけのものだ。…そして、俺も、貴様の唯一になりたい」。その言葉に、桜の心が大きく揺れる。月の光が竹林を照らし、二人の間に、誰にも言えない秘密の絆が生まれた瞬間だった。