「美優!」
走ってきたのは、恭介だった。
息を切らしながら、美優の元に駆け寄る。
「何してんの……なんで泣かされてるの」
美優の涙を認め、恭介の声のトーンが下がる。
美優を自分の後ろに隠した恭介の、鋭い視線が私を射抜いた。
嫌悪と怒りのこもった冷たい瞳。
かつて私を愛してくれた優しい眼差しは、どこにもない。
「ち、違うんです。白石先輩は悪くなくて……っ」
涙声で訴える美優。
「いいから、後ろにいて」
まるで少女漫画の大切に守られるヒロインと、ヒーローだ。
「……本当にさぁ、不快なんだよ。あんたの存在」
そんな言葉を、恭介の顔で、恭介の声で―――言ってほしくなかった。
「もう俺たちには何の関係も、必要もない。
頼むからもう二度と、俺にも美優にも関わらないで」
そう言い捨て、恭介は美優の手を引き去っていった。
美優だけは、恭介に手を引かれながらこちらをちらちらと振り返る。
私は何も言えなくて、そのままやがて二人の姿が見えなくなるまでただ立ち尽くしていた。
あまりにも静かに、あまりにも当然のように、私は“過去の人”として扱われた。
気づけば、膝が震えていた。
ふらりと足がもつれて、地面に座り込む。
手をつき、空を見上げた。
高く澄んだ青空がまぶしくて、苦しい。
声にならない嗚咽が、喉の奥で暴れ出した。唇を噛んでも、涙は止まらない。
「なんで……」
誰に向けたわけでもないその言葉を、風がさらっていく。
そんな時、声がした。
駆けてくる足音。
「白石さん……!」
その声の持ち主を知っていたけれど、顔を上げられなかった。
こんな風にぐしゃぐしゃな、情けない姿を見られたくない。
そう思っても、涙が止まらない。
しゃがみ込んだその人は、何も言わずに、私をそっと抱きしめた。
「……っ……は、しだくん……」
掠れた声がこぼれる。震える肩を、橋田くんの腕がやさしく包み込む。
「泣いていいよ。……泣きたいときは、無理しなくていい」
いつも通りの、優しい声が胸に響く。
堰を切ったように、涙があふれた。堪えていた言葉も、涙に混ざって流れていく。
「……恭介が……恭介が……もう、いないの……っ」
橋田くんは何も言わなかった。
ただ、苦しみを受け止めるように、私の背を優しく撫で続けていた。
どれくらいそうしていただろう。
ようやく涙が落ち着き、少し顔を上げると、まるでそこだけ雨に降られたかのように橋田くんのシャツが濡れていた。
「ご、めん……シャツが……」
それに気づいた橋田くんがほんの少し照れたように笑い、私の肩を支えて立ち上がらせる。
そして、優しい目でまっすぐに見つめてきた。
「俺じゃ……だめかな?」
思わず息をのんだ。
その瞳には、同情でも慰めでもない、確かな想いが宿っていた。
「ずっと、好きだったんだ。白石さんのこと」
ああ―――また、世界が変わる音がする。
走ってきたのは、恭介だった。
息を切らしながら、美優の元に駆け寄る。
「何してんの……なんで泣かされてるの」
美優の涙を認め、恭介の声のトーンが下がる。
美優を自分の後ろに隠した恭介の、鋭い視線が私を射抜いた。
嫌悪と怒りのこもった冷たい瞳。
かつて私を愛してくれた優しい眼差しは、どこにもない。
「ち、違うんです。白石先輩は悪くなくて……っ」
涙声で訴える美優。
「いいから、後ろにいて」
まるで少女漫画の大切に守られるヒロインと、ヒーローだ。
「……本当にさぁ、不快なんだよ。あんたの存在」
そんな言葉を、恭介の顔で、恭介の声で―――言ってほしくなかった。
「もう俺たちには何の関係も、必要もない。
頼むからもう二度と、俺にも美優にも関わらないで」
そう言い捨て、恭介は美優の手を引き去っていった。
美優だけは、恭介に手を引かれながらこちらをちらちらと振り返る。
私は何も言えなくて、そのままやがて二人の姿が見えなくなるまでただ立ち尽くしていた。
あまりにも静かに、あまりにも当然のように、私は“過去の人”として扱われた。
気づけば、膝が震えていた。
ふらりと足がもつれて、地面に座り込む。
手をつき、空を見上げた。
高く澄んだ青空がまぶしくて、苦しい。
声にならない嗚咽が、喉の奥で暴れ出した。唇を噛んでも、涙は止まらない。
「なんで……」
誰に向けたわけでもないその言葉を、風がさらっていく。
そんな時、声がした。
駆けてくる足音。
「白石さん……!」
その声の持ち主を知っていたけれど、顔を上げられなかった。
こんな風にぐしゃぐしゃな、情けない姿を見られたくない。
そう思っても、涙が止まらない。
しゃがみ込んだその人は、何も言わずに、私をそっと抱きしめた。
「……っ……は、しだくん……」
掠れた声がこぼれる。震える肩を、橋田くんの腕がやさしく包み込む。
「泣いていいよ。……泣きたいときは、無理しなくていい」
いつも通りの、優しい声が胸に響く。
堰を切ったように、涙があふれた。堪えていた言葉も、涙に混ざって流れていく。
「……恭介が……恭介が……もう、いないの……っ」
橋田くんは何も言わなかった。
ただ、苦しみを受け止めるように、私の背を優しく撫で続けていた。
どれくらいそうしていただろう。
ようやく涙が落ち着き、少し顔を上げると、まるでそこだけ雨に降られたかのように橋田くんのシャツが濡れていた。
「ご、めん……シャツが……」
それに気づいた橋田くんがほんの少し照れたように笑い、私の肩を支えて立ち上がらせる。
そして、優しい目でまっすぐに見つめてきた。
「俺じゃ……だめかな?」
思わず息をのんだ。
その瞳には、同情でも慰めでもない、確かな想いが宿っていた。
「ずっと、好きだったんだ。白石さんのこと」
ああ―――また、世界が変わる音がする。
