君が私を忘れたことを、私はよかったと笑いたい

連れてこられたのは校舎裏―――人目のない場所。
冬の冷気がまだ残っている風が頬を撫でていく。

宮野は、真正面から俺を見据えて言った。

「奈子が……病気なの。
それで今、入院してる」

白石奈子が―――病気?

一瞬、胸の奥がざらりと波立った。
でもすぐに、頭の中で理屈が追いかけてきて、心を押さえつける。

「……だから何?」

表情を変えないまま、尋ね返す。
己の声は、何の感情を乗っていないかのように冷ややかだった。

宮野の目が、怒りで揺れた。

「……片思い病が、何よ。
見てるこっちが引くくらい奈子を想ってて、大切にしてたくせに……なんで病気なんかに負けてんのよ」

怒りの中に悲しみが混じった視線が、俺を射抜く。

「あんたの愛って、所詮そんなもんだったんだ?」

今の俺にとっては、何の意味もない言葉だったはずだ。
何をどう言われようと、俺の中にそんなものはもう存在しない。

―――それなのに。

心のどこかが、軋んだ音を立てる。
それは確かに痛みと呼ぶべきものだった。

「結局、何が言いたいの」

僅かに揺れる心を悟られないためには、それだけを言うのが限界だった。

宮野が一枚の紙切れを、俺に押しつけるように渡す。

「今の奈子の姿を見ても、なんとも思わないなら……アンタなんか、もう二度と奈子に会わせない」

宮野の声は震えていたが、決意は揺るがなかった。
紙切れに書かれていたのは、病室の番号と病院名。

指先がかすかに震えていたのは、宮野か―――それとも俺か。

手の中でくしゃりと丸まった紙切れは、それでも捨てることができなかった。