神宮寺の策略に填まった俺は、毎度毎度SNSのネタのために動いた。

 と言っても、所詮はSNSド素人。何をどうすれば良いのか分からなかったので、結局部下に泣きついた。神宮寺は、仕事に対して意欲の欠片もない奴だが、意見を求めればそれなりに応えてくれる。案外仕事はやりやすい奴だ。そんな神宮寺の指示で、俺は室内の整備をしている。

 オフィスと言う割に、デスクが俺たちの分しかないことは、俺も気になっていた。そのため、まずは、デスクを何台か設置してみることにした。幸いここは元倉庫。オフィスとして利用しない空間には、会社で使わなくなった雑多なものが適当に詰め込まれている。その中から、使えそうなデスクを掘り出し設置。その様子をSNS担当が小さな記事にして更新を続けた。

 どこで使用していたのか分からないが、大きめの円卓を掘り出した俺は、それをオフィスの中央に設置し、何脚かの椅子を収める。それだけで、殺風景だった空間が、安会議室のような感じになった。

 その様子に一人満足していると、自身のデスクでダルそうにパソコンに向かっていた神宮寺に声をかけられた。

「部長。反応がありましたよ」
「反応?」

 額に光る汗を拭いながら、彼のそばへと歩み寄る。神宮寺はパソコンの画面を少しずらして、見せてくれた。

 画面には彼に任せてあるSNSが表示されていた。ようやく見慣れたその画面にそれまではなかった小さな赤いハートのマークと「1」という数字がついていた。

「反応ってこれかい?」

 ハートを指さしながら聞くと、神宮寺は、そうだと言った。

「これは、“いいね”のマークです」
「いいね?」
「この記事を読んで、リアクションをくれた人がいるということです」
「つまり、SNSの成果があったってこと?」

 そんな事を話していると、今度は吹き出しマークに変化があった。

“おっさんが机運んでるの、マジウケる”

 画面に表示されたそんな言葉に釘付けになる。

 内容云々は、どうでも良い。他者からのリアクションに俺の心は浮き立った。これまでにない手応えを感じる。

「凄いよ。神宮司君。デジタル広告よりも、こっちの方が反応があっていいね。SNSを始めて良かった良かった。バズってるね」
「いえ。バズってはいません」

 神宮寺は、眼鏡を外して丸いレンズを拭きながら冷静に、俺のコメントを訂正してきたが、そんなことはどうでも良い。だって、広告にはなかった反応があったのだ。これでもう安泰だろう。