君が私を忘れたことを、私はよかったと笑いたい

side:恭介

ああ、まただ。
足りない、これは違うと叫んでいる。

大切だったはずなんだ。
何よりも、命にかえても惜しくないくらい。

それならば、どうして今隣には“あの子”がいない?


そこではっと目が覚めた。
季節は冬だというのに、体はじっとりと汗ばんでいる。
舌打ちしたくなるような、目覚めの悪い朝だった。

見た夢の内容なんて、起きた時は覚えちゃいない。
しかし決まって残っているのは、得体の知れない焦燥感、渇望感。

「……毎度毎度、飽きやしないな」

―――いつも、欠けた何かを探している。



いつも通り退屈な授業を聞いて、時間が過ぎていく。
昼休みになると、美優からメッセージが届いていた。

“バレー部のミーティングが入っちゃったから、今日はそっちに行ってきます“

恋人になってから、昼食は美優と一緒にとるのが常になっていた。
美優が手作り弁当を持って来たのがきっかけだったと思う。

手短に了承に旨を返して、スマホをポケットに押し込む。
飲み物で買おうと廊下に出た時だった。

「立花」

呼び止められて振り向けば、一人の女子と目が合った。

仁王立ちするかのように立ち、どこか敵意すら感じさせる目でこちらを見据える―――宮野彩音。

その姿を見れば、自然とある一人を連想させる。
……白石奈子。
その親友が、この宮野だ。

片思い病になって、失ったのは白石奈子との記憶だけだ。
だから、宮野といくらか交流があったことは覚えている。

しかしそれも、白石奈子あってのこと。
今の俺たちが交流する理由はないはずだった。

「何」

手短に、用件を問う。
今日は特に、朝から体が怠い。
面倒臭いことは御免だと、踵を返したくなった。

「話がある。
……ここじゃ何だから、ちょっとついてきて」

そう言って、返事も待たず歩き始める宮野。
やはり面倒なことになりそうで、自然とため息が漏れた。