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「転生できないとは…!どういうことですか!?」
「"言葉の通りです。"」
淡々と言い切るリンの表情は私の知らないものだ。
…私の知るリンとは違うわ。
あなたはどんな絶望を背負っていたの…?
「リン…私はいつも自分のことばかりで、あなたの苦しみに気付けなかった…。ごめんなさい。」
「"謝る必要はないわ、ハナ。
私は汚い人間なの。私のわがままにハナたち3人を勝手に巻き込んだのよ。"」
「…転生のこと?」
リンは泣きそうな顔にギュッと力を込めた。
「リン…」
「それよりなぜ私は転生できないのですか!?
寿命を残してあなたの魔力で絶命することが対価とおっしゃったでしょう!!」
セロン様が私の言葉を遮り、叫ぶように発した言葉に体が硬直する。
リンの…魔力で絶命…?
「"ハナ、ロイ様。本当にごめんなさい。"」
「っ…」
ロイはリンの映像から目をそらして歯を食い縛っている。
「俺の質問に答えてください!!」
「"転生は私と私の大切な3人に限定しました。
アイダの魔術書が戦争で焼かれた未来の私では、数年で転生魔術を生み出すことは不可能です。
その前にあなたの余命は尽きるでしょう。"」
「っ…」
セロン様はヨロヨロとその場に尻餅をついた。
「"私は未来視で戦争に負けること、
ハナとロイ様が戦場で、ギル様は王都で敵兵に殺されることを知りました。
何度魔術を行ってもそれは揺るぎない未来でした。
弱い私は今の人生を生きる気力をなくしたのです。"」
「リン…」
「"祈り文は生への執着を強める手段として私が生み出しました。
今の人生への執着が強いほど、来世で記憶を引き継げる可能性が高いのです。
ギル様には未来視のことを話していましたから、そちらの私とギル様は記憶がないでしょうね。"」
「ないわ…」
リンは初めてホッとしたように笑った。
「"転生のために4人とも私の魔力でとどめを刺す必要があり、4人の最期を何度も確認しました。
ハナの最期にロイ様が傍らにいることを知り、ロイ様に痛みを感じない小刀を渡しました。
そうすれば、その時にハナを苦しめずに送ってくれると確信していました。"」
「リン…その話はいいわ…」
「"瀕死のハナへのとどめはロイ様に、
瀕死のロイ様へのとどめは隠密魔術をかけたアルウィンに…"」
「もうやめて…」
「"ぎ…ギル様には…"「リン!!!」
私の言葉にリンは言葉を止めた。
私の目からは抑えきれない涙が次から次に溢れる。
「"3人の死を確認しましたので、私はこれから自分の魔術をかけた剣で自死します。
この遺言と転生魔術以外の魔術は私の命とともに効果が消えるよう準備して。"」
「ど…どうして私は…転生させてくれなかったのですか?」
セロン様が力なくそう尋ねた。
「"私はわがままで自分勝手なのです。
本当にそれだけです。"」
「俺がアイダの魔術を使えれば…不老不死だって夢ではないはずです…!」
「"夢ですわ。私にできないことが、たとえ生まれ変わってもセロン先生にできるはずありませんもの。"」
セロン様はリンの台詞に愕然とした。
「でも…でも…」
「"あなたは数日後に寿命を迎えます。
もちろん転生はできません。"」
「っな!何をバカな!!」
「"転生というヒントをくれたことには感謝します。
けれど、そちらでハナと私に危害を加える方の願いを聞き届ける義理はありませんわ。"」
「そっ…それは…!」
「"長生きおめでとうございます、さようなら"」
セロン様はその場にうずくまり、泣きながら頭を抱えた。
すると、驚くべきことにみるみると老人の姿に変身を遂げた。
「なっ、魔術の効果が切れたのか!?」
「精神状態に影響したのだわ…」
リンの映像が揺らいだ。
「…リン!」
「"ハナ、そちらの私たちは幸せ?"」
「ええ、ええ!!本当に幸せよ。」
「"なら安心していけるわ。"」
「ええ…」
「"私のことは憎んでくれてかまわない。
だけど、愛してるわ。ハナ。"」
「憎むわけないでしょう…!」
リンは安心したように涙をこぼすと力ない笑顔を浮かべた。
「愛してるわ!リン!!」
そう叫ぶと同時に私の剣から浮かび上がっていた映像が消えた。
次の瞬間ーー
「王国防衛軍だ!武器を捨て投降せよ!!」
ティボー様含めた数人の剣士が建物内になだれこみ、あっという間に老人となったセロン様を拘束した。
セロン様は抵抗することなく、口と手足を縛られ、連れていかれた。
私は剣を抱きその場に座り込んだ。
ロイが肩を抱いてくれる。
騒がしい周囲と対照的に私は静かに涙を流すことしかできなかった。
こうして一連の騒動は幕を下ろした。



