☆第3話☆
〇夕食後。九重と七森の寮の部屋。
真ん中のローテーブルを囲み、対面で座っている二人。
二人とも頭にキラキラなとんがり帽子、首には真っ赤な蝶ネクタイ。
七森だけ【本日の主役】と書かれたたすきをかけている。
七森(俺がお願いした。親睦会をやって欲しいって)
(小学校のころからずっと憧れてきた九重先輩が俺との思い出を大切にしてくれているような気がして、嬉しくてたまらなかった)
(ただ、さすがにこの姿は恥ずかしい)
嬉しそうに七森にりんごジュースが入ったコップを手渡す九重。
自分もコップを手に持っている。
九重「それでは」
九重はこほんと咳払い。
九重「俺たちがこれからもずっと仲良しでいられるように、カンパイ!」
ハイテンションにコップを頭上にあげた九重だったが、無表情のまま視線を横に逃がしている七森は微動だにしない。
九重「あぁもぅ、パーティーは楽しんだもの勝ちだよ。口角上げて。笑顔作って」
照れ隠しでそっぽを向き続ける七森。
ふくれ顔の九重はコップをローテーブルに置き、七森のコップも奪ってテーブルに置いた。
九重「はい、両手ピース」
しぶしぶ、いやいや顔で両手ピースをする七森。
九重「手の位置が低すぎ。ピースはほっぺの横」
九重が七森の両手首をつかみ、ほっぺの横にピースを持ってくる。
九重「よろしくって思いながら、イェイイェイして」
恥ずかしすぎて、顔を横に向けている七森。
九重「じゃあ俺がお手本を見せるね」
オドオドと、七森が視線を九重に突き刺す。
九重は七森を見ながら二カっと笑って、人差し指と中指の第二関節を曲げ伸ばし。
九重「イェイ、イェイ」
あまりの可愛さに、七森の顔の温度が急上昇してしまう。
九重「つぎ、七森の番」
七森「……俺は」
九重「手の位置が下がってるんだってば」
立ち上がった九重。
後ろから抱き着くように七森の手首を持ち、横からグイっと顔を出し七森を見上げる。
いきなりのバックハグに、ドキドキで混乱気味な七森。
九重「体育館ではやってくれたじゃん。もう一回見たい」
尊敬する九重先輩にお願いされ、諦めてやることに。
七森は口を小さく開いて、視線を九重と反対方向に逃がして。
七森「……カニ……カニ」
大笑いしながら立ち上がった九重。
九重「カニカニじゃなくてイェイイェイだろ。アハハ、可愛いから許す」
かわいいって言われたのが嬉しくて、でも恥ずかしすぎて、ドキドキ加速で平常心を保てない七森。
壁沿いに置いてあるベッドに腰かける九重。
ローテーブルの前に座っている七森と九重は、少し離れたななめに対峙している感じ。
九重はななめ下に視線を落とす。
九重「一緒に組んでびっくりした。七森は本当にバドミントンが上手いんだね。前衛ですっごく動きやすかった」
七森(当たり前です)
(あなたと再会したときにペアとして選んでもらえるよう、必死に練習してきたんですよ)
九重「いつからバドを始めたの?」
しぶしぶ人差し指を伸ばす七森。
九重「小1か。俺は小2」
七森「1歳です」
九重「1歳? 生まれてすぐ? ギャン泣きしかできない赤子じゃん」
七森「赤子ではありません。写真を見る限り、ラケットを持って歩いていたので」
九重「だよな。母親に背負われた赤ちゃんがラケットをぶん回してスマッシュの真似をしてたら、二度見三度見するもん」
七森「経験者の両親が俺にやらせたかったみたいで」
九重「バドミントン一家か。バド練やりたい放題だったんだ、うらやましい。俺の親はスポーツより勉強ってタイプ。テストの点が悪かったらバドミントンをやめさせるって脅されて育ったから、今も勉強が大嫌いなんだけど。まぁ小さい頃に勉強をさせられまくったおかげで、そこそこ頭はいいはず。高1の勉強なら教えてあげられるよ。テスト前に困ったら遠慮なく言うように」
長めの前髪をかき上げ、先輩ぶった九重。
「けっこうです」と断りながら、七森が手のひらを九重に向けた。
七森「高3までの勉強は一通りここに」
七森は人差し指で、自分の頭をトントンしている。
九重「は? 高3って、俺でもまだ習ってないとこ」
七森「高校はバドだけに集中したくて、中学の間に脳に叩きこみました」
九重「まさか七森って、受験の成績トップだった?」
七森「入学式で新入生代表挨拶をさせられたので、2位以下になればよかったと後悔してます」
九重「バドミントンもうまい、頭もいい、そして高い顔面偏差値。不公平すぎるでしょ」
七森の綺麗顔をまじまじと見つめ、重いため息を吐く九重。
九重「おまえのその魅力、俺にもわけて欲しいよ」
九重は脱力しながら、ベッドに倒れこむ。
七森(九重先輩だって、顔よし、頭よし、運動神経よしの3拍子揃ってるくせに)
天井を見上げる七森。
(あの両親だったから、俺はバドミントンが大嫌いだったんだろうな)
〇過去回想 七森が幼稚園の時。
幼稚園の部屋で、男の子たちと大きな積み木をしている七森。
色白で黒髪がサラサラで、目が今より大きくてかわいい顔をしている。
性格はおとなしめ。紺色の園服姿。
友達「りつき君、幼稚園のあと遊べる?」
友達「こうた君家で電車やるんだ」
七森「バドミントンの練習をしなきゃ」
友達「今日も?」
友達「いつなら遊べるんだよ」
七森「わからない。ごめんね」
友達「もういい、ほかの友達さそおう」
友達「だね」
七森は終始笑顔で会話をしていたが、友達がいなくなった瞬間、泣きそうな顔を浮かべる。
悔しくて、本当は友達と遊びたくて、手のひらをギューギュー握っている七森。
〇夕方、お母さんと人工芝の庭でバドミントンの練習をする園児七森。
母がどこに投げるかわらかないシャトルに反応して、打ち返す練習。
汗だくで疲労がたまっていて、動きが鈍くなっている。
かなり前方に落とされ、めいっぱい右足を延ばしたけど間に合わず、シャトルが地面に落ちてしまった。
母 「(怒鳴りながら)なんで今のが取れないの!」
七森「(立ち上がりしょぼんで)ごめんなさい」
母 「フットワークが身に着くまで、お菓子抜きだからね」
七森「(泣きそうな顔で)はい」
七森は疲れ果てていて、汗だく&肩で呼吸をしている。
母 「律希が強くなるためにお母さんがこんなに練習に付き合ってあげてるのに、全然うまくならないじゃない。お母さんをがっかりさせないで」
七森「(ふてくされた顔で)頑張ってるもん」
母 「文句があるならもうお母さん知らない。律希なんてお母さんの子供じゃない」
七森を置いて立ち去ろうとする母。
泣きながらお母さんを追いかけ、背中にしがみつく七森」
七森「ごめんなさい。ちゃんと練習するから。がんばるから」
〇試合に出た時の小3七森。
大接戦の末に1回戦で負けしてしまった。
父 「1回戦で負けたのは、律希がいい加減な練習ばっかりしているからだ!」
母 「恥ずかしい試合をしないでちょうだい」
父 「小3にもなって、試合中に弱気になりやがって。県外の試合にわざわざ連れてきてやったのに」
母 「ここまでくるお金がもったいなかったわね。明日からの特訓メニューを増やさなきゃ」
試合に負けた七森が一番悔しいのに、ガミガミ文句を言う両親。
現実七森(毎日の頑張りを認めて欲しかった。たった一つでもいいから、試合で良かったところを誉めて欲しかった)
父 「智也の長男は決勝まで勝ち進んだのか。さすがだな」
母 「応援しなきゃね。律希はペンとノートを持って、智成くんの試合のいいところをメモするように。わかった?」
泣きそうな顔でうつむいたまま、こくりとうなづいた七森。
2階の観覧席から、決勝戦を見ている七森家族3人。
七森だけ一人で、親の後ろの列に座っている。
父 「見たか、今のスマッシュはいいコースだったな」
母 「守りもうまいわね。どうやったら律希も智成くんみたいになれるのかしら」
七森(ごめんね、出来の悪い僕がお父さんとお母さんの子供で。もう嫌だ、バドミントンなんてやめてやる!)
ノートを閉じ、静かに立ち上がった七森。
両親に気づかれないように、そうっと体育館の外に逃げ出した。
県外の知らない土地を、うつむきながら泣きそうな顔で歩く小3の七森。
川沿いの川より高い歩道を歩いていると、しゃがみこんでいる男の子の背中が見えた。
七森と同じ小3くらい。
スポーツTシャツにひざ丈ズボン。
バドミントンラケットの布袋を背負っている。
なかなか立ち上がらないので、何かあったのかと思い七森は男の子の背後に近づく。
九重「痛っ」
七森「えっ、大丈夫?」
七森の声にびっくりして、男の子がしゃがんだまま振り返った。
栗色の髪を揺らし、キョトンとしたグリグリお目目で、七森を見上げている。
七森「いま痛いって聞こえたから、なにかあったのかなって」
九重「あぁ、この子が暴れるんだよ」
立ち上がった九重が、おにぎりを握るように優しく包んでいた両手を少しだけ開いた。
覗き込む七森。
中には小さなさわ蟹が1匹だけいる。
七森「カニを捕まえてたの?」
九重「違う違う、レスキュー」
七森「助けてあげたってこと?」
九重「ずっと川の中にいればいいのに。カニたちも冒険したいか、ここまで来るってことは」
川、斜めになっている草むら堤防、二人がいる歩道まで目でたどる七森。
七森「この坂を上ってくるの? この小さなカニが?」
九重「根性あるよね」
七森「すごい」
九重「安全地帯ならいいよ。冒険を楽しんでって感じじゃん。でもこの先は危いんだ」
七森「ほんとだ、車がビュンビュン通ってる」
九重「ひかれちゃうカニとか、太陽ガンガンで干からびちゃうカニとかたまにいるから、見つけたらレスキューしてる」
現在七森(すごいと思った。俺は自分のことでいっぱいいっぱいだった。それなのにこの子は、カニを助けているなんて)
九重「あそこにもう一匹いる、捕まえて」
七森「僕が?」
九重「このままだと道路に出ちゃう、ひかれちゃう」
噛まれないか心配になりながらも、しゃがんでカニを手のひらに閉じ込める七森。
九重「一緒に川まで連れてってあげよう」
真っ白い歯でにカッと笑った九重のヤンチャ笑顔が可愛くて、ドクンと七森の胸が大きく跳ねる。
川岸まで降りてきた二人。
川を眺めるように並んでしゃがみこむ。
九重は包んでいた手を開き、カニに笑いかけた。
九重「川から道路までの大冒険、楽しかった?」
「こんな小さな体でこの坂を上りきるなんてさすが。ほんとすごい。俺も見習わないと」
「でももう道路に出ちゃダメだよ。川の中で思いきり楽しんで」
川辺にサワガニを逃がしてあげた九重。
七森(カニを誉める人なんて初めて)
カニを見つめる横顔が大人びていて、七森はカニを手に閉じ込めたまま見とれてしまった。
真横を向いた九重と視線が絡み、七森は恥ずかしくなってカニをそっと逃がす。
七森「バイバイ、元気でね」
クスクス笑いご声が聞こえ横を向くと、九重が七森を見ながら満足そうに笑っていた。
七森「なに?」
九重「おとなしそうに見えるのに、カニ触れるんだ」
七森「君が言ったでしょ、ひかれちゃうって、だから何とかしなきゃって」
九重「優しいね」
七森(え、ほめられた?)
飛びきりの笑顔で褒められ、なぜかわからず顔面が真っ赤になってしまう七森。
くすぐったい心臓に手を当てる。
九重「じゃあ俺たちは、今だけカニレスキューチームのバディっていうことで」
七森「バディ?」
九重「二人でなら、何をやっても最強ってこと」
七森「アハハ、なにそれ、絶対に意味ちがうよ」
バドミントンのことで親に怒られてばかりでふさぎ込んでいた七森が、久々に思いきり笑った。
七森(僕ってこんなに笑えるんだ)
涙が出るほど楽しくて、笑いながら指で目じりを拭う。
九重「お腹すいた。今日の夕飯なにかな」
七森(この子が帰っちゃう。嫌だ、もっと一緒にいたい)
七森は勇気を出して、九重の背中に人差し指を向けた。
七森「やってるの? バドミントン」
九重「(背中のラケットケースをチラ見して)ああ、これね。うん、自主練の帰り」
七森「僕もバドミントンやってるよ」
九重「どこの小学校? どこかのクラブチームに入ってる?」
目を輝かせ、七森に迫る九重。
七森の両肩に手を置き、キラキラな瞳を輝かせている。
七森「遠くの県に住んでる。学校の名前を言ってもわからないと思う」
「そっか」と残念がった九重が、七森から離れた。
でもまたすぐに、九重の顔が太陽みたいに煌めきだす。
九重「時間ある? バドミントンしよ。ラケット2本持ってるんだ。シャトルもあるし」
七森「やりたい」
九重「よっしゃあ!」
九重に連れられ、すぐ近くの広場に。
木の枝を使って、九重が適当にコートを地面に書く。
七森「風がなくてラッキーだね」
九重「そういえば名前聞いてなかった。俺はとうま。九重灯真」
七森「僕は律希です」
九重「じゃあリッキーで。手加減なしだからね」
七森「うん」
ワクワクしながら「お願いします」と握手を交わす二人。
試合開始、九重が大きくサーブを打った。
長くラリーが続く。
お互い前に落としたり、スマッシュしたり、相手を前後左右に揺さぶったり。
鋭いスマッシュが来ると身構えた九重だったが、七森はスマッシュを打つと見せかけドロップで九重の前方に落とした。
ふいをつかれ思いきり右足を延ばした九重だったが、ラケットは届かずシャトルは地面に落ちた。
九重「くっそー!」
悔しくて叫んだ九重は、右足を延ばした開脚からお尻をつき、そのまま地面にねそべった。
青空を見上げながら、仰向けでケラケラと楽しそうに笑っている。
九重「アハハ、めっちゃ楽しい!」
起き上がり、七森のところに走る。
九重「バドミントンすごく上手なんだね。最後のなんてめっちゃ早いマッハ新幹線スマッシュが来るかと思ったのに、あのフォームで前に落とすなんて」
七森「バドミントンがうまい? それって僕のこと?」
九重「俺はおばけとバドミントンをしてるんですか? 俺の目の前にいるのは、リッキーじゃないんですか?」
七森「でも僕は怒られてばっかで……お父さんたちに褒められたことがなくて……だから信じられなくて……」
九重「リッキーはすごい! 俺の入ってるバドミントンチームの誰よりもうまい! だから一緒にバドミントンやるのめっちゃ楽しい!」
嬉しい気持ちがあふれて来て、泣きそうな顔で微笑む七森。
九重「今度はリッキーがサーブね」
九重からシャトルを手渡され、とびきりの笑顔でウンとうなづく。
バドミントンのラリー再開。
七森がいい技を繰り出すたび、九重が全力で褒めまくってくれる。
七森(バドミントンってこんなに楽しかったんだ)
ビュービューと風が吹き出した。
シャトルが飛ばされ、うまくラリーが続かない。
九重「風が吹いてきちゃったか。残念だけどここまで」
七森(あぁ、終わっちゃった)
九重「もっとリッキーとバドミントンやりたかったな」
七森「僕もやりたかった。とうま君ラケットありがとう」
ラケットを九重に返す七森。
九重「また一緒にバドやろう。って、リッキーはどこに住んでるの?」
七森「僕は……」
七森母「こんなところにいたのね!」
鬼の形相で駆けてくる七森母。
怒られるのが怖くて縮こまる七森。
七森母「探し回ったんだからね。さぁ体育館に戻るわよ」
母親に手を引っ張られ、悲しい顔をした七森は引きずられていく。
九重「また一緒に、カニ助けようね。バドミントンやろうね」
七森「うん、またね」
大声で叫ぶ九重が両手ピースを突き出し、第二関節をまげカニカニ。
七森もまたねと言いながら、母親に引っ張られていないほうの手でカニカニ。
九重が小4、七森が小3のできごと。
〇現在に戻る。
寮の部屋。ローテーブルの前に座る七森。
七森に背を向けベッドに寝転んでいる九重。
七森は九重をチラ見して、いろんな感情を抱く。
七森(もう一度会いたくて、必死にあなたを探しました)
(小3の傷ついていた俺は、あなたに心を救われたんです)
(カニにまで優しくほめるあなたが、まぶしくてたまりませんでした)
(俺が抱くあなたへの感情は、憧れなのか執着なのか恋心なのかわかりません)
(でも、あなたを独り占めしたい)
(俺だけを見つめて、俺だけに笑いかけて欲しい)
(とうま君……いえ、九重先輩。いつか俺の醜い欲望を満たしてください)
(あなた以外、誰にも興味がわかないので)
キラキラとんがり帽子、蝶ネクタイ、たすきを机の上に置き、立ち上がってベッドに近づく七森。
七森(寝てる?)
見下ろすと、七森に背を向けるように横向きで寝ている九重の姿が。
ベッドには、さっきまで九重がかぶっていたとんがり帽子が転がっている。
七森(部活で疲れている中、親睦会を開いてくれたんですね。嬉しいです)
(寝顔かわいい、小4のとうま君もヤンチャでかわいかったな)
寝顔を拝んで、つい口元が緩む七森。
七森(でも今は、可愛いだけじゃないんだよね)
笑みを消し、スポーツで引き締まった体を見つめる七森。
Tシャツのすそからお腹がチラッと見えている。
割れている腹筋に胸キュンのようなゾクゾクを感じた七森は、九重の腹筋を触りたいと手を伸ばす。
その時、九重が七森の方に寝返りをうった。
驚いた&ベッドから落ちないか心配になった七森。
九重を守ろうとベッドの端にお尻をつき、覆いかぶさるように九重の顔の横に両手をつく。
七森のサラサラな髪が顔を撫で、違和感で目を開けた九重。
目の前に七森の王子様顔ドアップで、まだ夢の中なのかもとボーっと七森を見上げ続けてしまう。
数秒間見つめあう二人。
お互い顔の熱がジクジク上がっていく。
廊下を歩く寮生の笑い声が二人の耳に届き、ハッとなって二人とも離れた。
九重は壁の方を向いてベッドの上で三角座り。
七森もてんぱり、九重がいるベッドとは反対側の壁にある勉強机の椅子に座り、お互いが背を向けあっている。
襲おうとしていたわけではないと弁解したい七森。
七森「九重先輩がベッドから落ちるんじゃないかと思って」
九重「助けてくれたんだ。俺の方こそごめん。睡魔に襲われた。秒で夢の世界に蹴落とされたみたい」
恥ずかしさが抜けない二人の声は、ちょっとうわづっている。
部屋の中がシーンと静かになった。
恥ずかしさと気まずさが拭えない二人。
九重はベッドの上で三角座りをして、真っ赤になった顔をひざにうずめている。
九重(ビビった。童話から出てきた王子様に襲われるかと思った///)
七森は椅子に座ったまま、机に両膝をついて頭を抱えている。
七森(腕の筋力が弱かったら、キスしてたかも///)
七森・九重(やばい、顔面直視ムリ///)
二人とも顔面真っ赤な照れ顔で、第3話終了。
〇夕食後。九重と七森の寮の部屋。
真ん中のローテーブルを囲み、対面で座っている二人。
二人とも頭にキラキラなとんがり帽子、首には真っ赤な蝶ネクタイ。
七森だけ【本日の主役】と書かれたたすきをかけている。
七森(俺がお願いした。親睦会をやって欲しいって)
(小学校のころからずっと憧れてきた九重先輩が俺との思い出を大切にしてくれているような気がして、嬉しくてたまらなかった)
(ただ、さすがにこの姿は恥ずかしい)
嬉しそうに七森にりんごジュースが入ったコップを手渡す九重。
自分もコップを手に持っている。
九重「それでは」
九重はこほんと咳払い。
九重「俺たちがこれからもずっと仲良しでいられるように、カンパイ!」
ハイテンションにコップを頭上にあげた九重だったが、無表情のまま視線を横に逃がしている七森は微動だにしない。
九重「あぁもぅ、パーティーは楽しんだもの勝ちだよ。口角上げて。笑顔作って」
照れ隠しでそっぽを向き続ける七森。
ふくれ顔の九重はコップをローテーブルに置き、七森のコップも奪ってテーブルに置いた。
九重「はい、両手ピース」
しぶしぶ、いやいや顔で両手ピースをする七森。
九重「手の位置が低すぎ。ピースはほっぺの横」
九重が七森の両手首をつかみ、ほっぺの横にピースを持ってくる。
九重「よろしくって思いながら、イェイイェイして」
恥ずかしすぎて、顔を横に向けている七森。
九重「じゃあ俺がお手本を見せるね」
オドオドと、七森が視線を九重に突き刺す。
九重は七森を見ながら二カっと笑って、人差し指と中指の第二関節を曲げ伸ばし。
九重「イェイ、イェイ」
あまりの可愛さに、七森の顔の温度が急上昇してしまう。
九重「つぎ、七森の番」
七森「……俺は」
九重「手の位置が下がってるんだってば」
立ち上がった九重。
後ろから抱き着くように七森の手首を持ち、横からグイっと顔を出し七森を見上げる。
いきなりのバックハグに、ドキドキで混乱気味な七森。
九重「体育館ではやってくれたじゃん。もう一回見たい」
尊敬する九重先輩にお願いされ、諦めてやることに。
七森は口を小さく開いて、視線を九重と反対方向に逃がして。
七森「……カニ……カニ」
大笑いしながら立ち上がった九重。
九重「カニカニじゃなくてイェイイェイだろ。アハハ、可愛いから許す」
かわいいって言われたのが嬉しくて、でも恥ずかしすぎて、ドキドキ加速で平常心を保てない七森。
壁沿いに置いてあるベッドに腰かける九重。
ローテーブルの前に座っている七森と九重は、少し離れたななめに対峙している感じ。
九重はななめ下に視線を落とす。
九重「一緒に組んでびっくりした。七森は本当にバドミントンが上手いんだね。前衛ですっごく動きやすかった」
七森(当たり前です)
(あなたと再会したときにペアとして選んでもらえるよう、必死に練習してきたんですよ)
九重「いつからバドを始めたの?」
しぶしぶ人差し指を伸ばす七森。
九重「小1か。俺は小2」
七森「1歳です」
九重「1歳? 生まれてすぐ? ギャン泣きしかできない赤子じゃん」
七森「赤子ではありません。写真を見る限り、ラケットを持って歩いていたので」
九重「だよな。母親に背負われた赤ちゃんがラケットをぶん回してスマッシュの真似をしてたら、二度見三度見するもん」
七森「経験者の両親が俺にやらせたかったみたいで」
九重「バドミントン一家か。バド練やりたい放題だったんだ、うらやましい。俺の親はスポーツより勉強ってタイプ。テストの点が悪かったらバドミントンをやめさせるって脅されて育ったから、今も勉強が大嫌いなんだけど。まぁ小さい頃に勉強をさせられまくったおかげで、そこそこ頭はいいはず。高1の勉強なら教えてあげられるよ。テスト前に困ったら遠慮なく言うように」
長めの前髪をかき上げ、先輩ぶった九重。
「けっこうです」と断りながら、七森が手のひらを九重に向けた。
七森「高3までの勉強は一通りここに」
七森は人差し指で、自分の頭をトントンしている。
九重「は? 高3って、俺でもまだ習ってないとこ」
七森「高校はバドだけに集中したくて、中学の間に脳に叩きこみました」
九重「まさか七森って、受験の成績トップだった?」
七森「入学式で新入生代表挨拶をさせられたので、2位以下になればよかったと後悔してます」
九重「バドミントンもうまい、頭もいい、そして高い顔面偏差値。不公平すぎるでしょ」
七森の綺麗顔をまじまじと見つめ、重いため息を吐く九重。
九重「おまえのその魅力、俺にもわけて欲しいよ」
九重は脱力しながら、ベッドに倒れこむ。
七森(九重先輩だって、顔よし、頭よし、運動神経よしの3拍子揃ってるくせに)
天井を見上げる七森。
(あの両親だったから、俺はバドミントンが大嫌いだったんだろうな)
〇過去回想 七森が幼稚園の時。
幼稚園の部屋で、男の子たちと大きな積み木をしている七森。
色白で黒髪がサラサラで、目が今より大きくてかわいい顔をしている。
性格はおとなしめ。紺色の園服姿。
友達「りつき君、幼稚園のあと遊べる?」
友達「こうた君家で電車やるんだ」
七森「バドミントンの練習をしなきゃ」
友達「今日も?」
友達「いつなら遊べるんだよ」
七森「わからない。ごめんね」
友達「もういい、ほかの友達さそおう」
友達「だね」
七森は終始笑顔で会話をしていたが、友達がいなくなった瞬間、泣きそうな顔を浮かべる。
悔しくて、本当は友達と遊びたくて、手のひらをギューギュー握っている七森。
〇夕方、お母さんと人工芝の庭でバドミントンの練習をする園児七森。
母がどこに投げるかわらかないシャトルに反応して、打ち返す練習。
汗だくで疲労がたまっていて、動きが鈍くなっている。
かなり前方に落とされ、めいっぱい右足を延ばしたけど間に合わず、シャトルが地面に落ちてしまった。
母 「(怒鳴りながら)なんで今のが取れないの!」
七森「(立ち上がりしょぼんで)ごめんなさい」
母 「フットワークが身に着くまで、お菓子抜きだからね」
七森「(泣きそうな顔で)はい」
七森は疲れ果てていて、汗だく&肩で呼吸をしている。
母 「律希が強くなるためにお母さんがこんなに練習に付き合ってあげてるのに、全然うまくならないじゃない。お母さんをがっかりさせないで」
七森「(ふてくされた顔で)頑張ってるもん」
母 「文句があるならもうお母さん知らない。律希なんてお母さんの子供じゃない」
七森を置いて立ち去ろうとする母。
泣きながらお母さんを追いかけ、背中にしがみつく七森」
七森「ごめんなさい。ちゃんと練習するから。がんばるから」
〇試合に出た時の小3七森。
大接戦の末に1回戦で負けしてしまった。
父 「1回戦で負けたのは、律希がいい加減な練習ばっかりしているからだ!」
母 「恥ずかしい試合をしないでちょうだい」
父 「小3にもなって、試合中に弱気になりやがって。県外の試合にわざわざ連れてきてやったのに」
母 「ここまでくるお金がもったいなかったわね。明日からの特訓メニューを増やさなきゃ」
試合に負けた七森が一番悔しいのに、ガミガミ文句を言う両親。
現実七森(毎日の頑張りを認めて欲しかった。たった一つでもいいから、試合で良かったところを誉めて欲しかった)
父 「智也の長男は決勝まで勝ち進んだのか。さすがだな」
母 「応援しなきゃね。律希はペンとノートを持って、智成くんの試合のいいところをメモするように。わかった?」
泣きそうな顔でうつむいたまま、こくりとうなづいた七森。
2階の観覧席から、決勝戦を見ている七森家族3人。
七森だけ一人で、親の後ろの列に座っている。
父 「見たか、今のスマッシュはいいコースだったな」
母 「守りもうまいわね。どうやったら律希も智成くんみたいになれるのかしら」
七森(ごめんね、出来の悪い僕がお父さんとお母さんの子供で。もう嫌だ、バドミントンなんてやめてやる!)
ノートを閉じ、静かに立ち上がった七森。
両親に気づかれないように、そうっと体育館の外に逃げ出した。
県外の知らない土地を、うつむきながら泣きそうな顔で歩く小3の七森。
川沿いの川より高い歩道を歩いていると、しゃがみこんでいる男の子の背中が見えた。
七森と同じ小3くらい。
スポーツTシャツにひざ丈ズボン。
バドミントンラケットの布袋を背負っている。
なかなか立ち上がらないので、何かあったのかと思い七森は男の子の背後に近づく。
九重「痛っ」
七森「えっ、大丈夫?」
七森の声にびっくりして、男の子がしゃがんだまま振り返った。
栗色の髪を揺らし、キョトンとしたグリグリお目目で、七森を見上げている。
七森「いま痛いって聞こえたから、なにかあったのかなって」
九重「あぁ、この子が暴れるんだよ」
立ち上がった九重が、おにぎりを握るように優しく包んでいた両手を少しだけ開いた。
覗き込む七森。
中には小さなさわ蟹が1匹だけいる。
七森「カニを捕まえてたの?」
九重「違う違う、レスキュー」
七森「助けてあげたってこと?」
九重「ずっと川の中にいればいいのに。カニたちも冒険したいか、ここまで来るってことは」
川、斜めになっている草むら堤防、二人がいる歩道まで目でたどる七森。
七森「この坂を上ってくるの? この小さなカニが?」
九重「根性あるよね」
七森「すごい」
九重「安全地帯ならいいよ。冒険を楽しんでって感じじゃん。でもこの先は危いんだ」
七森「ほんとだ、車がビュンビュン通ってる」
九重「ひかれちゃうカニとか、太陽ガンガンで干からびちゃうカニとかたまにいるから、見つけたらレスキューしてる」
現在七森(すごいと思った。俺は自分のことでいっぱいいっぱいだった。それなのにこの子は、カニを助けているなんて)
九重「あそこにもう一匹いる、捕まえて」
七森「僕が?」
九重「このままだと道路に出ちゃう、ひかれちゃう」
噛まれないか心配になりながらも、しゃがんでカニを手のひらに閉じ込める七森。
九重「一緒に川まで連れてってあげよう」
真っ白い歯でにカッと笑った九重のヤンチャ笑顔が可愛くて、ドクンと七森の胸が大きく跳ねる。
川岸まで降りてきた二人。
川を眺めるように並んでしゃがみこむ。
九重は包んでいた手を開き、カニに笑いかけた。
九重「川から道路までの大冒険、楽しかった?」
「こんな小さな体でこの坂を上りきるなんてさすが。ほんとすごい。俺も見習わないと」
「でももう道路に出ちゃダメだよ。川の中で思いきり楽しんで」
川辺にサワガニを逃がしてあげた九重。
七森(カニを誉める人なんて初めて)
カニを見つめる横顔が大人びていて、七森はカニを手に閉じ込めたまま見とれてしまった。
真横を向いた九重と視線が絡み、七森は恥ずかしくなってカニをそっと逃がす。
七森「バイバイ、元気でね」
クスクス笑いご声が聞こえ横を向くと、九重が七森を見ながら満足そうに笑っていた。
七森「なに?」
九重「おとなしそうに見えるのに、カニ触れるんだ」
七森「君が言ったでしょ、ひかれちゃうって、だから何とかしなきゃって」
九重「優しいね」
七森(え、ほめられた?)
飛びきりの笑顔で褒められ、なぜかわからず顔面が真っ赤になってしまう七森。
くすぐったい心臓に手を当てる。
九重「じゃあ俺たちは、今だけカニレスキューチームのバディっていうことで」
七森「バディ?」
九重「二人でなら、何をやっても最強ってこと」
七森「アハハ、なにそれ、絶対に意味ちがうよ」
バドミントンのことで親に怒られてばかりでふさぎ込んでいた七森が、久々に思いきり笑った。
七森(僕ってこんなに笑えるんだ)
涙が出るほど楽しくて、笑いながら指で目じりを拭う。
九重「お腹すいた。今日の夕飯なにかな」
七森(この子が帰っちゃう。嫌だ、もっと一緒にいたい)
七森は勇気を出して、九重の背中に人差し指を向けた。
七森「やってるの? バドミントン」
九重「(背中のラケットケースをチラ見して)ああ、これね。うん、自主練の帰り」
七森「僕もバドミントンやってるよ」
九重「どこの小学校? どこかのクラブチームに入ってる?」
目を輝かせ、七森に迫る九重。
七森の両肩に手を置き、キラキラな瞳を輝かせている。
七森「遠くの県に住んでる。学校の名前を言ってもわからないと思う」
「そっか」と残念がった九重が、七森から離れた。
でもまたすぐに、九重の顔が太陽みたいに煌めきだす。
九重「時間ある? バドミントンしよ。ラケット2本持ってるんだ。シャトルもあるし」
七森「やりたい」
九重「よっしゃあ!」
九重に連れられ、すぐ近くの広場に。
木の枝を使って、九重が適当にコートを地面に書く。
七森「風がなくてラッキーだね」
九重「そういえば名前聞いてなかった。俺はとうま。九重灯真」
七森「僕は律希です」
九重「じゃあリッキーで。手加減なしだからね」
七森「うん」
ワクワクしながら「お願いします」と握手を交わす二人。
試合開始、九重が大きくサーブを打った。
長くラリーが続く。
お互い前に落としたり、スマッシュしたり、相手を前後左右に揺さぶったり。
鋭いスマッシュが来ると身構えた九重だったが、七森はスマッシュを打つと見せかけドロップで九重の前方に落とした。
ふいをつかれ思いきり右足を延ばした九重だったが、ラケットは届かずシャトルは地面に落ちた。
九重「くっそー!」
悔しくて叫んだ九重は、右足を延ばした開脚からお尻をつき、そのまま地面にねそべった。
青空を見上げながら、仰向けでケラケラと楽しそうに笑っている。
九重「アハハ、めっちゃ楽しい!」
起き上がり、七森のところに走る。
九重「バドミントンすごく上手なんだね。最後のなんてめっちゃ早いマッハ新幹線スマッシュが来るかと思ったのに、あのフォームで前に落とすなんて」
七森「バドミントンがうまい? それって僕のこと?」
九重「俺はおばけとバドミントンをしてるんですか? 俺の目の前にいるのは、リッキーじゃないんですか?」
七森「でも僕は怒られてばっかで……お父さんたちに褒められたことがなくて……だから信じられなくて……」
九重「リッキーはすごい! 俺の入ってるバドミントンチームの誰よりもうまい! だから一緒にバドミントンやるのめっちゃ楽しい!」
嬉しい気持ちがあふれて来て、泣きそうな顔で微笑む七森。
九重「今度はリッキーがサーブね」
九重からシャトルを手渡され、とびきりの笑顔でウンとうなづく。
バドミントンのラリー再開。
七森がいい技を繰り出すたび、九重が全力で褒めまくってくれる。
七森(バドミントンってこんなに楽しかったんだ)
ビュービューと風が吹き出した。
シャトルが飛ばされ、うまくラリーが続かない。
九重「風が吹いてきちゃったか。残念だけどここまで」
七森(あぁ、終わっちゃった)
九重「もっとリッキーとバドミントンやりたかったな」
七森「僕もやりたかった。とうま君ラケットありがとう」
ラケットを九重に返す七森。
九重「また一緒にバドやろう。って、リッキーはどこに住んでるの?」
七森「僕は……」
七森母「こんなところにいたのね!」
鬼の形相で駆けてくる七森母。
怒られるのが怖くて縮こまる七森。
七森母「探し回ったんだからね。さぁ体育館に戻るわよ」
母親に手を引っ張られ、悲しい顔をした七森は引きずられていく。
九重「また一緒に、カニ助けようね。バドミントンやろうね」
七森「うん、またね」
大声で叫ぶ九重が両手ピースを突き出し、第二関節をまげカニカニ。
七森もまたねと言いながら、母親に引っ張られていないほうの手でカニカニ。
九重が小4、七森が小3のできごと。
〇現在に戻る。
寮の部屋。ローテーブルの前に座る七森。
七森に背を向けベッドに寝転んでいる九重。
七森は九重をチラ見して、いろんな感情を抱く。
七森(もう一度会いたくて、必死にあなたを探しました)
(小3の傷ついていた俺は、あなたに心を救われたんです)
(カニにまで優しくほめるあなたが、まぶしくてたまりませんでした)
(俺が抱くあなたへの感情は、憧れなのか執着なのか恋心なのかわかりません)
(でも、あなたを独り占めしたい)
(俺だけを見つめて、俺だけに笑いかけて欲しい)
(とうま君……いえ、九重先輩。いつか俺の醜い欲望を満たしてください)
(あなた以外、誰にも興味がわかないので)
キラキラとんがり帽子、蝶ネクタイ、たすきを机の上に置き、立ち上がってベッドに近づく七森。
七森(寝てる?)
見下ろすと、七森に背を向けるように横向きで寝ている九重の姿が。
ベッドには、さっきまで九重がかぶっていたとんがり帽子が転がっている。
七森(部活で疲れている中、親睦会を開いてくれたんですね。嬉しいです)
(寝顔かわいい、小4のとうま君もヤンチャでかわいかったな)
寝顔を拝んで、つい口元が緩む七森。
七森(でも今は、可愛いだけじゃないんだよね)
笑みを消し、スポーツで引き締まった体を見つめる七森。
Tシャツのすそからお腹がチラッと見えている。
割れている腹筋に胸キュンのようなゾクゾクを感じた七森は、九重の腹筋を触りたいと手を伸ばす。
その時、九重が七森の方に寝返りをうった。
驚いた&ベッドから落ちないか心配になった七森。
九重を守ろうとベッドの端にお尻をつき、覆いかぶさるように九重の顔の横に両手をつく。
七森のサラサラな髪が顔を撫で、違和感で目を開けた九重。
目の前に七森の王子様顔ドアップで、まだ夢の中なのかもとボーっと七森を見上げ続けてしまう。
数秒間見つめあう二人。
お互い顔の熱がジクジク上がっていく。
廊下を歩く寮生の笑い声が二人の耳に届き、ハッとなって二人とも離れた。
九重は壁の方を向いてベッドの上で三角座り。
七森もてんぱり、九重がいるベッドとは反対側の壁にある勉強机の椅子に座り、お互いが背を向けあっている。
襲おうとしていたわけではないと弁解したい七森。
七森「九重先輩がベッドから落ちるんじゃないかと思って」
九重「助けてくれたんだ。俺の方こそごめん。睡魔に襲われた。秒で夢の世界に蹴落とされたみたい」
恥ずかしさが抜けない二人の声は、ちょっとうわづっている。
部屋の中がシーンと静かになった。
恥ずかしさと気まずさが拭えない二人。
九重はベッドの上で三角座りをして、真っ赤になった顔をひざにうずめている。
九重(ビビった。童話から出てきた王子様に襲われるかと思った///)
七森は椅子に座ったまま、机に両膝をついて頭を抱えている。
七森(腕の筋力が弱かったら、キスしてたかも///)
七森・九重(やばい、顔面直視ムリ///)
二人とも顔面真っ赤な照れ顔で、第3話終了。


