デジタル広告とやらは、全く効力を発揮していない。なぜなら、いつまで待っても誰からも問い合わせがないのだから。

「神宮司君さぁ。デジタル広告はちゃんと載せてくれているんだよね?」
「もちろんです。指示をされたその日に広告レイアウトを作って、部長に確認を取りましたよね?」

 二人だけの空間に、心外だと言わんばかりの神宮寺の低い声が響く。

「うん。確認してOKは出したけど、本当に広告が掲載されているのかなと思って。だって、ほら。全然反応ないし」

 俺はその場の空気を取り繕うように、曖昧な笑みを浮かべた。そんな俺の努力虚しく、神宮寺は凍り付きそうなほど冷たい視線を投げかけてくると、ノートパソコンをカタカタカタと音を立てて叩く。そしてすぐに、パソコンをクルリと回転させて、画面を見せてきた。

「ほら。ここにきちんと載っていますよね? これで満足ですか?」
「ああ。うん。ごめんね。なんか嫌な言い方しちゃって」

 相変わらず俺はヘラヘラとしながら、その場を何とか取り繕う。しかし、次第に俺の顔からヘラヘラが剥がれ落ちていった。

「ねぇ。神宮司君。この広告って、あんまり魅力ないんじゃない?」

 床と壁だけの何もないだだっ広い空間。そんな写真と『レンタルオフィスをお探しの方は今すぐチェック』という煽り文句。まるで怪しい勧誘広告のようだ。広告を出すことにばかり注力していて、見え方なんて全く考えていなかった。

「いや、もちろん、OKを出したのは俺なんだから、俺の責任なんだけど。でもなぁ。なんかなぁ。だから、誰も借り手が付かないのかなぁ……」
「そうじゃないですか。こんな味も素っ気もない空間を映しただけの広告なんて、誰も見ないですよ。それに、予算が無いから低額で広告を出せるところにしか出していませんし。こんなんで集客が見込めるとは思えませんね」

 すまし顔でそんなことを言う神宮寺に腹が立った。

「キミが広告が良いと言ったんじゃないか」
「言いましたけど、僕は所詮ヒラですから。運営方針は、部長が決めてくれないと」
「そうは言っても、広告がダメだとすると、他に集客を集める手は……」
「SNSとかじゃないですか?」

 神宮寺が面倒くさそうにボソリと言う。

「そうか。SNSか。うん。今どきはSNSだよな。ナイスアイディアだ。神宮司君」

 そして新たにSNSで集客することを決めた我ら新事業推進部。しかし現在のレンタルオフィスの稼働率は0%。俺は今焦っている。