柱: 華園家屋敷の奥庭・昼下がり、夏の盛り
ト書き:
蝉の声が降り注ぐ、夏の盛り。華園家屋敷の奥庭。
しっとりと湿った空気に、苔むした岩が並び、小さな池には水の揺らめきが広がる。他の場所では手入れの行き届いた艶やかな花々が咲き誇るが、この庭だけは雑草が伸び、忘れ去られたように静まり返っている。
その一角で、桜(17歳)は、儚げな花(アジサイやノウゼンカズラ)を慈しむように見つめている。彼女の頬は青白く、華奢な肩はか細い。少し動くだけで、細く浅い息を繰り返す。
セリフ:
桜(心の声)「私は巫女の力を持たない、華園家の出来損ない。この庭と同じ、誰からも忘れられた泡沫の存在…」
ト書き:
そんな桜の独り言を遮るように、涼やかな鈴の音が響く。背後から現れたのは、華園家の嫡女であり、次期巫女と目される姉の椿(20歳)。彼女の纏う豪華な着物は、この庭の侘しさとは対照的だ。付き人たちが椿を扇子であおぎ、彼女の周りだけが、まるで別の世界のように華やかに見える。
セリフ:
椿「ふふ、桜。またこんな薄暗い場所で、つまらない花を眺めているの? その咳もみっともないわね」
桜「姉様……」
椿「巫女の力がなければ、あなたはただの役立たず。早くお役目を果たして、家の汚点をなくしてちょうだい」
桜「私…は、ただ…」
椿「口答えは無用。あなたに与えられた唯一の使命は、穢れを払うための供物になること。それすら全うできなければ、本当に家の恥。せいぜい、神に捧げられる花でも飾ってなさい。……ああ、でもそんな力もないかしらね」
ト書き:
椿は高笑いしながら去っていく。その背中に、桜は何も言い返せない。込み上げてくる悔しさと絶望で、さらに激しい咳き込みに襲われ、その場に膝をつく。彼女の体から、微かな生命の光がこぼれ落ちる。その弱々しい光に引き寄せられるように、漆黒の煙を纏った異形**「穢れ」**が、草木を枯らしながら姿を現す。
セリフ:
桜(心の声)「ああ、もう、抵抗する力なんてない……。このまま、穢れに喰われてしまうのだろうか」
ト書き:
桜は目を閉じる。穢れの冷たい瘴気が肌を刺す。その瞬間、鋭い風と共に銀色の刃が穢れを切り裂く。穢れは悲鳴を上げて霧散し、静寂が戻る。
セリフ:
桜(震える声で)「……誰……?」
ト書き:
桜が恐る恐る目を開けると、そこに立っていたのは、黒い着物をまとい、月のように美しい銀髪を持つ青年、白月(20歳)。彼の片側の瞳は、不気味に赤く光っている。周囲の草木は、彼が放つ穢れの瘴気に触れて枯れている。彼は桜を助けた後、言葉を発さずにすぐに姿を消そうとする。だが、桜の顔を見て、彼の足が止まる。
セリフ:
白月「何故だ……貴様には、俺の穢れが見えないのか」
桜(心の声)「この方は…穢れ? でも、私には、ただ…」
桜「穢れ……? いいえ、貴方様は…、ただ、美しい光を放っているように見えます」
白月(心の声)「美しい、光だと? 俺を恐れぬ者など、今までいなかった。この娘には、俺の呪いが見えぬのか?」
ト書き:
桜の言葉に、白月は初めて驚きと、かすかな安堵の表情を見せる。彼は自分の呪われた存在を穢れと捉え、人々から恐れられ、石を投げられてきた。しかし、この娘だけは、自分を「美しい」と評した。
第1話ラスト:
白月は桜に自分の名前を告げる。「白月…」。そして彼は光の粒子となって消えゆく。桜は、彼が立っていた場所に残された、不思議な輝きを宿した小石を拾い上げ、胸に抱きしめる。「…白月様」とつぶやく彼女の表情には、これまでの諦めとは違う、新たな希望の光が灯っていた。
ト書き:
蝉の声が降り注ぐ、夏の盛り。華園家屋敷の奥庭。
しっとりと湿った空気に、苔むした岩が並び、小さな池には水の揺らめきが広がる。他の場所では手入れの行き届いた艶やかな花々が咲き誇るが、この庭だけは雑草が伸び、忘れ去られたように静まり返っている。
その一角で、桜(17歳)は、儚げな花(アジサイやノウゼンカズラ)を慈しむように見つめている。彼女の頬は青白く、華奢な肩はか細い。少し動くだけで、細く浅い息を繰り返す。
セリフ:
桜(心の声)「私は巫女の力を持たない、華園家の出来損ない。この庭と同じ、誰からも忘れられた泡沫の存在…」
ト書き:
そんな桜の独り言を遮るように、涼やかな鈴の音が響く。背後から現れたのは、華園家の嫡女であり、次期巫女と目される姉の椿(20歳)。彼女の纏う豪華な着物は、この庭の侘しさとは対照的だ。付き人たちが椿を扇子であおぎ、彼女の周りだけが、まるで別の世界のように華やかに見える。
セリフ:
椿「ふふ、桜。またこんな薄暗い場所で、つまらない花を眺めているの? その咳もみっともないわね」
桜「姉様……」
椿「巫女の力がなければ、あなたはただの役立たず。早くお役目を果たして、家の汚点をなくしてちょうだい」
桜「私…は、ただ…」
椿「口答えは無用。あなたに与えられた唯一の使命は、穢れを払うための供物になること。それすら全うできなければ、本当に家の恥。せいぜい、神に捧げられる花でも飾ってなさい。……ああ、でもそんな力もないかしらね」
ト書き:
椿は高笑いしながら去っていく。その背中に、桜は何も言い返せない。込み上げてくる悔しさと絶望で、さらに激しい咳き込みに襲われ、その場に膝をつく。彼女の体から、微かな生命の光がこぼれ落ちる。その弱々しい光に引き寄せられるように、漆黒の煙を纏った異形**「穢れ」**が、草木を枯らしながら姿を現す。
セリフ:
桜(心の声)「ああ、もう、抵抗する力なんてない……。このまま、穢れに喰われてしまうのだろうか」
ト書き:
桜は目を閉じる。穢れの冷たい瘴気が肌を刺す。その瞬間、鋭い風と共に銀色の刃が穢れを切り裂く。穢れは悲鳴を上げて霧散し、静寂が戻る。
セリフ:
桜(震える声で)「……誰……?」
ト書き:
桜が恐る恐る目を開けると、そこに立っていたのは、黒い着物をまとい、月のように美しい銀髪を持つ青年、白月(20歳)。彼の片側の瞳は、不気味に赤く光っている。周囲の草木は、彼が放つ穢れの瘴気に触れて枯れている。彼は桜を助けた後、言葉を発さずにすぐに姿を消そうとする。だが、桜の顔を見て、彼の足が止まる。
セリフ:
白月「何故だ……貴様には、俺の穢れが見えないのか」
桜(心の声)「この方は…穢れ? でも、私には、ただ…」
桜「穢れ……? いいえ、貴方様は…、ただ、美しい光を放っているように見えます」
白月(心の声)「美しい、光だと? 俺を恐れぬ者など、今までいなかった。この娘には、俺の呪いが見えぬのか?」
ト書き:
桜の言葉に、白月は初めて驚きと、かすかな安堵の表情を見せる。彼は自分の呪われた存在を穢れと捉え、人々から恐れられ、石を投げられてきた。しかし、この娘だけは、自分を「美しい」と評した。
第1話ラスト:
白月は桜に自分の名前を告げる。「白月…」。そして彼は光の粒子となって消えゆく。桜は、彼が立っていた場所に残された、不思議な輝きを宿した小石を拾い上げ、胸に抱きしめる。「…白月様」とつぶやく彼女の表情には、これまでの諦めとは違う、新たな希望の光が灯っていた。


