君が私を忘れたことを、私はよかったと笑いたい

「今日部活休みだしさ、久しぶりにクレープ食べに行かない?」

「いいね。彩音はいつものおかず系?」

「どうしよっかな〜なんか今は甘いのも食べたい気分」

昼食を終えた休み時間。
実は剣道部に所属している彩音だが、今日は週に一度の休みの日なのだと言う。
そんな彩音と食べたいクレープのことを話していたら、目的地の自動販売機にはすぐにたどり着いた。

「えー大丈夫だって!
だって立花先輩とは最近仲良いんでしょ?」

そこには二人の先客がいた。

「仲良いっていうか……委員会が一緒で、最近よく喋るようになっただけだよ」

―――あ。あの子、食堂の……。

その内の一人は、どこが見覚えのある顔をしていた。
恭介が珍しく笑いかけていた、あの時の女子生徒だとすぐに気づいた。

「いーやそれは脈アリだね。
立花先輩って塩対応で有名らしいのに、美優とだけそうなんでしょ?」

「うーん……」

美優。その名前がやけに頭に残る。
今の恭介と、いつの間にか仲良くなった女の子。
知らずのうちに鼓動が早まって、耳は鮮明に会話を拾ってしまう。

「とりあえずさ、バレーの試合は来てくださいって誘ってみなよ。
いつやるんだっけ?」

「来月の三日のお昼から。
でも急に誘うなんてウザくないかなあ」

その日は、ピアノのコンサート当日。
私が恭介を誘ったのと同じ日時だった。

「あ……すいません!」

そこで私たちが後ろで待っていたことに気づき、美優とその友だちは慌ててその場を退いた。

「じゃあ、誘ってみようかな。緊張するー……!」

笑顔で立ち去っていく後ろ姿を見つめながら、じっとりと汗をかいた手のひらを握る。
あの子が今から恭介を誘ったら……恭介は、そちらに行ってしまうのだろうか。

「……奈子からの誘いが先約だし、普通はそっちを優先するよね。
というかしなかったらキレる」

私が恭介をコンサートに誘ったことは、彩音も知っている。
私以上のしかめっ面をして、彼女たちが立ち去った方向を見つめる彩音。

「……そうだといいな」

つい弱気に言葉を返せば、彩音が私の背中をポンと叩いた。

「よっし、今日はクレープ奢ってあげる!
おかず系でも甘い系でも、いっそ二個ともいっちゃお!
そんでばっちり元気出して、最高の演奏を立花に聴かせてやろうじゃない」

「……ありがとうう……私も彩音にクレープ奢るからぁぁ……」

「ふふっ。それ奢りにならなくない?」

辛い時に、いつも寄り添ってくれる彩音。
彩音の存在に、私はいつも救われている。
そう実感しながら飲んだミルクティーは、ちょっぴり涙の味がした。