「これは一体どういうこと?」

 俺は眉を吊り上げて部下に詰め寄った。そんな威圧的な行為にも、薄い反応しか返ってこない。

「どういうとは?」

 自身のパソコン画面から目を離さない神宮寺の口からは、面倒くさそうな声が漏れる。

「SNS、反応あったよね? それなのに、どうして1件も問い合わせがこないのさ?」
「そんなこと僕に言われても。誰も借りたくないから、連絡もないんじゃないですか」

 他人事のようにあっさりと確信をつく眼鏡小太りに、思わず尖った声を向ける。

「SNSにはちゃんと反応があったじゃないか? ほら。毎回、いいねもコメントも付いてるのに……」

 初めてのコメントを得て以降、ポツポツとだが着実に反応を得ている。それなのに、なぜ、オフィスの問い合わせがこないのか。

「そんな反応、あてになりませんよ。みんな、適当に見ているだけだし。それに、ほら。このコメントなんて面白がっているだけですよ」

 神宮寺がコメントの一つを指す。それは、さっきアップしたばかりの記事に対するコメントだった。

“オッサンが優雅にティータイム。似合わな~笑”

 俺の仕事となった、レンタルオフィスの空間改善。仕事の合間に飲み物があったらいいだろうと思い、カップをいくつか揃え、ティーパックやインスタントコーヒー、それから、電気ポットを設置した簡易ドリンクコーナーの前で、カップ片手に俺がリラックスした感じで笑っている記事。

 もちろん神宮司の注文で、そんなポーズを取ったのだが。それが笑われている。

 いいだろ。別に。オッサンがコーヒー飲んだって。

 そんなどうでも良いことにイライラしながら、俺は、これまでのいくつかのコメントを見直す。確かにどれも、好意的というよりは、小さな悪意が混ざっているような気もする。今の俺の精神状態がそう見せているのかもしれないが。それでも、現状、問い合わせが1件もないということは事実なので、俺の気のせいということはないだろう。

 広告を出し、SNSで情報を発信しても、何の成果もない。

 このままでいいはずがない。社長の決めた期限は、刻一刻と迫ってきているのに。どうにかしてレンタル契約を取らなくては。

 俺はデスクに置いてあった荷物を掴むと、出口へと向かう。

「部長?」
「やっぱり、俺は営業に行ってくるよ。神宮司君は、引き続きSNSのチェックと、電話番よろしく」
「はぁ」

 やる気のない部下の声を背に、俺は街へと飛び出した。俺は今、猛烈に焦っている。