君が私を忘れたことを、私はよかったと笑いたい

《今の俺へ。
お前はきっと、病気によって奈子ちゃんを拒絶し続ける。
でも、いつか絶対に後悔する日がやってくる》

心臓に、直接重しを括りつけられたみたいに息が苦しかった。
開きっぱなしになっていた引き出しの奥には、まだ何かが隠されていた。

引っ張り出したそれは、アルバムだ。

白石奈子と俺が二人で映っている写真。
二人とも上手く収まっているものもあれば、俺の顔が見切れていたり、白石奈子が半目になっているものもあった。
二人で海に行った時の写真。

スマホで撮ったのであろう写真や、インスタントカメラで撮ったらしい写真まで。
様々な写真が現像され、丁寧にファイリングされていた。

そして―――二人で撮った写真以上に、白石奈子の写真ばかりがそこにはあった。

しゃがみ込み、波辺で真剣に貝殻を拾う横顔。
手に持ったクレープのクリームを鼻先につけて、振り返った顔。
ピアノを弾いている姿。

大口を開けて、無邪気に、無防備な笑顔―――その写真には、涙が滲んだ跡が残っていた。

かつての俺が、愛した白石奈子の姿がそこにはあった。

短く荒い息を吐き出す。
ぐちゃぐちゃにかき乱される感情に胸を埋め尽くされて、今にも叫び出しそうだった。

本当に、これでいいのか。

耳鳴りがする。頭を抱えながら椅子にうずくまった。

会いたくない。会えば、自分が壊れる気がする。

”いつか絶対に後悔する日がやってくる”
目を閉じても、先ほど見た文面が、何度もリフレインする。
このまま会わなければ、本当に後悔するんじゃないか。

答えは、もうすでに出ていた。