ピアノの下

今、身体中に響く彼の音を聴いている。頭の上から足の裏まで心地好くしびれさせる音を。
ピアノの中の弦のように僕の身体をはじいて鳴らす。血管の1本1本にまで届く音。生々しい音。生きている者が奏でる旋律を。
(熱い涙を止められない)

彼がピアノを奏でている。その音が僕の身体をふるわせている。
彼が僕を奏でている。生きていることを忘れていた僕を蘇生させ、「苦しい」と言う言葉を思い出させた。
僕は、今、泣いている。
僕は、17歳で、
僕は、人間だった。
(当たり前のことでさえ、今の今まで思い出せずにいた)

「そんなに泣きじゃくるくらい、俺の演奏は良かったか」

気がついたら、
彼はピアノの下にいた。制服の黒糖色のズボンの尻を床にぺったりとつけて。
僕はまるで水と酸素を求めるかのように両腕を彼の方に伸ばした。
「けっこう可愛いとこあんじゃん。おまえ」
彼がそう言ってくすっと笑った。春のあたたかさを感じる声だった。今にも桜が咲きだしそうにあたたかい声に包まれ、
僕はまた涙をこぼす。