誰かが泣いている。

 この声はーー灯里だ。
 わたしは近寄って手を伸ばす。

 どうしたの?
 なんで泣いてるの?

「ごめんね」

 灯里は言った。

 ごめんね。ごめんね。ごめんね。
 何度も同じ言葉を繰り返す。

「ねえ美久。あのとき、なんて言ったの?」

 あのとき?

 ああ、あのときはねーー

 もうすぐ二時間だ。
 二時間ごとに切り替わる記憶。
 時間が経てばすべて忘れてしまう。
 だんだん時間の感覚がなくなっていく。
 アイスクリームが溶けて形を失っていくみたいに。

 ーーごめんね。それは言えないんだ。

 たとえそれが、灯里を苦しめることになるとわかっていても。


 だから、そのときまでもう少し待ってて。